OODAループ思考がVUCA時代の道標に!
PDCAとの違いとは?図解で意味を解説

不確実性の高い状態が続いているVUCA時代において、思考法のフレームワーク「OODAループ思考」が今注目されています。OODAループ思考とは何か、PDCAサイクルとの違いは何か、VUCA時代においてなぜ有効なのか?変化の早いビジネス環境で柔軟な行動をマネジメントできるOODAについて具体的に解説していきます!

OODA

1. OODAループ思考を紐解く

まずはOODAについて解説していきます。はじめに読み方についてですが、OODAは「ウーダ」と読みます。耳なれない言葉かもしれませんが、このOODAとは、行動や判断を後回しにせず、早く決定し行動をしていくための思考法です。この思考法には4つのステップがあり、「みる」(観察:Observe)、「わかる」(状況把握:Orient)、「決める」(意思決定:Decide)、「動く」(行動:Act)で、それらの頭文字をとって、OODA(ウーダ)と呼ばれています。そしてこれら4つのステップを実行した結果について「ふりかえる」(ループ:Loop)を含めてOODAループ思考といいます。

みる、Observe、わかる、Orient、決める、Decide、動く、Act、ふりかえる、Loop

図1 OODAループ思考のステップ

OODAループ思考をつかうことで、判断と行動の先送りが減り、大きな失敗をするリスクが減少します。例えば、締め切りの近い課題に対して、詳しい先輩にアドバイスを求めたいけれど、自分でやるといった手前、相談しづらい…と悩んでいるうちに、期限間近になり焦っていい仕事ができなくなる…という経験をしたことはありませんか。行動を先送りしていると時間と選択肢が減り、本当はこうしたかった!ということを実現できなくなってしまいます。そのため、致命的な失敗は避けつつ、最速で行動することが重要になっていきます。

ちなみに、OODAループ思考を考案した人物は元アメリカ戦闘機パイロットだったジョン・ボイド氏です。彼は軍人でありながら研究熱心な人で、OODAループ思考を確立する過程において宮本武蔵の「五輪書(※1)」を大いに参考にしたそうです。
日本にあった実践法とのつながりがある思考法、と考えてみると親近感がわいてきます。

※1 五輪書とは武士のいる時代に、命のやり取りをする真剣勝負の中で作られた、勝つためになすことが書かれた実践本です。

2. OODAループ各ステップの特徴

次に、OODAループ思考それぞれの詳細な特徴をみていきましょう。

みる(観察:Observe)

OODAでいう「みる」とは、意識して周りや相手の心などを捉える「観る」に該当します。意識して観るとは、例えば工事現場における指差し確認があげられます。関心のないものや何か別のことに心をとらわれているときは、特に目の前にあるものや現象を知覚しにくくなります。そのことを知った上で意識して「みる」だけでも、見えてくるものは大きく変わります。これは行き慣れた現場での業務で実践すると、より見方の変化を実感しやすいでしょう。
また、宮本武蔵の五輪書の中でもみることの重要性は語られており、細部や表面上の動きをみる見方ではなく、物事の本質を見通す「観(かん)」の重要性を説いています。

わかる(状況把握:Orient)

「わかる」とは、見たもの、気づいたことを自分なりに理解して納得することをいいます。アメリカではOODAのOrientは「understand(理解する)」という言葉で紹介されています。私たちは何かを見るとき、自分が持っている世界観に照らし合わせ、それを理解することで納得します。この世界観が人によって異なるので、おのずと理解の仕方も変化していき、この違いが行動の差となって現れることになります。
その意味で、「わかる」とは判断する対象とその背景に対する認識(世界観)をセットで理解しようとする方法といえます。

決める(意思決定:Decide)

「決める」とは、どんな行動をとるのか、または何もしないのかを判断することです。私たちは大きいものから小さいものまで、日々膨大な数の判断をしています。OODAの「決める」は速さに価値を置くものなので、可能な限り直感のもとに判断することが基本となります。
目の前で起こっている事象が手持ちのパターンから一瞬で分かる場合は直感で決めて、逆に一瞬で分からない場合は時間が許す範囲でパターンを組み合わせて仮説を立て、検証していきます。同時に、直感の働く範囲を広げるために、「わかる(Orient)」で自身の世界観を広げていくことも重要となります。

動く(行動:Act)

「動く」とは、これまでの3つのプロセスの中ではシンプルなもので、成果が出るように最後までやり抜くことをいいます。直感で決定しているので確信が持てない状況で動くことによる不安もつきまとう場合がありますが、仮に失敗したとしても早期に気づける可能性が高くなります。
また、すべて行うと決めるのではなく、決める段階で「動かない」と判断する場合もあります。

ふりかえる(ループ:Loop)

OODAループの最後のプロセス「ふりかえる(Loop)」とは、動いた結果がどうだったのかを見直す工程をいいます。失敗に終わった場合は「わかる」に問題があった可能性が高くなるので、「みる」に立ち返りもう一度OODAのプロセスを回していきます。終わったことをあれこれ考えるのではなく、スピードを重視して立ち返りOODAループを回していくことが重要です。OODAを実践した結果が失敗だったとしても、結果を受け入れて新しい方法を試すだけです。例えばシリコンバレー企業では、過去のプロジェクトや年度を振り返ることは少なく、これからどうしたらいいかに焦点を当てて行動しています。
こうしてOODAループを何度も回すことで手持ちのパターンも増えていき、直感に磨きがかかるため、成果も出やすくなっていきます。

以上のOODAループを実践し、迅速に行動、結果を振り返ることで選択できるチャンスが増え、主導権を持った業務の遂行も期待できます。また、状況を熟知していき、ある程度結果を予測できるようになれば「みない」で「動く」といったステップのショートカットも可能となります。王道のOODAループよりもさらにスピーディーに、適切な行動へつなげることができるのも、OODAループのメリットです。

3. OODAと比較したPDCAなどのフレームワークとの違い

「OODAループ」と「PDCAサイクル」というように、OODAにはループ、PDCAにはサイクルと言葉が使い分けられています。ループとサイクルの違いにどんな意味があるのでしょうか。

ループ(Loop)は「輪の形、ものごとが繰り返す」という意味を持ち、状況に応じてみる(Observe)、わかる(Orient)、決める(Decide)、動く(Act)の任意の段階から進められるニュアンスを持ちます。一方、サイクル(cycle)は「周期的、規則的に繰り返される」という意味を持ち、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Act(改善)の順番で一方向へ進むニュアンスを持ちます。このように、Plan(計画)にもとづいて1周するPDCAサイクルに比べ、OODAループは各ステップに対しての自由度が高く、変化の多い状況下でも対応しやすいことが大きな違いといえます。

OODAループ思考とPDCAサイクルをはじめとしたフレームワークとの違いを簡単にまとめると、以下の図になります。

PDCA、サイクル、ロジカルシンキング、仮説思考、デザイン思考、OODA、ループ、正確性、迅速性、柔軟性

図2 各フレームワークの違い

フレームワークは使用する状況によって向き不向きがあります。各フレームワークと比較すると、OODAフレームワークは「迅速性」「柔軟性」に優れています。

また、各フレームワークとの大きな違いはショートカットができることです。例えば、みる(Observe)を省略した、「わかる→決める→動く」です。これは、シリコンバレーでイノベーションの仮説検証で採用されているサービス/製品開発手法で、

  • 顧客の心を動かすことを目的に(わかる)
  • 情報・経験を分解、組み合わせて出したアイデアを、コストを抑えて試作する(きめる)
  • 顧客へ試作サービス/製品を提供する(動く)
  • ユーザーの反応や意見から試作を練り直す(ふりかえる)

というステップに応用されています。

これにより、顧客の必要とするものだけを最速で無駄なく作ることができます。行動の結果が予測できない現代において、OODAループ思考は成功の保証がない状況下で必要なものを最速でアウトプットする際に力を発揮するメリットがあります。

4. なぜOODAループ思考がVUCA時代に注目されているのか

シリコンバレーでも活用されているOODAループ思考ですが、なぜ現代において注目を集めているのでしょうか。その理由として、世の中の不確実性の高さがあげられます。

経済産業省による「令和元年度 ものづくり基盤技術の振興施策」調査によると、パンデミックや貿易分野をはじめとする国家の政策をめぐる不確実性の高まりが、世界の政策不確実性指数(※2)の増加につながっています。

※2 政策不確実性指数:世界の主要新聞における政策をめぐる不確実性に関する用語の掲載頻度を指数化したものです。

不確実性指数、VUCA

図3 世界の政策不確実性指数(1997.1 - 2020.1)
出典:経済産業省|令和元年度 ものづくり基盤技術の振興施策

世界的な動向において不確実性の高い状況が続き、混沌とした情勢が「ニューノーマル(新常態)」になりはじめています。
企業にとっても不確定要素が多く、これまでの経験を役立てられない場面が頻出している状況を「VUCA時代」と呼んでいます。

VUCAとは「Volatility」(変動性)、「Uncertainty」(不確実性)、「Complexity」(複雑性)、「Ambiguity」(曖昧性)の頭文字をつなげた造語で、将来を予測することが困難な状況を表す言葉として用いられています。

VUCA、変動、Volatile、不確実、Uncertain、複雑、Complex、曖昧、Ambiguous

図4 VUCAの意味

未知の状況で、確実な予測が難しくなっているVUCA時代は、言い換えると「ものごとの変化が早い状況が続いている」とも考えられます。だからこそ、大きな失敗を回避しつつ変化に対して迅速かつ柔軟に対応できる必要があり、組織におけるマネジメントにおいても判断と行動の先送りが減るOODAループ思考が活用されるようになっています。

5. OODAの「みる(Observe)」は知覚力の向上にもつながる

VUCA時代は市場変化のスピードが早く、OODAは意思決定と軌道修正に適しているといえます。では具体的に、OODAをどのように活用していけばいいのか、一例として「みる(Observe)」について考えてみましょう。

「みる」とは「先入観を持たずありのままにみる」プロセスで、ビジネスにおいては市場データ、顧客のニーズなどの概況を観察し意思決定をする際に利用できます。しかし、単にみるといっても、私たちの目は1秒間に約30画像を受容するといわれており、日常的なPCやスマホでの「検索」を通して「探している特定のものに視線を向けること」に慣れているといわれています。では、「先入観を持たずありのままにみる」にはどうすればいいのでしょう。

私たちが情報を見るときに先入観に陥ってしまう理由の1つに、人間の視覚認知が眼だけでなく脳との連携によって起こる点があります。脳がその時に探しているものでフィルターをかけてしまうため、予期せぬ情報を知覚し損なう可能性が高まってしまいます。これは、ビジネスにおいて複雑なタスクや不慣れさ、多忙さ、集中力が求められる場合などに特に発生します。

OODAの「みる」はこうした「検索モードの眼」のような目的を持った見方ではなく、「目的を持たずに見ること」に重きを置くものなので、見ているものの部分と全体の両方を受け入れていくことで、新たな発見や発想へと導かれていきます。

こうしたイノベーティブな発想の多くは、目的を持たずに純粋に見ることから生まれてきます。例として、ルネサンス期を代表する芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチを取り上げてみましょう。レオナルド・ダ・ヴィンチは見ることへの探求が非常に深かったといわれています。実際に彼は約40年間にわたって書き綴った手稿とよばれるノートを残しており、現存する約5000ページと失われた約3分の2の全手稿を含めると、膨大なスケッチを残していることになります。中でも人体を解剖し構造を明らかにした解剖図のスケッチは非常に緻密といわれています。当時は解剖すると罪に問われる時代だったことから、「対象物を自分の目で見ること」への執拗なこだわりを感じます。こうした日常での質の高い「みる」の積み重ねによってレオナルド・ダ・ヴィンチの世界観も広がり、他の人では気づかない観点も知覚し、新たなアイデアを紡げたのかもしれません。よって、芸術から科学、解剖学、工学といった幅広い分野での名声にもつながったと考えられます。

このように、全体と細部の両方の事象を純粋に「みる」行為は自身の世界観を広げ、知覚できるものを増やすことにつながります。また、現代のような不透明性が高く、物事を純粋に見ることの価値が高まりつつある今、「みる」は知的生産も後押ししてくれます。OODAの「みる」はVUCA時代の中でも新たな発見や発想へと導くための心強い武器となってくれます。

6. OODAループ思考の「わかる(Orient)」が迅速な行動の鍵!

不確実性の高い状態が続いているVUCA時代にこそ効果的な活用が望めるOODAループ思考ですが、4つのプロセスの中でも特に重要なのが「わかる(Orient)」です。「わかる(Orient)」はその重要性から、「ビックオー」とも呼ばれています。
行動に移すための状況判断をするときに、目の前にあるものが何なのかが「わかる」と判断に曖昧さがなくなり、主体的で前向き、そしてスピード感のある行動につながります。VUCAでいうところの未知による複雑さ(Complex)、曖昧さ(Ambiguous)が少なくなり、予測もつきやすくなります。「わかる」範囲を広げていくことで、判断ミスも少なくなり、「動く」に集中できる状態になります。

NTT Comでは、お客さまICT環境の可視化を通して客観的な情報を収集し、より明確に状況が「わかる(Orient)」ソリューションを通して、OODAループ思考の迅速化、マネジメントに力を入れています。例えば、お客さまのエンドポイント(クライアント端末、サーバー)の状態をTanium(タニウム)を使用してリアルタイムに可視化し制御する「エンドポイントマネジメントソリューション」。マルチクラウド環境に最適なモニタリングを実現する「マルチクラウドマネジメント」。コンタクトセンターの運営状況や、お客さまとオペレーターの感情をAIで分析し、ダッシュボードで可視化する「コンタクトセンターKPI管理ソリューション」などです。

OODAループ思考は企業経営においても、個人レベルでも使えるモデルです。現場レベルでの業務から、組織における目標や戦略の設定まで、さまざまな場面で応用できるものです。つい正解を求めすぎ行動に移せないこともありますが、大きなリスクを避け、迅速に成果を出すためにOODAループ思考を活用してみてはいかがでしょうか。

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