

株式会社豊田自動織機×SIMアプレット
GPSより低コストに車両の簡易位置情報を取得
映像データの漏えいを防ぐ安全・安心の仕組みを実現
トヨタグループの源流企業として知られる株式会社豊田自動織機は、物流システムとフォークリフトを中心とした産業車両のブランド「トヨタL&F」において、物流現場などの作業の効率化、省力化をサポートする幅広い製品やサービスを提供しています。今回、トヨタL&Fが提供するIoTとクラウドを活用したサービス群「FORKLORE」(フォークロア)のサービス「ドラレコConnect」において、SIMアプレットによる車両の簡易位置情報の取得を実現しました。GPSを利用することなく、低コストに車両の位置が分かる仕組みについて、FORKLOREの企画・開発・販売を担う方々に伺いました。
- 株式会社豊田自動織機
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創立1926年。豊田佐吉が発明した自動織機を原点に、繊維機械、自動車(車両、エンジン、コンプレッサーなど)、トヨタL&Fブランドなどで提供する産業車両、エレクトロニクスなど、幅広い事業を展開。トヨタL&Fブランドの産業車両(フォークリフトなど)は、世界シェアトップクラスを誇る。
商品企画部 企画室
コネクテッド企画G
グループ長
酒井 和 氏商品企画部 企画室
コネクテッド企画G
板津 直弥 氏商品企画部 企画室
コネクテッド企画G
林 悠太朗 氏
- NTTドコモビジネス株式会社
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東海支社
第一ビジネスソリューション営業部門
第三グループ
主査
杉下 嘉規プラットフォームサービス本部
5G&IoTサービス部
第一サービス部門
主査
村田 一成
- 役職、所属は取材当時のものです
目次
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- プロジェクト着手の経緯:
- 業界の人手不足をデータの可視化で解消したい
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- NTTドコモビジネスのSIMアプレット採用の理由:
- GPS機器の代替をSIMアプレットで低コストに実装
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- 今後の展望:
- グローバル展開を視野に入れた次の協業フェーズへ
業界の人手不足をデータの可視化で解消したい
はじめに、FORKLOREについて教えてください。
- 板津/豊田自動織機:
- FORKLOREは、我々が産業車両業界などに提供しているサブスクリプションサービスです。現在、提供中のサービスは、ドライブレコーダー情報を可視化する「ドラレコConnect」、フォークリフト用電池のエネルギー収支を可視化する「バッテリーConnect」、そして運転動画のAI解析による運転評価の3つです。これらサービス提供の背景には業界が抱える深刻な人手不足があります。いまや現場の車両オペレーターのみならず、管理するスタッフにも人手不足の波が到来しており、喫緊の課題となっています。
たとえば、現場の安全管理ではオペレーター本人への指導に重きを置く必要がありますが、その前段階のデータ収集や蓄積、分析などの作業に意識や時間を取られるケースが少なくありません。そこでFORKLOREでは前段階の作業を行い、分かりやすいデータに仕上げてお客さまに提供することで、安全指導などに注力していただくサービスを目指しています。「人は人らしい仕事。つまり付加価値を生み出す仕事に従事すべき」という、弊社創業以来の価値観を体現するサービスだと自負しています。
ドラレコなどの映像データ収集には、ネットワークが重要かと思うのですが。
- 酒井/豊田自動織機:
- その通りです。我々の「ドラレコConnect」は、衝撃発生時の即時通知や映像監視ができることが強みになっています。しかし当初はWi-Fiのみの対応で、利用できる場所が限られていました。そのような課題を解決するために、NTTドコモビジネスのIoT向けモバイルデータ通信サービス「IoT Connect Mobile® Type S(ICMS)」を導入したところ、利用できるエリアが格段に広がり、お客さまの満足度が向上しました。
しかし、課題は尽きないもので、セキュリティに対する社会的な潮流を背景に、お客さまの意識も高まり、セキュリティの担保や管理の効率化が次なる課題となりました。特にフォークリフトは、リースやレンタル、中古販売により、使用されるお客さまが変わることもあり、使用者が変わったということを確実に捉える必要があったのです。

お客さまのセキュリティに対する意識は変化しているのでしょうか。
- 林/豊田自動織機:
- 最近、IoT機器導入の際にセキュリティ対策を気にされるお客さまが増えています。FORKLOREのセキュリティ対策についてのお問い合わせも多く、契約書に契約終了時にドラレコなどのデータを削除する項目が盛り込まれていることが一般的です。そこにとどまらず、リースやレンタル、中古販売などで使用者が変わるたびに、個人情報などを含むドラレコの映像データが他者に流出するリスクが生じます。それを未然に防ぐために、車両の大まかな位置情報をリアルタイムに把握できる機能の実装が必要でした。ある程度の位置情報が把握できれば、利用場所が特定でき、利用者の変更を検知することができると考えました。お客さまから車両利用者の変更についてご連絡がなかった場合でも、システム上で利用者変更の可能性を自動的に検知し、情報漏えいを未然に防ぐことができると考えています。
位置情報の取得といえば、GPSが一般的ですが。
- 酒井/豊田自動織機:
- 当初はGPS機器の搭載を検討したのですが、1台当たり2、3万円かかることが障壁となっていました。もっとコストを抑えられる方法はないものかと思案していたところ、NTTドコモビジネスの営業担当の杉下さんからSIMアプレットを紹介されたのです。
- 杉下/NTTドコモビジネス:
- 弊社のSIMサービスの提供メニューに該当するサービスがなかったため、正直、最初にお聞きしたときは「できないかもしれない」と思いました。しかし要件を持ち帰り、社内で確認したところ、村田から「多分できる」と聞いて、すぐにお客さまに提案しました。
GPS機器の代替をSIMアプレットで低コストに実装
そもそもSIMアプレットとはどのようなサービスなのでしょうか
- 村田/NTTドコモビジネス:
- 一般的なSIMの中身をご存じでしょうか。SIMカードの内部には、CPUやメモリ領域が搭載されており、OSやJavaカードアプレットの実行環境が実装されています。つまり、SIMは“超小型コンピューター”とも言える機能を持っています。さらに、SIMは「耐タンパ性」と呼ばれる特性を備えており、内部の機密情報や動作を外部から解析・改変されることを防ぐ、高いセキュリティ性を誇ります。
このようなSIMの特長を生かし、NTTドコモビジネスが提供する法人向け通信サービス「ICMS」では、SIMカード上にお客さま独自のプログラムを実装できるSIMアプレット機能を提供しています。SIMアプレットでは、通信プロファイルとアプレット領域を分割することで、柔軟なプログラム実装が可能です。この分割技術は、NTTドコモビジネスが独自開発しました。
今回の事例では、SIMアプレットを活用して携帯基地局情報を取得するプログラムをアプレット領域に実装しました。取得した基地局情報は、外部の位置情報変換システムと連携することで、GPSを使わずにおおよその位置を特定することができます。これにより、専用のGPS機器を用いずに、低コストかつ高セキュリティな位置情報サービスの実現が可能となりました。

とはいえ、通常は対応に時間がかかるものではないですか。
- 村田/NTTドコモビジネス:
- SIMアプレットは、シンプルな仕組みでアプレット領域に自由なプログラムを載せられます。サービスを企画する立場として、常々どういうプログラムを載せればパートナー企業に喜ばれるかを検討していて、さまざまな業界・業種の課題解決を想定したプログラムを開発し、いつでも動かせる準備を進めていました。すでに携帯基地局情報を使うことで位置情報を取得するプログラムを用意していたため、すぐに提案させていただきました。基地局を使って位置を測定する場合、おおよそ半径2キロ範囲、何県何市何町くらいの精度になります。今回のご要望は、車両がA地点からB地点に移動したことの把握、大体の位置の特定でしたので、ニーズに合致すると思いました。

- 酒井/豊田自動織機:
- GPS機器のコストに比べて非常にリーズナブルな提案だったため、導入を即断しました。何よりドラレコの映像データがほかのお客さまの環境で見えてしまうリスクを一刻も早く回避したいという思いがありました。とにかくスピード勝負で、そこについてはご無理を申し上げたかもしれません。
実装は、どのような流れで進んでいったのでしょうか。
- 村田/NTTドコモビジネス:
- 今回の案件は、非常に短期間での対応が求められました。そのため、まずは実機での検証を急ぎました。社内の杉下に動いてもらい、トヨタL&Fカンパニーの皆さまのご協力のもと、実機を東京に送付いただきました。
到着後すぐに、サービス化を見据えたテストを実施し、技術的に対応可能な見込みが立ったため、正式なサービスとして仕上げました。全体の対応期間はおよそ1カ月です。迅速な対応が可能だった背景には、SIMアプレットが「ICMS」の付加機能として柔軟に活用できることに加え、社内で事前にさまざまなユースケースを想定した準備を進めていたことがあります。パートナー企業のニーズに合わせて、スピーディに設計・検証・提供までを一気通貫で進める体制が整っていたことが、今回の早期実現につながりました。
- 酒井/豊田自動織機:
- 非常にスピーディに対応していただいて、感謝しています。時間のない中つくったと思えないほど、きちんとAPIが整えられていました。社内の開発担当からも「これなら、すぐにデータを取れますね」と評判でした。仕上がりの完成度が高かったこともあり、APIを含めSIMアプレットに対して追加のリクエストや仕様変更の要求は何もありませんでした。
グローバル展開を視野に入れた次の協業フェーズへ
SIMアプレットの導入で得られたメリットを教えてください。
- 酒井/豊田自動織機:
- 最大のメリットは、ドラレコのSIMを入れ替えるだけで簡易位置情報の取得が可能になることです。お客さまの情報を守るセキュリティの観点において、安心してサービス提供できるようになりました。車両の位置情報や移動状況がリアルタイムで把握できるため管理が容易になりますし、万一の盗難や、メーカーとしては起こってほしくないのですがリコールの対策車両の所在把握にも役立ちます。
車両の移動を迅速に検知して、ドラレコの録画を止める仕組みは、お客さまに情報セキュリティの面で安全・安心を提供できると思っています。さらに位置情報以外にも、通信モジュールのシリアル情報も取得できるようになり、ハードウェアとSIMのひも付け管理が可能になりました。これにより、SIMを別の機器に差し替えられたことがすぐに検知できますし、車両が廃車になった場合など、ドラレコにひも付いているSIMが分かるため、すぐにSIMの利用停止ができるようになりました。

NTTドコモビジネスのサービス全体の評価はいかがでしょうか。
- 板津/豊田自動織機:
- SIMアプレットは「ICMS」の付加機能という位置づけです。ICMSは50GBの大容量プランで契約しているのですが、かなりリーズナブルに利用できています。当初は10GBくらいを想定していたのですが、杉下さんからは映像のアップロードが多いはずだから大容量が良いのでは、と提案のあった上り通信に特化した大容量プランが、非常にリーズナブルでしたので、このモバイル通信環境には満足しています。
- 杉下/NTTドコモビジネス:
- ちょうど、ドラレコの映像データのアップロードに適した上り特化の大容量プランがリリースされたタイミングだったため、パートナー企業のニーズとマッチしたと思っています。
- 林/豊田自動織機:
- ICMSでいえば、パケットシェアの機能も重宝しています。FORKLOREには、ドラレコに衝撃が発生したときの動画が見られる機能があります。この機能の利用頻度がお客さまによって大きく異なり、大容量のパケットを利用するお客さまもいれば、ほとんど利用しないお客さまもいます。それを個別対応するのは大変なため、容量を融通し合えるパケットシェアにより柔軟な運用ができて助かっています。
今後、FORKLOREのグローバル展開はあるのでしょうか。
- 酒井/豊田自動織機:
- 我々はフォークリフトをグローバルに展開していますが、通信端末の電波認証や法規対応が国ごとに異なるため現在は各地域でそれぞれ独自の通信端末を開発している状況です。
将来的には仕向け先に合わせてベストな通信キャリアを選べる共通のSIMを利用したいと考えています。
- 村田/NTTドコモビジネス:
- SGP.32は、IoT機器向けに策定された新しいeSIMの国際標準規格で、機器の出荷後でも遠隔で通信キャリアの切り替えが可能になる仕組みです。グローバル展開を進める企業にとって、通信環境の柔軟性を高める重要な技術といえます。当社でも現在、SGP.32への対応に向けた準備を進めており、今後のサービス展開に組み込めるよう前向きに取り組んでいます。
また、当社の強みであるSIMアプレット技術を生かし、海外でのユースケースへの対応についても、現在体制の整備を進めている段階です。グローバル展開を支える通信基盤として、柔軟性とセキュリティの両立を目指し、支援させていただきたいと考えています。
さらに、最近ではSIMアプレットを活用し、セキュリティ設定の自動化を実現する「IoT SAFE」の実証実験にも成功しました。これは国内通信事業者として初の成果であり、今年度中のサービス化を目指して開発を進めています。この技術については、ぜひご提案させていただきたいと考えています。
最後にNTTドコモビジネスとの協業で感じた価値を教えてください。
- 酒井/豊田自動織機:
- 普段から丁寧にご対応いただき、私たちのやりたいことを適切に理解した上で提案いただけることに感謝しています。IoT通信の最新事例や新たな提案をいただけることにも大きな価値を感じています。IoT機器には次々と新たな脅威が生まれ、迅速な対応が必要になりますので、引き続きセキュリティを継続的にアップデートできる提案にも期待しています。今後もNTTドコモビジネスとともに、FORKLOREの一層のサービス拡充を図っていきたいです。
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