なぜ、多くの日本人は「マンガでわかる○○」を読むのか?

昨今、マンガを使った技術解説や、ビジネスシーンの描写をよく目にします。いま、なぜ企業のマンガ活用が進んでいるのでしょうか。日本ならではの文化的背景を踏まえて、理由をひも解き、具体例を挙げながら、マンガがもたらすビジネス面でのメリットや効果を考察します。

いま、なぜ企業のマンガ活用が進んでいるのでしょうか。日本ならではの文化的背景を踏まえて、マンガがもたらすビジネス面でのメリットや効果を考察します。

世界が認めるマンガ大国、日本の歴史をひも解く

「マンガ(漫画)」は、子どもから大人まで幅広い層に愛されているエンターテインメントなコンテンツです。日本のみならず日本発のマンガ(manga)コミック、そこから派生したアニメーション(ジャパニメーション)、実写映画、さらには二次創作の同人誌、コスプレなども世界中で愛されています。

日本におけるマンガの発祥については諸説ありますが、有力とされるのが平安時代の絵巻物「鳥獣人物戯画(鳥獣戯画)」で、カエルとウサギが相撲をとっている絵で知られています。では、「マンガ」という言葉が登場したのは。いつごろなのでしょうか。どうやら明治の中期以降に、滑稽さ、風刺性、物語性などを持った絵画作品をマンガ(漫画)と呼び始めたようです。ちなみに江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎のスケッチ集に「北斎漫画」がありますが、こちらは「漫然と描かれた絵」を意味し、現代の意味とは異なります。ですから、文明開化以降にマンガという言葉が生まれたと考えるべきでしょう。

とはいえ明治、大正、昭和の戦前にかけては、マンガは現在のような盛り上がりを見せてはいませんでした。昭和初期には、雑誌『少年倶楽部』で田河水泡の『のらくろ』シリーズ、朝日新聞の横山隆一『フクちゃん』などが人気でしたが、当時、雑誌や単行本は一般家庭の子どもたちには高嶺の花。もっぱら、おこづかいで楽しめる、広場や公園などで行われる「紙芝居」がブームになっていました。

戦後、紙芝居に代わってイラストと文章による絵物語「赤本」がブームになりますが、その火付け役となったのがマンガの神様、手塚治虫です。まとまったストーリーを展開する方法を確立し、描き下ろした長編作品『新宝島』(1947年)は多くの子どもたちが夢中になりました。しかし、1950年代後半に物価上昇の影響などで赤本が終焉を迎え、替わって安価にマンガを貸し出す貸本マンガが主流になっていきます。そして1959年に初の少年週刊漫画雑誌『少年マガジン』(講談社)、『少年サンデー』(小学館)が相次いで創刊。貸本マンガ作家の白土三平、さいとう・たかを、水木しげる、楳図かずお、児童マンガ作家であった手塚治虫、赤塚不二夫、藤子不二雄、石森章太郎などが続々と人気作品を発表していきます。

高度経済成長でマンガを大人が読む文化が浸透

1960年代以降、日本のマンガは徐々に「少年マンガ」「少女マンガ」「劇画」「大人マンガ」の4ジャンルに収束していきます。一方で1961年、教材としての漫画・学習漫画『サイエンス君の世界旅行』シリーズが第7回小学館漫画賞を受賞。以降、学習漫画は児童向け漫画の一大ジャンルとして発展していきます。これが現在の「マンガでわかる○○」、楽しみながら学ぶ・知る、エデュテインメントのルーツといえるかもしれません。

1960~70年代には学生運動が活性化。1969年の早稲田大学新聞には「右手にジャーナル(朝日ジャーナル)、左手にマガジン(少年マガジン)」と書かれており、多くの大学生にマンガが読まれていたことが伺えます。当時の少年マガジンの看板は、ちばてつや・梶原一騎コンビの『あしたのジョー』。主人公のライバル、力石徹が作中で亡くなった際には実際の葬儀が行われ、全国から700人超のファンが弔問に訪れたといいます。さらに「よど号ハイジャック事件」で犯人が残した声明文は「我々はあしたのジョーである」です。これは、主人公ジョーのように「真っ白な灰になるまで闘い抜く」決意を主張したものだと考えられます。良くも悪くも、世の中を騒がせたニュースに登場するほど、日本のマンガ文化が世代を超えて根付き始めていたということでしょう。

ここで、話は少し遡ります。現代ではマンガのTVアニメ化、映画化、ゲーム化、ノベライズといった「メディアミックス」は一般的ですが、そのパイオニアは、やはり手塚治虫でした。1963年、手塚は海外輸出を前提としたテレビアニメ作品の制作を開始します。以降、従来の実写ドラマ化、ラジオドラマ化に加え、雑誌の原作マンガとTVアニメ放送とのメディアミックスが増えていきました。

TVアニメ化され、大ヒットした代表的なマンガ作品を年代別に挙げていきます。『うる星やつら』(1981年)、『北斗の拳』(1984年)、『ドラゴンボールZ』(1989年)、『美少女戦士セーラームーン』(1993年)、『ラブひな』(2000年)、『鋼の錬金術師』(2003年)、『進撃の巨人』(2013年)、『おそ松さん』(2105年)、『鬼滅の刃』(2019年)などです。ご存じの方も多いのではないでしょうか。

ちなみに『鬼滅の刃』は、コロナ禍の“おうち時間”が増えたことで多くの在宅ワーカーがTVアニメを視聴。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)が、歴代アニメ映画で不動のトップだった『千と千尋の神隠し』(2001年)の興行収入を20年ぶりに更新したことが話題になりました。アニメ、映画のメガヒットで原作マンガがベストセラーの上位を独占するという、メディアミックスの効果も絶大でした。もはやマンガはメディアミックスにより、日本中に広く認知されているといえるでしょう。そして「Manga」として、日本の「クールジャパン戦略」の一角を占めるキラーコンテンツであることは言うまでもありません。

日本人の4人のうち3人が「マンガ好き」と回答

現代はインターネット、スマートフォンの普及に伴い、マンガ文化の多様化が進んでいます。Webブラウザーや配信アプリを通じて読む電子書籍やWebコミックというデジタルコンテンツが普及したことで、マンガのタッチポイントは若年層を中心に広く拡大しています。今回のテーマである「マンガでわかる○○」という教材的な意味合いを持つコンテンツに限らず、専門的な知識が楽しく学べるマンガ作品も数多くあります。

リアルな世界動向が学べる『ゴルゴ13』(さいとうたかを)、ビジネストレンドがわかりやすく読める『島耕作シリーズ』(弘兼憲史)、新しいところでは。体内の細胞やウイルスを擬人化して人体の仕組みを解説した『はたらく細胞』(清水茜)などは代表的な「学べるマンガ」といえるでしょう。

少々昔のデータですが、2012年の「マンガに関するアンケート」に関する調査結果(gooリサーチ)によると、全体(15~44歳)の約75%が「マンガが好き」と回答しています。さらに男性では39歳以下で80%以上、女性も29歳以下で80%以上がマンガを読んでいる結果が出ています。比較的、男性の方が女性よりも年齢層が高くなってもマンガを読む傾向があるようです。

マンガ雑誌や週刊誌といったコミック誌が電子化され定期的に配信された場合、利用意向があるのは全体の21.7%、現在コミック誌を定期購読している人に限ると35.2%、有料電子コミックを読んでいる人に限ると48.6%でした。さらに、現在コミック誌を読んでいなくても15.7%が電子化されたら利用したいと回答、電子化されたらコミック誌を読む層が少なからずいることがわかります。

この調査から10年を経た現在、数多くの基本無料のマンガアプリが世に出ています。ついつい続きが気になって課金した経験がある方も多いのではないでしょうか。そのほかにも「Amazon Kindle Unlimited」といった書籍に加えてマンガが読み放題のサブスクリプションサービスも人気です。紙からデジタルへ姿を変えても、この先も多くの日本人にマンガコンテンツが愛され、読み継がれていくのは間違いないでしょう。

「マンガでわかる○○」系が愛される理由は「話が早い」こと

なぜ、ここまで日本でマンガ文化が花開いたのか文化的側面から考察していきます。日本語の表記は漢字、ひらがな、カタカナで構成されます。中国で生まれ、日本に伝来した漢字には、物の形をかたどって作った象形文字が多く含まれています。日本に伝来してから日本独自の漢字である万葉仮名(まんようがな)が生まれ、漢字を簡略化したひらがな、漢字の一部をとってカタカナが生まれました。

『火垂るの墓』『おもひでぽろぽろ』などで知られる映画監督の高畑勲は、この漢字仮名交じり文の日本語表記とマンガとの相性の良さがあるのではないかと推察しています。要約すると「日本人は漢字とひらがな、カタカナを脳の別々のところで認識することが脳科学の研究でわかっている」「漢字が絵から発達した象形文字ということもあり、マンガ的な面がある」「漢字を絵、読みをセリフに置き換えれば漢字仮名交じり文はマンガになってしまう」というものです(高畑勲『日本伝統文化に見るマンガ・アニメ的なるもの-その独自の発達と日本語-』より)。つまり、脳に複雑な認識能力を持っていることが、日本人に広くマンガが受け入れられる一因となっているのかもしれません。

もう1つ、日本人のマンガ好きを考察するうえで欠かせないのが「絵文字」の存在です。古くから日本では絵を文字として読ませる表現を使ってきました。代表的なものは枡を図式化した「〼」です。計量容器、区画としての「枡」の意味に加え、ですます調の「ます」、副詞の「ますます」などに置き換えて使われることもあります。「冷たい生ビールあり〼」といった張り紙などを目にしたこともあるのでは。

この日本発祥の絵文字文化は、1995年のポケットベルに採用された「♡」マークを皮切りに爆発的に普及。さらに1999年に発売されたインターネット対応の携帯電話「iモード」に多数の絵文字が採用されたことで、さまざまな絵文字が使われることが一般化しました。漢字かな交じり文を常用する日本人にとって絵文字は文字として認識しやすいことにも、マンガとの親和性の高さがあるのかもしれません。

現在は、スマホやPCにも絵文字は標準搭載されています。余談になりますが2015年4月、オバマ大統領が日本発祥で世界的に普及した代表的な文化のひとつとして「emoji」を挙げて日本首相に謝意を示しました。すでに日本発祥の絵文字文化はグローバルスタンダードになっているのです。

おそらく、混在した絵と文字を瞬時に認識できる能力が日本人に備わっているため、絵とフキダシ、複雑なコマ割りで構成されるマンガを読むのが苦にならない。むしろ文字だけの文章よりやさしい、わかりやすいというのが、日本でマンガ文化が成熟した一因になっているのではないでしょうか。

日本には古くから「百聞は一見に如かず」ということわざがあります。ビジネスのコミュニケーションでたとえるなら、文字だけの「メール」、声だけの「電話」より、映像でリアルタイムに相手の表情、様子がわかる「リモート会議」の方が圧倒的に効率的で話が早いことはおわかりかと思います。これは情報のインプットでも同じ。堅苦しい文章より見てわかるマンガを読んだ方が圧倒的に理解は早く、記憶にも定着しやすいのです。多くの企業が学習用、営業用ツールとして「マンガでわかる○○」に力を入れている理由はここにあります。

さらに、昨今では今日から仕事ですぐに使えるような、プロジェクトやマネジメントに関わる課題解決をやさしく解説している、おすすめのビジネスマンガを紹介する漫画ポータルサイトなども多くありますので、参考にされてはいかがでしょうか。

昨今、多くのビジネスマンが頭を抱えている問題の1つが、ICT領域の情報収集、ITトレンドなどの最新動向や知識のアップデートです。特に聞き慣れないはじめての用語が続々と登場するICT領域の記事に対して、じっくり読んでも内容が頭に入ってこない方、そもそも読むことすらおっくうと感じている方も多いでしょう。それならば、セキュリティ対策やAI(人工知能)そしてDXといった最新のICT情報はマンガで読めばいいのです。

たとえば、NTT Comが公開している「マンガ deウィズICT マンガでわかる!課題解決」には企業のセキュリティを強化し、DX推進を強力に後押しする「トータルマネージドソリューション」に関するマンガコンテンツが充実しています。さらに、エンドポイントセキュリティ、AWS、コンタクトセンターの課題解決につながるソリューションに関する、新着作品も続々と公開されています。楽しみながら読んで、2022年はICTに精通したビジネスパーソンになりませんか。

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