マルチベンダーとは?
導入のメリット・デメリットや運用手順を解説

マルチベンダー体制を検討する中で、「コストや機能面では魅力的だが、運用が複雑になりそう」「ITベンダー間の調整や責任分界が不安」と感じている方もいるでしょう。複数のベンダーを組み合わせることで柔軟なシステム構成が可能になる一方、管理負荷やトラブル対応の難しさに悩むケースは少なくありません。

マルチベンダーの基本的な考え方、メリット・デメリット、導入時に押さえるべき運用手順、構築失敗を防ぐポイントを解説します。自社にマルチベンダー体制が適しているかを判断した上で、円滑かつ安定したIT運用を実現しましょう。

マルチベンダーとは?導入のメリット・デメリットや運用手順を解説

1. マルチベンダーとは

1. マルチベンダーとは

マルチベンダーとは、複数の異なるベンダー(供給業者)が提供する製品やサービスを組み合わせて、1つのシステムやIT環境を構築・運用する体制を指します。情報システム分野で用いられることが多く、サーバーやアプリケーション、クラウドサービスなどを必ずしも1社に統一せず、構成要素ごとに適した製品を選定するのが特徴です。

価格や性能、普及度などの観点に応じて柔軟な選択が可能で、特定のベンダーに依存するベンダーロックインを避けやすくなります。この考え方は「ベスト・オブ・ブリード(Best of Breed)」とも呼ばれ、業務領域ごとに最適な製品を組み合わせる手法として、SaaSの普及とともに広く採用されるようになっています。

1-1. マルチベンダーとシングルベンダーの違い

マルチベンダーとシングルベンダーの違いは、複数のベンダー製品を組み合わせて柔軟性を重視するか、1社の製品に統一して運用のしやすさを重視するかにあります。

シングルベンダーとは、特定の1社が提供する製品やサービスのみを用いてシステムを構築・運用する体制を指します。製品同士の互換性を考慮する必要が少なく、導入や管理が比較的容易で、ベンダー側の知識やサポートを受けやすい点が特徴です。

一方、マルチベンダーは複数のベンダー製品を組み合わせて利用する体制です。価格や機能、性能などを比較しながら、最適な構成を選択できます。その反面、ベンダー間の調整や管理が必要になります。

つまり、管理負荷を抑えてシンプルな運用を目指す場合はシングルベンダーが向いており、要件に応じた最適な組み合わせや将来的な拡張性を重視する場合にはマルチベンダーが選択肢となります。

シングルベンダーが多忙なIT部門を救う切り札になる

2. マルチベンダー体制のメリット

マルチベンダー体制には、コストや機能面で柔軟な選択ができる点をはじめ、特定のベンダーへの依存を避けられるなどのメリットがあります。ここでは、マルチベンダー体制ならではのメリットを解説します。

2-1. より多くの企業が参入することでコスト最適化を図りやすい

マルチベンダー体制では、複数のベンダーから見積りを取得し、価格や機能、提供範囲を比較検討できるため、コスト最適化を図りやすくなります。複数見積りによって価格競争が働きやすく、相場から大きく外れた提案を避けやすい点が特徴です。

また、業務に必要な機能のみを選び、不要な構成要素を省いたシステム設計を行えば、初期導入費用を抑えやすくなります。ベンダーごとに得意分野や価格体系が異なるため、要件に合った組み合わせを選ぶことで、運用コストも含めた総合的な費用対効果の向上が期待できます。

2-2. ベンダーロックインを防ぎやすくなる

マルチベンダー体制を採用することで、特定のベンダーに依存するベンダーロックインを防ぎやすくなります。シングルベンダーでは、独自技術や契約条件が制約となり、他社製品への切り替えに多大なコストや時間がかかる場合があります。

その点、複数のベンダーを組み合わせていれば、特定の技術や規格への依存を避けやすく、ベンダーの品質低下や方針変更が生じた際にも柔軟に対応できます。また、システムの冗長性を確保しやすく、トラブル発生時の影響を局所化できる点も、安定した運用を支える重要なメリットです。

2-3. 業務領域ごとに最適なシステムを選びやすくなる

マルチベンダー体制では、業務領域ごとに強みを持つベンダーを選定できるため、システム全体の最適化を図りやすくなります。ベンダーにはそれぞれ得意分野があり、ネットワークやセキュリティ対策、業務アプリケーションなど、専門性は異なります。領域ごとに適した製品を選ぶことで、業務効率や品質の向上が期待できます。

また、部門ごとに求められる機能や性能に柔軟に対応できるため、現場の使いやすさも高まりやすくなります。将来的な機能追加やシステム入れ替えにも対応しやすい点は、変化の多い業務環境において大きなメリットと言えるでしょう。

3. マルチベンダー体制のデメリット

マルチベンダー体制にはメリットもありますが、複数のベンダーが関わるがゆえに注意すべきデメリットも存在します。ここでは、マルチベンダー体制におけるデメリットを紹介します。

3-1. 運用管理が複雑化する

マルチベンダー体制では、複数のベンダーが関与するため、運用管理が複雑化しやすくなります。システム変更やトラブル発生時には、どのベンダーが関係しているかを整理した上で調整を行う必要があり、その都度コミュニケーションコストが発生します。関係者やタスクが増えることで、進捗状況の把握やスケジュール調整にも時間がかかりやすくなります。

また、お問い合わせ窓口が分散し、全体像を俯瞰しづらくなる点も負担となります。結果として、運用保守におけるクライアント企業側の管理工数が大きくなりやすい点が課題です。

3-2. 責任分界点が不明瞭になりやすい

マルチベンダー体制では、トラブル発生時の責任分界点が不明瞭になりやすい点がデメリットです。どこまでがベンダーAの責任で、どこからがベンダーBの責任なのか判断しにくく、原因特定や対応が遅れるケースも少なくありません。

特に、システム連携部分で問題が発生した場合、責任の所在が曖昧になりやすく、対応が後回しになる「お見合い状態」に陥ることもあります。こうした状況が続くと、復旧までに時間を要し、プロジェクト全体の信頼性やシステム運用に影響を及ぼす恐れがあります。

3-3. ベンダー間の認識に差が生まれやすい

マルチベンダー体制では、ベンダー間で要件や進め方に対する認識の差が生まれやすくなります。各ベンダーは自社の担当範囲を前提に提案や設計を行うため、ほかのベンダーの事情や制約を十分に把握できていない場合があります。

その結果、要件定義の認識違いや技術的な差異が原因で、システム連携がうまくいかないケースが発生します。連携部分の考慮が不十分なまま進行すると、後工程で調整が必要となり、追加対応やスケジュール遅延につながる恐れがあります。

3-4. セキュリティリスクが増大する

マルチベンダー体制では、複数の製品やシステムを組み合わせることで、セキュリティリスクが増大する可能性があります。ベンダー同士がお互いの仕様や設計思想を十分に理解しないまま実装が進むと、想定外のセキュリティホールが生まれることがあります。

また、メーカーや製品ごとに更新タイミングやログ形式が異なるため、全体としての可視性が低下しやすく、脅威の検知や分析が難しくなる点も課題です。最も対策が弱い部分が攻撃対象となりやすいため、全体を統制する視点が欠かせません。

4. マルチベンダー体制が向くケース・向かないケース

4. マルチベンダー体制が向くケース・向かないケース

マルチベンダー体制は、すべての企業やプロジェクトに適しているとは限りません。ここでは、どのような条件でマルチベンダー体制が向くのか、また向かないのかを解説します。

4-1. マルチベンダー体制が向くケース

マルチベンダー体制は、システムの導入領域が広い、またはシステムごとに専門領域が大きく異なる場合に向いています。ネットワークやセキュリティ、業務アプリケーションなど、それぞれの分野で得意なベンダーが異なるため、領域ごとに最適な製品やサービスを選定しやすいためです。要件が頻繁に変化せず、変更が発生しても局所的に影響がとどまるシステム構成であれば、ベンダー間調整の負担も抑えやすくなります。

さらに、トラブルやサービス終了などが起きた際に、特定ベンダーに依存せず代替手段を確保したい企業にとっても有効です。冗長性を持たせやすく、リスク分散を図れる点から、可用性や事業継続性を重視するケースではマルチベンダー体制が適していると言えます。

4-2. マルチベンダー体制が向かないケース

企業規模が小さく、複数のベンダーを管理する人員やノウハウを確保しにくい場合は、運用負荷が高まる恐れがあります。また、ベンダー間の調整や進捗管理、責任分担を統括する体制を構築できない場合、トラブル発生時の対応が遅れやすくなります。

要件変更が広い領域に波及しやすいシステムでは、影響範囲の調整に多くの時間と工数を要するため、マルチベンダー体制は不向きです。このような状況では、管理や調整が比較的容易なシングルベンダー体制のほうが、安定した運用につながるケースも少なくありません。

5. マルチベンダー体制の導入・運用手順

導入目的や範囲を明確にせず進めると、ベンダー間の調整負荷やトラブルが増える恐れがあります。ここでは、マルチベンダー体制を円滑に導入・運用するために押さえておきたい基本的な手順を解説します。

5-1. システムの導入目的と導入範囲を決める

システムの導入目的と導入範囲を最初に明確にすると、マルチベンダー体制でも混乱を防ぎ、プロジェクト全体を効率的かつ安定的に進められます。情報システムは複数世代の技術や言語が積み重なって構成され、分野ごとに異なる専門性を持つベンダーの連携が求められる場面が多くあります。

そのため、どの課題を解決するためにマルチベンダー方式を採用するのか、また全体を対象とするのか、サブシステム単位や開発フェーズ単位で分割するのかを事前に決めることが重要です。目的や範囲が曖昧なまま進めると、ベンダー間の役割分担や責任範囲が不明確になり、調整負荷やリスクが増大します。初期段階でゴールと対象領域を定義しましょう。

5-2. ユーザーとベンダーの役割を決める

ユーザーとベンダーの役割を明確に定めることで、マルチベンダー体制における混乱や責任の所在不明を防ぎ、プロジェクトを円滑に進行できます。マルチベンダーでは関与するステークホルダーが増えるため、「誰が決定権を持つのか」「誰が承認するのか」「誰がベンダー間の調整を担うのか」をあらかじめ整理することが不可欠です。

併せて、ユーザー側においても、要件定義への関与、進捗確認、成果物の検収や受け入れを誰が担当するのかを明確にしなければなりません。役割分担が曖昧なままでは、判断の遅れや調整の行き違いが発生しやすくなります。ユーザーと各ベンダーが責任範囲を共有し、契約や体制に反映させることで、協調的かつ統制の取れた開発・運用が実現するでしょう。

5-3. ベンダー間の接点と成果物を定義する

マルチベンダー体制では、ベンダー間の接点と最終成果物を明確に定義することで、作業の重複や抜け漏れを防ぎ、全体最適を実現できます。具体的には、ベンダー同士がどの「データ」を受け渡し、どの「処理」をどこまで担い、運用段階でどの範囲を責任とするのかを決定することが求められます。これらが曖昧なままでは、トラブル時の責任所在が不明確になり、調整に時間を要しかねません。

また、サブシステム分割や工程分割といった方式では、各ベンダーの成果物が最終的にどの状態で統合されるのかを定義しておく必要があります。設計書やプログラム、テスト結果、運用マニュアルなど、最終成果物の内容と完成基準を明示することで、品質のばらつきを抑え、円滑な受け入れと安定した運用につながるでしょう。

5-4. SLAおよび責任範囲を文書化する

マルチベンダー体制では、トラブル発生時に迅速な切り分けと対応を行うため、SLA(サービスレベル合意)および責任範囲を文書化し、関係者間で認識を統一することも大切です。SLAは、保守・運用フェーズにおけるサービス品質を定量的に可視化する手段であり、可用性や対応時間、復旧目標などを客観的に評価できる指標として定めます。その際、評価項目の妥当性や要求水準の達成可能性、測定・監視にかかる管理コストの合理性も考慮し、定期的に見直しましょう。

また、契約書にはサービスレベルの達成・不達時の対応措置や報告条件を明記し、責任の所在を明確にします。各ベンダーやプロジェクト責任者の権限と責任範囲を整理し、トラブル対応手順やBCPと連動させて記録することで、トラブル時の混乱を防ぎ、安定した運用体制を構築できます。

5-5. 受け入れ基準と運用開始条件を定める

マルチベンダー体制では、開発範囲や成果物が分業化されるため、最終成果物の受け入れ基準が曖昧なままだと、責任の所在や完成可否を巡ってトラブルが生じやすくなります。そのため、機能要件・非機能要件、テスト内容、合否判定方法などを具体化し、どの状態をもって「受け入れ完了」とするのかを事前に検討しておきましょう。

また、受け入れ後に運用を開始できる条件や、未達項目があった場合の是正手続きも明確にすることで、ユーザー・ベンダー双方の認識を揃えることができます。これにより、安定した運用移行とシステムの信頼性確保を図れます。

6. マルチベンダー体制の構築失敗を防ぐポイント

6. マルチベンダー体制の構築失敗を防ぐポイント

マルチベンダー体制を成功させるには、技術や契約の整備だけでなく、運用面での失敗を未然に防ぐ視点が欠かせません。ここでは、体制構築時に陥りやすい失敗を回避するためのポイントを説明します。

6-1. 各ベンダーの開発プロセスをすり合わせる

マルチベンダー体制では、各ベンダーが異なる開発手法や工程定義を採用していることが多く、そのままではスケジュールのずれや作業停滞を招きやすくなります。そのため、まずは各ベンダー担当者から詳細なスケジュールと工程内容を提出してもらい、全体で突き合わせることが重要です。特に「基本設計」「詳細設計」「結合テスト」など、共通語として使われがちな用語については、何をどこまで定義・作成する工程なのかを明確にすり合わせる必要があります。

併せて、ベンダー間で依存関係のある成果物を洗い出し、「いつまでに何が必要か」を全体スケジュール上で明示します。プロジェクト全体のクリティカルパスを意識して時期を決めることで、待ち状態の発生を防ぎ、各ベンダーの開発プロセスを整合させた円滑な進行が可能になるでしょう。

6-2. できる限りオープンにコミュニケーションする

マルチベンダー体制では、情報の行き違いがそのままトラブルや手戻りにつながるため、日頃から情報共有を行い、密にコミュニケーションを取りましょう。ベンダー同士はお互いの進捗や判断背景を把握しにくく、情報を伏せたまま進めると、境界線上の問題が発生した際に「誰の責任か」で対立が生じやすくなります。

そこで、「いつ・誰が・どこで・何を・なぜ行っており、いつまでに・どのように進めるのか」という5W1Hを共有し、判断材料を共通化すると効果的です。要件や方針をオープンに話すことで、ベンダー間に信頼関係が生まれ、運命共同体としてワンチームで課題解決に向き合える体制を築きやすくなります。

NTTドコモビジネスの場合、その旗振り役や統制者となるのがサービスマネージャー(SM)です。お客さまのICT環境全体を把握し、継続的改善や最適化提案に加え、トラブル発生時の統括者としての責務を果たします。NTTドコモビジネスならではの人材配置といえるでしょう。

まとめ

マルチベンダー体制は、業務領域ごとに最適な製品やサービスを選択でき、コスト最適化やベンダーロックイン回避といったメリットがあります。その一方で、運用管理の複雑化や責任分界点の不明瞭さなどの課題も伴います。そのため、導入にあたっては目的や範囲を明確にし、役割分担や成果物、SLAを文書化した上で、ベンダー間の開発プロセスやスケジュールを丁寧にすり合わせることが欠かせません。まずは自社の体制や管理リソースを整理し、適切な運用ルールを整備しましょう。

マルチベンダー体制や多拠点環境の運用に課題を感じている場合は、NTTドコモビジネスの多店舗ネットワークマネジメントをぜひご利用ください。24時間365日多店舗ネットワークの監視・管理を行い、関連ベンダーの統制からオンサイト保守手配までワンストップで対応します。マルチベンダー・マルチキャリア環境でも運用窓口を1本化できるため、煩雑な調整や管理負荷を軽減できます。多店舗展開の運用課題を解消し、安定したネットワーク運用とIT部門の負担軽減を実現したい方は、ぜひご相談ください。

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