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『教育のUnlearn』 平井 聡一郎 ⽒

2022.03.25

今、ビジネスの世界でUnlearnという言葉をよく聞きます。そのまま読み取ると、ぱっと見には「学ばない」という意味にとれますが、本来の意味は、自分が正しいと思ってきたことに固執しないこと、つまり、それまでの思考の癖や慣習を手放していくことといえます。現在のコロナ禍は社会に変化をもたらしました。その中で、この変化に対応しようとした人たちが、まさにUnlearnの重要性に気づいたのです。環境の変化が不断に起こる中で生きていくためには、新しいことを学ぶ、一方でこれまで培ってきたものを手放さなければならないことを実感したのでしょう。仏教では、このことを「手放し」といい、「人間は本来、いっときも止まらず変化し続ける存在」という人間感を示しています。しかし、私たちは、常に変化し続けている社会の中にいるのにもかかわらず、現状が停滞していると認識していることがあります。その要因の一つが、自分が持っている価値観を「手放し」できないことにあります。慣習を無意識に繰り返しているしまうことも同様です。特に一つの組織に所属し続けているとその傾向が顕著になり、「手放し」ができなくなります。仏教の実践では物事に執着しないよう、瞑想によりそれまで執着してきた価値観から「自己を手放す」ということです。

ここで、Unlearnの視点で、現在の学校教育を見直して見ましょう。これまでの学校教育は、学校は勉強をするところであり、先生は勉強を教える人であり、生徒は教えてもらう人という概念で支配されてきました。教室には黒板と教卓があり、先生は教科書を使って知識を伝達し、児童生徒はそれをノートに書き写して、覚えるというルーチンが繰り返されてきました。また、学校の秩序は長い間、校則というルールによって保たれてきました。つまり、これまでの学校教育は先生が主導するものだったといえます。しかし、そこで学んだ生徒が社会にでるようになった結果、いわれたことしかできない社会人の存在が問題視されるようになりました。そのような背景のもと、一昨年から実施された新学習指導要領は、主体的、対話的で深い学びへと、学びの質的な転換を図りました。さらに、GIGAスクール構想で、1人一台のPCなどを整備することで、新しい学びのサポート体制を構築しました。さらにCOVID-19の流行は、数度にわたる臨時休業で学校にさまざまな変化をもたらしました。つまり、強制的にUnlearnの状態となったのです。しかし、ここで大きな問題が顕在化しました。それは、このUnlearnをプラスに捉えて学校を進化させた自治体と、取り残された自治体に二極化されたという現実です。

では、どんな自治体が進化したのでしょうか?それは、教育委員会や学校自身がUnlearnした自治体です。自分達でどう変わるべきかを考え、変化した自治体は、今後もUnlearnし続けます。そんな学校では、学びの主役は児童生徒であり、先生の役割はTeacherからfacilitatorに変わっています。そして、そんな学校で学ぶ児童生徒は、自分で考え、判断し、行動できるようになっていきます。だから、学校中が子供たちの声で溢れていきます。反対に取り残された学校は、先生の指示の声が校舎の中で響き渡ります。では、このような二極化はなぜ起こってしまうのでしょうか?実は二極化の要因は一つではなく、いくつかの要素が絡み合って起こるものといえます。ただ、学校は組織ですから、第一の要素は校長といえます。校長自身のUnlearnは欠かせません。そして校長のUnlearnは先生たちに波及していくでしょう。こうなったとき、その学校は変わって行きます。しかし、こんな学校の取り組みを応援したり、足を引っ張ったりする存在があります。実はそれが保護者なのです。保護者は従来型の勉強しか経験していません。学校行事も自分達のやってきたものしかイメージできません。だから、保護者のUnlearnも大切ということになります。ですから、学校関係者全体のUnlearnが必要となるわけです。そのため、ここで大切なのは「未来の共有」ということになります。子どもたちが生きる未来はどのような社会であるかを理解し、その大きく変化した未来に生きるためには、どんな力が必要なのかというイメージを、学校と保護者、さらには学習の主体である子どもたち自身が共有することが求められます。つまり、社会全体のUnleranがGIGAスクール構想による学校DXを支え、子どもたちの未来を創るといえるでしょう。

執筆者紹介

平井 聡一郎(ひらい そういちろう)

文部科学省ICT活用教育アドバイザー
総務省地域情報化アドバイザー
経済産業省産業構造審議会教育イノベーション小委員会委員

略歴

公立小・中学校で教諭、教頭、校長として勤務。
教育委員会指導主事、教育委員会参事兼指導課長を経て、
現在、株式会社情報通信総合研究所特別研究員として勤務。
またドコモ教育アドバイザーとして数多くの研修やセミナーを実施している。

主な研修内容

マインドセット/プログラミング/アプリ研修 など

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