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物流プラットフォーム「ハコベル」が挑む物流DX #1

  • 齋藤 祐介氏ラクスル株式会社
    ハコベル事業本部
    ソリューション事業部 パートナー

物流業界は変革の過渡期を迎えている。ドライバー不足による物流危機が叫ばれるなか、生産性改善ための業界全体のDXが期待されている。その一方で、まず現状のアナログ業務をデジタル化する時点での課題も多い。

物流プラットフォーム「ハコベル」は全国の運送会社をネットワーキングし、ラストワンマイルから幹線輸送まで幅広いニーズに合わせたマッチングサービスを提供。自社内の配車センターのデジタル化の事例をもとに、お客様にもシステムやノウハウの提供を行い業界全体の課題解決を目指し物流DXを推進している。

本記事では、自らの事業で物流DXを実現し、さらに業界全体へとその動きを推進しようとするハコベルが、プレーヤーとしての視点から、物流DXの壁とあるべき姿について考察する。

  1. 01物流危機から期待視されるDX
  2. 02アナログな配車業務の課題とDXの目指す姿「フィジカルインターネット」
  3. 03物流DXの壁
  4. 04不可能といわれた配車DXを実現した「ハコベル」

物流危機から期待視されるDX

物流業界はおよそ24兆円でGDPの約5%を占める基幹産業だ。日々商品を運び、まさに生活のインフラ産業といって差し支え得ない産業だが、担い手不足からその将来は不安視されている。

特に輸配送を支えるドライバーの人口は、高齢化の影響により2017時点の83万人から2023年には72万人まで減少すると予想されている。一方で、ECなどの需要は拡大していて、同じ2023年には96万人のドライバーが必要になると考えられており、24万人分の需給ギャップが生じることになる。(出所:BCGレポート

結果として、モノが運べない状況が予想されており、メーカー各社にとっては売上対物流費が上昇するだけでなく、安定した商品供給が難しくなる。これは、消費者にもコスト面、便益面で負担がかえってくることになり、これらは「物流危機」と呼ばれ、国土交通省をはじめとした政府、各企業、メディアで社会の重要課題とされている。

しかし、この問題の一方で、実際の物流量に対してトラックとドライバーが根本的に不足しているかと言われば、答えは否だ。一般的に積載率は約4割(出所:国土交通省)と言われており、トラックが空で動く時間、空車率も少なくはない。さらに、積み下ろし時間等でトラックドライバーは非効率な業務を強いられており、このような作業の効率性があがれば報酬が増え、結果的にドライバー人口も増える可能性もある。つまり、生産性が現状から劇的に改善すれば、需給ギャップの課題が一定解決出来る可能性があるのだ。そういった理由から、物流DXが期待されているのだ。

現状の生産性の低さの原因は、「アナログな業務」と「多重下請け構造」だと我々は考えている。業務をデジタル化し、運送会社同士が複数の会社を通さず、極力荷主企業と直接マッチングできるような仕組みができることでその問題も解決でき、それを実現するのがDXである。

アナログな配車業務の課題とDXの目指す姿「フィジカルインターネット」

通常、必要な荷物を運ぶための車両手配のやり取り=「配車業務」は、今日においてもほとんどの企業では電話やFAXで行われている。必要な荷物が発生するたび、都度運送会社にアナログな手段で連絡を取り、対応可否を尋ねていく。電話をうけた運送会社は自社で対応出来ないか予定表を見て確認。自社で対応出来ない場合も別の運送会社に電話で対応可否を芋づる式に尋ねていくという流れだ。
このような過程を経て、最終的に車両が見つかったとしても、子請け、孫請け、ひ孫請けといった多重下請け構造のなか、実際の運送会社への支払いはその分の仲介費が差し引かれる。重要な伝達事項も乗務員に伝わらないケースもあり、あとで荷主が案件情報を更新すると、複数社を伝言ゲームのように介して情報を伝える必要があり、トラブルの原因になるケースも多い。また、このアナログなプロセスでは、限られた範囲の運送会社にしか連絡ができないため、積地の近くに最適な空の車両があっても、連絡が届かなかったという非効率な事態も頻繁に発生している。

このように、現状の配車業務は非常にアナログで、生産性が低いのが現状だ。アナログな手段を用いて情報を各自がそれぞれやり取りするのではなく、デジタル化することで一つのプラットフォーム上に情報を集約させ、インターネットのようにつなぎ合わせれば、即座に全体最適する形で配車が出来るはずだ。そのような概念こそが「フィジカルインターネット」だ。物流のシェアリング、オープン化、標準化といった形で語られるこの言葉を、現在、国土交通省などをはじめ、物流関係者は進む方向性だと定め、後押ししている。

実際海外でも同様概念のシェアリングサービスが進展している。日本でもフードデリバリーを展開するUberも、Uber Freightという子会社を作り、配送車両マッチングサービスを開始した。同様のサービスを行う企業として米Convoy社などもおり、各社約数百億円もの投資を行って、しのぎを競っている。

物流DXの壁

物流DXを実現すれば、物流危機が回避出来る。そう期待される一方で、実際のデジタル化の進展は容易ではない。

ひとつ目の壁は、中小規模を中心に全国約6万社いる貨物自動車運送事業者のデジタル化だ。ドライバーだけではなく、運行管理をする人員も高齢化が進んでおり、いままで慣れ親しんだアナログな配車業務を変更することが難しい状況と言える。配車業務担当者は止められない日々の業務で新しい試みを行う時間がないうえ、配送現場に出ている人も多い。また、電話でのやりとりで人間関係を構築することが主流なため、デジタル化に苦手意識を持つ人が多いのも現状だ。

ふたつ目の壁は、配送情報の標準化だ。プラットフォームの中で最適な車両とマッチングするには、いままで独自の形式や暗黙の了解でやりとりしていた情報をデジタル化し、共通システムで管理できる形にすることで属人性を無くす必要がある。一方で、商材や企業、業界毎に必要な仕様・風習が異なる上、標準規格を作るのは困難だ。一社だけを取り上げてみても、サプライチェーン全体の情報連携も行わればならず、生産や営業といった物流以外の部署との調整に時間を要する。

上記のような課題はあるが、各社個別に先進的な取り組みを行い、少しずつ成功事例が生まれ始めている。その一つの事例として我々ハコベルを紹介していく。

不可能といわれた配車DXを実現した「ハコベル」

ラクスル株式会社は物流プラットフォーム「ハコベル」を2015年から開始した。荷物を送りたい企業・個人と空き時間に仕事を受注したいドライバーをマッチングする軽貨物向けのサービス「ハコベルカーゴ」、2t以上の一般貨物向けのマッチングと配車管理を行う「ハコベルコネクト」を提供している。2021年2月現在、2万台以上の登録車両があり、デジタル上での最適なマッチングを実現している。

「ハコベル」は、アナログな配車業務で立ち上げたマッチング事業を自らDXし、前述の課題を超え、現在では9割以上の案件のマッチングをデジタル上で可能にした。

一方、最初から今の形が簡単に実現できたわけではない。特に業界からデジタル化は不可能と言われていた一般貨物の領域においては、当初アナログな配車業務を行うことで事業を拡大してきた。迅速な配車と品質改善によって、荷主・運送会社双方の信頼を獲得して事業を成長させたが、事業が拡大するにつれて人が行う配車業務に生産性の限界があった。

そこで新たに、パートナー運送会社を大規模に巻き込んだDXプロジェクトを発足。一般貨物の市場に対応し、適切に様々な業務内容を管理出来るシステムを新たに開発するとともに、パートナーへのシステムの利用案内と促進を進めてきた。

システムは現行の業務で実現出来ていることをおろそかにした独りよがりなシステムにならいよう開発に取り組んだ。エンジニアチームがパートナー運送会社へのヒアリングを実施するほか、自身が配車業務に入り込み、利用シーンを徹底した理解に努めた。業務フローはもちろん心理的な使いやすさも含めて、毎日使う伝達ツールとしてふさわしいUXを考えている。また、クラウドシステムとして、日々のフィードバックから毎月のように新機能をアップデートしている。

そのほか、システムをただ提供するのではなく、忙しい日常の業務からスムーズにデジタルに移行出来るように専門のオンボードチームを組成している。(オンボードとは「船や飛行機にのりくませる」という意味で、我々はシステムを新たに導入する際にこの言葉を使っている。)業務面でも心理面でも負担なく導入が進むようオンボードフローを設計し、適切なサポートを実施してきた。

結果として、多くの登録運送会社の新しいシステムをご利用いただき、現在はほんどの配送依頼をデジタル上で受注頂けるようになった。生産性改善としても、今まで電話-FAXといった配送業務に関わっていた時間が大幅に削減されたことで、配車担当は人の対応が必要な業務にのみ集中して取り込めるようになり、1人あたりの処理案件数が2倍以上になった。さらにパートナー運送会社からも、電話時間が減り、デジタル化による業務改善の価値を感じているという声を多数頂いている。

このようにハコベルでは、困難といわれていた物流領域でのDXを自ら推進し実現した。既存業務への尊敬の念と深い解像度を持ち、辛抱強いコミュニケーションを行うことで、業界全体のDXが進み将来も安定した物流が構築出来ると信じている。

まだ業界全体に対しては狭い領域ではあるが、この知見をもって業界により貢献しようと、あらたに荷主企業様向けにDXソリューション事業を立ち上げた。現在では、株式会社NTTロジスコ、ネスレ日本株式会社、をはじめとして、メーカー、3PL各社のDXを支援している。次回の記事ではこのDXソリューションと物流DXを進める上で大事にしていることをお話させていただく。

PROFILE

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