ネットワークのQoE(体感品質)を高めるヒントとは

昨今のビジネスシーンではユーザーがビデオ会議や動画の配信といった、リアルタイム性を重視したネットワークサービスを活用する頻度が高まっています。そういった際に重要な指標となる、QoE(Quality of Experience:体感品質)を高めて業務効率化を推進する方法をひも解きます。

ネットワークのQoE(体感品質)を高めるヒントとは

ネットワーク品質の新たな指標、QoEとは

オフィスに縛られないハイブリッドワークの普及やビデオ会議、SaaSなどのクラウドサービス活用の需要が高まったことで、いまやネットワークはビジネスにおいて欠かせないインフラとなっています。ビジネス以外の利用においても、スマートデバイスの普及や映像・音楽コンテンツのストリーミング配信サービス、YouTubeに代表されるオンライン動画共有プラットフォームの視聴などは、ネットワーク接続が大前提になります。

このような要因から、インターネットのトラフィックは毎年右肩上がりで増え続けています。総務省が2023年8月に実施した「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計結果」では、1年前と比較してインターネットのダウンロードトラフィックは17.4%も増加しています。

我が国の固定系ブロードバンドサービス契約者のトラヒック(推計値)

我が国の固定系ブロードバンドサービス契約者のトラヒック(推計値)

出典:総務省「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計結果」(2023年8月)より
https://www.soumu.go.jp/main_content/000896195.pdf

インターネットの急激なトラフィックの増加が一因となり、リアルタイム性が不可欠なビデオ会議ツールや動画配信サービスなどの利用中に、ネットワーク遅延が発生、つながりづらいといったケースも増えているのではないでしょうか。このようなネットワークサービスに対して、「遅い」「つながらない」といったユーザー目線の定性的な体感品質のことを「QoE(Quality of Experience)」といいます。従来の通信サービスの品質は、通信の3品質と呼ばれる伝送品質、接続品質、安定品質で測定されてきましたが、QoEはそれ以上に広範囲な概念となります。

QoEの主な構成要素としては、ネットワーク伝送品質に端末などでのメディア処理品質を加えたメディア品質、接続品質に相当するサービスの可用性、安定品質に相当する信頼性、機器の操作性・機能性などが挙げられます。ネットワークが関係する品質に限らず、映像配信サービス利用時のリモコンの操作性など、端末などに起因する要因もQoEに影響を与える点が特徴的です。

QoEを測定することにより、ユーザーがサービスの品質をどのように認識しているかが把握できるため、ネットワークサービスを提供するキャリアやISP(インターネットサービスプロバイダー)は、QoEを重視しています。ビデオ会議や動画配信サービスといったリアルタイム性が重要なサービスの利用機会の増加に伴い、いかにQoEを高めていくかが今後の顧客満足度を左右する重要なポイントとなるでしょう。

QoEとセットで語られることの多い用語が「QoS(Quality of Service)」です。これはネットワーク最適化・安定化のために、定量化、数値化したデータをもとに通信の順番や通信量を制御することを指します。つまりQoSはネットワークの安定性や性能の具体的な品質、QoEはユーザーの体感する感覚的な品質という違いになります。たとえば、ビデオ会議ツールであれば、QoEは「音声や映像が途切れずにスムーズにコミュニケーションができること」、QoSは「パケットが遅延しない帯域幅」「どのパケットを優先的に処理するか」などが該当します。つまりQoEを得るためにQoSをどのように考えていくかが重要になってきます。

グローバルでQoE/QoSの標準化は進んでいる

スイスのジュネーブに本部を構える「ITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)」、は1947年から国連の組織として運営されている専門機関です。主に電波の国際的な分配および混信防止のための国際的な調整、電気通信の世界的な標準化の促進、開発途上国に対する技術援助の促進などの活動を行っています。ITUの電気通信標準化部門であるITU-Tでは、世界規模での電気通信の標準化を目的として勧告を作成しています。ITU-TにおけるQoSとQoEの標準化に関する検討はSG12(Study Group 12:第12研究委員会)が行っていますが、ETSI、ATIS、IETFといった他機関でも標準化の取り組みが進んでおり、これらの機関とITUの整合を図ることもSG12の重要なミッションです。

SG12には、現在3つのWP(Work Package、プロジェクト内の関連するタスクを集めたグループ)があります。WP1は「端末規定と主観品質評価法」、WP2は「客観品質評価法、WP3は「QoS/QoE規定」を取り扱っています。ちなみに主観品質とは、ユーザーが映像を見たり、音楽を聴いたりするときに知覚・認知する品質のことです。主観品質評価法はQoEを評価する最も基本的な手法であり、評価の普遍性・再現性確保の観点から国際標準化が進み、評価すべき品質要因に応じて多くの方法が規定されています。代表的な主観品質評価としては、マルチメディア(音声、電話、動画)でコーデックを使って帯域幅を圧縮・転送後に受信側で知覚されるメディア品質の評価を数値で表す「MOS(Mean Opinion Score)」があります。これは日本語で「平均オピニオン評点」と呼ばれ、通信品質を評価する国際的な尺度の1つになっています。

一方で主観品質評価法の実施には多大な時間や労力、専用の評価設備が必要となるため、サービスの品質評価・設計の効率化や品質監視・管理への適用が困難という課題もあります。このため評価の効率化やリアルタイム化などの観点から、物理的な特長にもとづき主観品質を推定する技術の開発も進められています。これを客観品質評価法といい、その適用領域に応じてさまざまなアプローチがあります。

エンドツーエンドでQoEを高める取り組みが急務に

前述のように、ネットワークサービスを提供するキャリアやISPにとって、QoEは欠かせない指標です。QoE管理によりUX(User experience:ユーザーエクスペリエンス)を向上できれば、顧客ロイヤルティや顧客維持率を高めることがきます。さらに不測のトラブルが起こる前に、サービスの潜在的な問題を特定することも可能になります。その結果、ユーザー体感品質が高まり、カスタマーに対してより高品質のサービス提供につなげることができるでしょう。

QoEはレイテンシー、ジッター、パケットロスなど、さまざまな要因により影響を受ける可能性があります。

レイテンシーとはネットワーク内で発生する通信速度やデータ速度を左右するパケット遅延のことで、具体的にはエンドポイントから別のエンドポイントにパケット(データ)が移動する際にかかる待ち時間のことをいいます。レイテンシーはデータ転送量を示すスループットの高さにも左右されます。単位はミリ秒で測定され、スムーズな通信のためには300ミリ秒以下のレイテンシーが目安になります。

ジッターとは時間軸方向での信号波形の揺らぎ、あるいは揺らぎによって生じる映像などの乱れのことです。レイテンシーと同様、ジッターもミリ秒単位で測定されます。高いジッターはレイテンシーの大幅な変動を招き、UXに影響を及ぼすため、通常は30ミリ秒以下が許容範囲と見なされています。

パケットロスとは、小分けにした通信内容の一部またはすべてが通信先に届かず失われてしまうことです。国際標準規格ではIP通信サービスが満たすパケットロスの上限は0.1%と規定されています。

キャリアやISPがQoEを高めるために実施する監視には、主に監視側が積極的に行動して監視する「アクティブ・モニタリング」、監視側が監視される側からのアクションを監視する「パッシブ・モニタリング」の2つがあります。

アクティブ・モニタリングでは、ネットワークサービスの応答の可否で稼働状況を判断します。もっとも有名なのはping監視で、パケットを定期的に送信してネットワークの稼働状況を確認します。一定期間の応答、レスポンスがなければ、異常が発生していると判断します。そのほかにも、SNMP(Simple Network Management Protocol)と呼ばれる通信プロトコルを用いたネットワーク機器などを監視する方法も広く採用されています。

パッシブ・モニタリングでは、監視対象の機器から定期的に送出されるパケットを監視し、一定期間に送信がない場合には異常が発生していると判断します。この際、エージェントと呼ばれるソフトウェアを利用することもあります。エージェントの代表例としてウォッチドッグ(番犬)があり、これは監視対象が発信するパケットをツールで監視し、パケットが届かないときに問題が発生したと判断する仕組みです。

このような監視により、キャリアやISPはビデオ会議保護を踏まえた上でQoEを把握し、ネットワークの安定化のためにQoSでデータ通信の順番や量の制御を最適化しています。そしてSLA(Service Level Agreement:サービス品質保証)水準の継続的な向上に取り組んでいます。

あくまでQoEやQoSはサービス提供側が取り組むことで、サービスを利用する側は関係ないと思っていませんか。実はサービスを利用する企業側にも、QoEは欠かせない指標になります。

なぜなら、エンドツーエンドの視点でQoEを考える場合、企業側が所有・管理するWANやデータセンター、ファイアウォールを監視して、社内ユーザーの体感品質を高める必要があるためです。たとえばファイアウォールのボトルネックが原因で遅延が起これば、ビデオ会議が滞ったり、SaaSが使いづらくなったりするなど、業務の生産性に影響を及ぼす恐れがあるからです。これからは、従業員満足度の観点などから自社システムを含めたQoEやQoSを向上する取り組みが重要になるのは間違いないでしょう。

体感品質を可視化して自社システムのQoEを向上する

自社のシステム環境のさまざまな課題を解決できず、各事業部など社内ユーザーからの信頼を失っている情報システム部門は少なくありません。たとえば、「業務システムへの接続品質が悪くて仕事が回らない」「問い合わせても、とくに問題ないと言われて改善されない」「問題発生時に原因特定に時間がかかり、業務に支障が生じる」といった声が多く社内ユーザーから出ているようであれば、既存の監視システムや監視体制の見直しは急務といえるのでは。

自社システムを含めたQoEを向上するには、まずは体感品質をきちんと可視化することが必要です。たとえば、NTTコミュニケーションズの「お客さま体感品質モニタリング・スマート」は、ネットワークのエンドツーエンドの体感品質をモニタリングデータとしてリアルタイムに可視化することでネットワークに潜む課題を把握して解決に導き、可用性を向上できるサービスです。通信の種類やエンドユーザー別に、エンドツーエンドのネットワーク品質を可視化することで、ネットワーク全体を把握した品質のモニタリングが可能です。さらに品質の問題が確認された場合、ボトルネック調査により原因を速やかに特定することもできます。リモート環境からのヘルスチェックに有効なスピードテストも実施でき、その結果、課題が特定のユーザーにある場合は、ユーザーごとのWi-Fi強度やPCパフォーマンスを確認することで原因の特定につなげることも可能です。

しかも、高価な複数ライセンスの購入は不要で1端末から廉価に導入できます。業務拡大によるモニタリング範囲の増減、スモールスタートで部分導入など、利用環境に合わせた無駄のないスケーラビリティな料金設計ができるようになっています。加えて既存のpingやSNMP Trapといったアクティブ・モニタリングでは把握困難だったボトルネックや帯域幅の逼迫も可視化でき、データにもとづいた的確なユーザー体感の品質モニタリングを実現します。利用回線や接続機器など監視対象の制限がないため、環境の把握が困難なハイブリッドワーク時代のテレワークやマルチベンダー環境のモニタリングにも最適です。お申し込みも簡単で、サイトにアクセスして必要事項を入力し、PCなどのデバイスにソフトウェアをインストールするだけでモニタリングが開始できます。手軽に導入できるため、お試しで使ってみて効果を測定してから本格導入を検討してみてもいいでしょう。

ちなみにNTTコミュニケーションでは、アップグレードサービスとして「お客さま体感品質モニタリング」をラインナップしています。これはネットワークを可視化、企業の環境/計画に最適なコンサルティングを実施するネットワークアセスメントサービスです。経験豊富なエンジニアがネットワーク品質モニタリング、トラフィックモニタリング、アドバイザリレポートなどで課題解決をサポートします。キャリアならではの幅広いインテリジェンスを生かした状況の把握や分析、対策といったPDCAサイクルにより、継続的に体感品質を向上できます。

キャリアやISPが監視できない、ネットワークサービスの領域外にある社内システム環境のQoSを高めることができれば、事業部門などの社内ユーザーのEX(Employee Experience)を向上させ、情報システム部門の運用管理の日々の稼働も軽減できます。まずは、既存の監視システムに「お客さま体感品質モニタリング・スマート」を追加することを検討してみてはいかがでしょうか。

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