MASH/NASHについて

概要

MASH(代謝異常関連脂肪肝炎)は、肥満や糖尿病など代謝異常によって肝臓に脂肪が蓄積し(脂肪肝)、肝臓に炎症(肝炎)が起こる状態を指します。簡単に言えば、お酒の飲み過ぎによらない脂肪肝による肝炎です。従来はNASH(非アルコール性脂肪肝炎)と呼ばれていた病気に相当し 、近年その名称がMASHに変更されました。放置すると肝臓が線維化して肝硬変や肝がんに進展する恐れがあるため注意が必要です。

原因

MASHの最大の原因は、不健康な食生活や運動不足による肥満・メタボリックシンドロームです。主なリスク要因として、肥満(内臓脂肪型肥満)、2型糖尿病、脂質異常症(高中性脂肪・低HDLコレステロール)、高血圧などが挙げられます。これらは過剰なエネルギー摂取や運動不足など生活習慣の乱れによって引き起こされます。お酒の飲みすぎでアルコール性の脂肪肝や肝障害になることはよく知られていますが、お酒を飲まない人でも脂肪肝になるケースが増加しています。それは、過剰に摂取した糖質や脂質が、中性脂肪として肝臓内にたまり脂肪肝になります。

症状

肝臓は沈黙の臓器と言われており、MASHの早期には自覚症状はほとんどなく、多くは健康診断の血液検査で肝機能異常を指摘されて初めて気づきます。病気が進行して肝硬変になると、皮膚や白目が黄色くなる黄疸、お腹に水が溜まる腹水、むくみ、強い倦怠感などさまざまな症状が現れ、重症例では意識障害(肝性脳症)を起こすこともあります。また、MASHが長期間進行すると肝がんが発生するリスクも高まります。実際、MASH(NASH)患者では約10年で10~20%が肝硬変に進展し、肝硬変になると年数%の肝がん発生率との報告があります。

検査・診断

MASHは血液検査と画像検査を合わせて診断します。健診ではまず肝酵素(ALTやASTなど)を測定します。しかし、脂肪肝があっても肝酵素値が正常なこともあり、逆に数値が高くても肝炎が進んでいない場合もあります。そのため、肥満や糖尿病などリスク因子がある方は、血液検査の結果にかかわらず腹部超音波(エコー)検査で脂肪肝の有無を確認することが勧められます。脂肪肝と診断された場合、さらに詳しく肝臓の炎症や線維化の程度を評価します。血液検査の数値や年齢から肝線維化の進展度を推定するFIB-4 indexなどのスコアリング法があります。確定診断のために肝生検(肝臓の組織検査)を実施することもありますが、体への負担が大きいため通常は必要な場合に限られます。

治療

MASHと診断された場合、まず生活習慣の改善に取り組みます。食事では1日3食を規則正しくとり、総摂取カロリーを適正範囲に抑えて栄養バランスを整えます。高脂肪・高糖質の食事や甘い飲み物・お菓子は控えましょう。体重を減らすことが肝臓の改善に直結するため、肥満のある方は減量が重要です。運動も有効で、週150分程度の運動(例:1日30分の歩行×週5日)を行うことが推奨されています。筋力トレーニングも取り入れると代謝が上がり効果的です。自分に合った運動を習慣化しましょう。現時点でMASHを直接治療する特効薬はありませんが、糖尿病の薬など肝臓を守る効果が期待できるものがあります。例えばGLP-1受容体作動薬(糖尿病・肥満症治療薬)は肝臓内の脂肪や炎症を減少させ、海外でも推奨されています。また、ピオグリタゾンやSGLT2阻害薬といった糖尿病薬もMASHに有効と報告されています(日本での保険適応はなし)。これらは本来糖尿病や肥満の治療薬ですが、それらを合併しているMASH患者で肝機能の改善に寄与する可能性があります。ただし、これらはいずれもMASH治療薬として承認されたものではなく、根本的な治療は生活習慣の見直しです。MASHは早期発見と生活習慣の改善によって進行を食い止めたり、改善できる可能性があります。気になる方は早めに医療機関で検査を受け、専門医と相談しながら予防と治療に取り組みましょう。

参考:
『非アルコール性脂肪性肝疾患 | 肝炎情報センター』国立国際医療研究センター

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