ブラザー工業株式会社×製品IoT化パック
拡張性の高いIoTプラットフォームで燃料電池を遠隔監視
インフラ向けバックアップ電源の新たな価値を創出
ミシンの修理業から始まったブラザー工業株式会社は、2050年のカーボンニュートラル社会の実現へ貢献するべく、燃料電池や水素吸蔵合金、水素柱上パイプラインなど、事業を通じた水素利活用のプロジェクトに取り組んでいます。水素関連プロジェクトを象徴するブランド「PureEne」では現在、水素燃料電池・蓄電池ハイブリッドUPS「ACUPSシリーズ」(以下、ACUPS)を提供しています。これは、クリーンで長時間発電が得意な水素燃料電池と瞬時に電力供給が可能な蓄電池のハイブリッド電源であり、瞬間的な停電はもちろん、水素の補給により72時間に及ぶ長時間の停電まで電力を供給できるという特長を持ち、主にインフラ向けのバックアップ電源として利用されています。今回、ACUPSにNTTドコモビジネスの「製品IoT化パック」を導入することで、運用保守業務の効率化に加え、お客さまへの新たな付加価値の提供を実現しました。高セキュリティな環境での安定運用を実現したその取り組みについて、プロジェクトメンバーに伺いました。
- ブラザー工業株式会社
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1908年、ミシン修理業として創業。117年を超える歴史の中では、独自の技術開発に注力し、蓄積したコア技術を駆使して事業の多角化を推進するとともに、変化を捉えて常に新しい市場を生み出すことで成長を続けてきた。現在は、プリンターやミシンのほか、工作機械、業務用通信カラオケシステムなど幅広い分野で、独自の製品やサービスを提供している。
新規事業推進部
技術推進2グループ
グループ・マネジャー
中村 満 氏
新規事業推進部
技術推進2グループ
主任研究員
鵜瀞 弘継 氏
- NTTドコモビジネス株式会社
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東海支社
第一ビジネスソリューション営業部門
第三グループ
村手 勇介
プラットフォームサービス本部
5G&IoTサービス部
販売推進部門第一グループ
主査
藤丸 武資
- 役職、所属は取材当時のものです
目次
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- プロジェクト着手の経緯:
- 燃料電池事業の拡大に向けてIoTによる遠隔監視の高度化へ
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- NTTドコモビジネスの製品IoT化パック採用の理由:
- さまざまな顧客ニーズを満たすカスタマイズの重要性
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- 今後の展望:
- データ活用とAI解析で燃料電池の未来を切り開く
燃料電池事業の拡大に向けてIoTによる遠隔監視の高度化へ
はじめに、ブラザー工業の燃料電池事業について教えてください。
- 中村/ブラザー工業:
- ブラザー工業の原点はミシンの修理業ですが、時代の変遷に伴い事業内容を変化・対応しており、事業ポートフォリオを変えながら成長を遂げております。今回の燃料電池も含め、常に新規事業の創出に取り組んでいます。
燃料電池事業は、子会社の株式会社ニッセイ(以下、ニッセイ)が燃料電池の開発を始めたことがスタートでした。ニッセイは主に歯車やギアモータを製造・販売している会社ですが、一方で独自にエネルギーをテーマとした技術開発を検討していました。その中で水素燃料電池に注目し、固体高分子型燃料電池の開発を開始していました。2013年に行った両社の技術交流会がきっかけとなり、既に10年もの経験と技術の蓄積を持つニッセイの燃料電池システム事業と、多彩なリソースを持つブラザー工業によるシナジー効果が期待できると考え、弊社の新規事業として開発を移管しました。燃料電池市場は、ここ数年で市場が拡大してきており、ようやく本格的に取り組むフェーズを迎えています。
燃料電池事業における遠隔監視ニーズについてお聞かせください。
- 中村/ブラザー工業:
- 弊社のACUPSは、主にインフラ向けのバックアップ電源として提供しています。最初のお客さまは2023年にプレスリリースした国内の大規模空港です。導入の提案に当たって、IoTを活用した遠隔監視は必要不可欠なものでした。ACUPSを安定して運用するためには、お客さま側で定期的に状況を確認し、水素を補充する必要があります。しかし空港の広大な敷地に点在して設置される設備の状況確認には、移動だけでも大変な労力がかかるのです。この空港のお客さまに限らず、インフラ系においては似た環境が多く、たとえば設備が山間部にあるお客さまなども同様の課題を抱えています。もちろん、弊社もお客さまの設備の安定運用を見守るためには遠隔監視が不可欠です。近年の少子高齢化に伴う労働人口の減少により、運用保守の人員不足が深刻化しています。お客さまにもとっても、弊社にとっても遠隔監視による運用保守業務の効率化は喫緊の課題となっています。
さらに、新たなエネルギーとして水素燃料電池を導入することは、お客さまにとって前例のない先進的な取り組みになります。このため、導入したお客さまがうまく活用し続けられる仕組みづくりが重要になります。そこで遠隔監視を保守のためだけに使うのではなく、+αの価値創出が必要だと考えていました。たとえば、燃料電池の導入による脱炭素効果をデータとして見える化をするといった付加価値です。このような背景から、ACUPSにおけるIoTプラットフォーム拡充の検討をスタートしました。
さまざまな顧客ニーズを満たすカスタマイズの重要性
IoTプラットフォーム拡充はどのように進んでいったのでしょうか。
- 鵜瀞/ブラザー工業:
- 私の担当は、ハイブリッドUPSのソフトウェア開発全般です。燃料電池本体のプログラムについて、ファームウェアからIoTの遠隔監視までソフトウェアのすべてを見ています。今回のIoTプラットフォームの拡充に当たり、まずはパートナー候補の検討から始めました。弊社としては10年先を見据えたスパンでお付き合いできるパートナーが必要でしたので、やはり信頼と実績のある大手企業を中心に探しました。そこで有力な候補に挙がったのが、以前よりお付き合いのあったNTTドコモビジネスさんです。
- 村手/NTTドコモビジネス:
- 過去にブラザー工業さまにIoTプラットフォームのご提案をした際には、検討段階までは進んだものの、ブラザー工業さまのご要望の実現手段をすり合わせる段階でコロナ禍になり、プロジェクトが停滞してしまいました。それから数年を経て、弊社のIoTプラットフォームは機能面やコスト面がアップデートし、ソリューションとして成熟しました。そのタイミングであらためて製品IoT化パックのご提案をいたしました。
- 鵜瀞/ブラザー工業:
- あくまで、コロナ禍に伴ってお客さまの実装計画が延びたという話ですので、弊社としてはプロジェクトを継続していました。当時の検証でも期待する機能、性能を確認できていましたので、エンジニアとしては安心感がありました。もちろん、今回は複数のパートナー候補を検討した上で、NTTドコモビジネスさんからのご提案が弊社のニーズに最もフィットしていたため、最終的にパートナーとして選定させていただきました。
今回、導入された「製品IoT化パック」について教えてください。
- 村手/NTTドコモビジネス:
- お客さまが製品をIoT化する際に必要な機能を、一気通貫でお届けするソリューションです。製品に組み込むモバイル通信から、データの見える化・分析するためのプラットフォームまでトータルでご提供しています。非常にスピーディに導入できることに加え、導入後もお客さまのニーズに応えて柔軟なカスタマイズが行え、独自機能を追加できるという拡張性が大きな強みになっています。
- 中村/ブラザー工業:
- 実は、その拡張性の高さを高く評価しています。弊社のお客さまの業種や業態はさまざまで、ニーズも異なってきます。従前のIoTプラットフォームには満足しているのですが、弊社の手でカスタマイズができないことが課題でした。今回、「製品IoT化パック」を導入する最大の決め手となったのは、弊社の手で遠隔監視の画面を自在に作り込めること。他社に比べて柔軟性が高く、使いやすいので、今後のお客さまへの個別対応を考えるとさまざまなメリットが期待できました。
- 藤丸/NTTドコモビジネス:
- 「製品IoT化パック」は単純に見える化を実現したいお客さまから、ブラザー工業さまのようにカスタマイズで独自の機能を加えて機器の遠隔制御を行うお客さままで、幅広いご要望に対応できるソリューションです。機能面に加えて、リーズナブルな費用で提供できることも特長となっています。
どのような経緯を経て、実装に至ったのでしょうか。
- 藤丸/NTTドコモビジネス:
- 2024年の夏ごろから、大まかな構成を事前に詰めた上でPoCをスタートしました。まずは仮データを飛ばして想定する料金体系に収まるか、必要なデータが取れているかの検証を行いました。初期段階では、想定外のトラフィックが出てコストがかかる課題がありました。そこで中村さん、鵜瀞さんと我々の技術メンバーで密に協議を重ね、通信頻度や通信方式など、必要なデータを最適なかたちで送る方法を模索し、その結果、求められているコスト感に収める仕組みが実現できました。
- 鵜瀞/ブラザー工業:
- 並行して画面開発を進めたのですが、標準機能ではやや足りないところを補うためのカスタマイズを行いました。NTTドコモビジネスさんより手厚いレクチャーや的確なサポートをいただいたおかげで、弊社の手でお客さまのニーズに合致する画面開発ができました。実装から評価までにかかった期間は約4カ月ですが、今回の経験を生かして今後はよりスピーディに開発ができると想定しています。
データ活用とAI解析で燃料電池の未来を切り開く
導入後の効果について教えてください。
- 中村/ブラザー工業:
- 現在、東京都内にある駅に設置されたシステム内に遠隔監視機能を搭載したACUPSが導入されています。お客さまが設備の状況をリアルタイムに確認できることはもちろん、設備にトラブルがあった場合には、弊社にすぐに通知が来るため迅速な復旧対応が可能です。さらにお客さまに喜ばれているのは、脱炭素の取り組みで補助金を申請する際に必要なデータを提供できることです。
想定外の効果としては、弊社のACUPSを含むお客さまのシステム全体を運用管理するエンジニアリング会社からのお問い合わせにおいても活用できていることです。システムの安定稼働に向けた動作確認、調整作業において、「現在の設備状況はどうですか」という連絡がきます。そこで「弊社の燃料電池と接続するシステムはこんな振る舞いをしていませんか」といった、データにもとづく助言を行うこともあります。システムの立ち上げの際に弊社のデータが活用できることは、新たな気付きでした。
- 鵜瀞/ブラザー工業:
- 導入後、IoTプラットフォームは業務に支障をきたさないよう、監視を止めることなく定期的にアップデートされています。機能追加はもちろん、常にセキュリティ対策が最新に保たれていることも非常にありがたいです。今後、セキュリティを担保した上での遠隔からの燃料電池本体のファームウェアップデートにも対応していただけると助かります。現段階の感触では技術的に実現できると考えており、今後の機能拡充に期待しています。
今後の展望についてお聞かせください。
- 中村/ブラザー工業:
- 運用保守、運用管理者、環境部門など、お客さまの立場に合わせた最適な情報を提供できるサービスを提供していきたいと考えています。また、最近はAIの活用が進んでいますが、いろいろな故障事例や過去の運用実績を踏まえた、クラウド上でのAI解析にも取り組みたいと考えています。
- 村手/NTTドコモビジネス:
- すでに、遠隔監視でデータを吸い上げるところまでは完了しています。次のステップとしては、たとえばAIを活用してシステムの状況を事前に予測し、最適な保守のタイミングを見極めることも可能ではないかと考えています。引き続き、NTTドコモビジネス一丸となりブラザー工業さまをご支援していきたいと思います。
- 藤丸/NTTドコモビジネス:
- パートナーに選んでいただいた信頼に応えるよう、まずはIoTプラットフォームを安定的に運用することが最優先です。その上で、大量に溜まったデータをマーケティングや予兆故障保全などに活用できるよう、積極的にアイデアのご提案や、最新技術のご紹介にも注力していきたいと考えています。
- 中村/ブラザー工業:
- 弊社の燃料電池は、ほかの機器と組み合わせて導入されることも多いです。今後は他の機器情報についても見える化できるような、システム全体を監視するソリューションにまで育てられるといいですね。NTTドコモビジネスさんと、価値創出に取り組んでいくつもりです。
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