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BBCのディレクターが語る
「ネットがニュースメディアに与えた影響」


「閉鎖されたメディア」と「オープンなメディア」


David: 各ニュースメディアが、自らのコンテンツにこだわりつつも、読者がサイトを訪れたくなるよう努める上で、どんな葛藤が起きているかは目にしていらっしゃいますよね。少なくとも営利的なニュースサイトとしては、サイトは広告を掲載できる場所である一方で、誇りとブランドのよりどころでもあります。

そしてまた一方では、ニュースメディアが制作しているコンテンツが、他のメディアからのコンテンツと混ざっていく過程での葛藤があります。たとえば、読者の多くは、同じ話題に関して、あるサイトから出された記事だからといって、別のサイトからのものよりも好むなどということはありません。読者は一番面白い記事を求めるものです。

ですからニュースメディアとしては、サイトの個性や統一性を維持しようと努める一方で、それらを写真、記事といった構成部分に分割し、別のところでリミックスするという試みも出てきます。BBCはその使命のため、特異な位置にいます。BBC以外のサイトからBBCのコンテンツが配信されることについて、BBCではどのように考えているのですか?
Richard: 確かにBBCでは、とても大きな文化的変化を通り抜けなければならないでしょう。BBCの場合、非常に長い間変化の中を歩んできたのですが、まだ最後まで行き着いてはいません。

インターネットの初期段階では、BBCサイトにできるだけ多くの人々を引き付けて、できるだけ長く彼らを引き留めることが課題だと考えていました。今、本当はそんなことではないということがわかってきています。課題は、人々をサイトに呼び寄せて、人々が訪れたくなるようなコンテンツを掲載し、それらの情報によって人々が何らかの行動をとることが簡単にできるように支援することにあります。

行動とは、記事を友人に電子メールで送るとか、動画をダウンロードして自分のサイトに埋め込むとか、あるいはその動画を両親に送信するといったことです。BBCのコンテンツを人々がやってきて見ることができ、自分のコメントを投稿できるということだけでなく、そのコンテンツによって何かの行動ができるということは、読者にとって重要なことです。

こうした文化的変化は、要するに、私たちの城のなかにいる人々を追跡して、そのまま引きとめようとするのではなく、もっとオープンで出入りをしやすくするということですが、そうすることには本当に価値があります。そのようなアプローチとそのような姿勢によって、私たちは信頼を得ることができ、私たちを中心にコミュニティーが形成されていくでしょう。これは、従来型メディアにかかわる人々がなすべき、非常に大きく文化的な考え方の転換です。

そういった地点に到達した、あるいは到達しつつある組織はたくさんあると思います。BBCではもう少しのところですが、まだ先があります。他のメディア機関も見ることができますが、発展の道のりのどこまで到達しているのかはわかりません。

もう1つ私がお話ししようとしていることは……かなりいろいろと話してきましたが、すべてはこうした価値、つまり、こうした相互編集の重要性に戻るのです。というのは、最終的に、読者や一般の人々の参加をどの程度まで認めるか、参加に関してどの程度までオープンにできるか、そして、参加を促進し利便性を高めることに価値を認められるかといったことは、どれをトップニュースの記事とするかという判断と同じくらいに、組織としての姿勢を物語るからです。

編集の重要性にかかわる大きな問題が、誰にインタビューするかとか、記事の現在の選択や順序付けといったことだけにとどまらず、社会との全体的な関係に絡んでいくのは、非常に興味深いことだと思います。
David: それはとても興味深いですね。ただその話は、人々がいまだに、BBCのコンテンツを見るためにBBCサイトを訪れるということを前提にしています。そしてそれとは異なる、閲覧のもう1つのパターンがあります。もう1つのパターンとは簡単に言えば、『Google News』などのことです……。

私たちは、ご存じのようにGoogle Newsのような……記事を統合してくれるアグリゲーターを訪れます。たとえば、急死で話題となったAnna Nicole Smithに関するような本当に重要な記事……うーん、これはよくないかな。イラク戦争の展開に関するニュースですが、それに関しては2000もの選択可能な記事があり、BBCの記事もその中の1つです。

このような閲覧パターンになった場合、人々が自社サイトを訪れることに全面的に依存するニュース機関はどうなるのでしょう? というのは、そういったニュース機関はそこで収入を得ているわけですから。BBCは違いますが。

もう1つお尋ねしたいことは、「BBCでは、他のサイトでの自社コンテンツの掲載を促進するような方策を、ひょっとして何か行なっていますか?」ということです。
Richard: 私たちは1週間前に、米Google社傘下の米YouTube社との契約を発表したばかりです(原文記事掲載は2007年6月22日)。YouTubeでは、ニュースだけではなく当社の他のコンテンツのクリップも提供していくつもりです。YouTubeのユーザー向けに、広告支援型になるチャンネルを持ちます。事業モデルは広告売上モデルです。人々がこのBBCのチャンネルを訪れることで、BBCのサイトへのアクセスも促進されるだろうと考えました。こうした種類の連携は、現在の事業戦略においてきわめて大きな要素になっており、これからも発展していくでしょう。

つまりこうした動きは、よりオープンな関係であろうとすることであって、「さあ、あなたたちのコンテンツも私たちのコンテンツも、両方ともが同じところにあるべきだ」と言っているのです。何が起きているのかを見るために人々が訪れるところはどこでもそうあるべきです。YouTubeはたぶんそうでしょう。あるいは、『Google Video』や『Yahoo!』もそうかもしれませんし、他にもあるかもしれません。起きていることを知るために、あるいは楽しむために人々がどこかを訪れるとしたら、そこがどこであろうと、私たちのサイトにあるのと同様に、そこにも私たちのコンテンツがあることを人々は望んでいます。

ここでもまた、少しの信頼を得られるのだと考えてください。こうした手法をいかに有効に生かすかについては、業務モデルができつつあります。自社サイトに少しのトラフィックを呼び戻すことにもなるので、それもある種の価値だろうと私は思います。
David: ふむ、ここに大きなパラドックスがありますね。しかし、こうした手法にあなたが信頼をおいていることは、非常に興味深い現象だと思います。自社のコンテンツを他のサイトで掲載させるという積極性によって、御社のブランドは構築されているのですね。
Richard: ええ、その通りです。
David: もう少しお尋ねしたい……失礼、どうぞ続けてください。
Richard: 懸念はありました。何年か前にこの問題が持ち上がったのです。よく覚えていますが、BBCでサイトに記事を掲載する際、同じ題材の記事を、おそらくは違う視点から掲載している他のニュース機関へのリンクを貼るべきかどうかが議論になりました。そんなことはばかげている、ライバルを宣伝することになる、人々に来てほしいのはBBCのサイトなんだと、強硬に主張するグループもありました。なぜライバルのサイトに導くようなことをしなければならないのか、というわけです。それに対して、人々に価値のあるサービスを提供することで、私たちが信頼を得ることができると論ずるグループもありました。私もその1人です。

それが、人々のインターネットの使い方なのです。理解しなければならないのは、われわれは、自分のサイトの読者でない人々に対してでも、価値のあるリンクや情報を提供できるだけの自信を持つ組織であるということです。そうすることによって、私たちは多くの揺るぎない信頼を得ることになるでしょう。

ささやかなことかもしれませんが、BBCのニュースサイトを訪れれば、記事だけでなく、同じ題材の記事が掲載されている他のニュース機関へのリンクがあるということ。これは実際、好意的に受け取られていることがBBCの調査で示されていますし、こうしたことでサイトに戻ってくるアクセスが多くなっているのも事実です。

まだ、こうした方向性への第一歩を踏み出しただけです。現時点で、YouTubeに1日に13本ずつ新しいクリップをアップロードするつもりだということは明言できます。そして、さらに拡大していくことは確実です。
David: そうして、総体的な多様性のなかに自社のコンテンツを加えていくのですね。それは、一部の新聞などで顕著な、コンテンツを有料の壁で囲い込むことで、自らのブランドと価値を維持しようとする方針とは正反対ですね。
Richard: その方針は、「私たちのコンテンツはとても優れていて、非常に特別でユニークなので、手に入れるためには人々は料金を払い、多少の面倒はいとわないだろう。私たちのコンテンツはとてもすばらしいと確信しているので、それを求める顧客には労力を費やしてもらうつもりだ」と主張する考え方です。

そうですね、場合によってはその方針が正しい可能性もあるでしょう。ただ、そういった方向に進むことで、限られた分野のユーザーばかりを対象にしていくことになると私は思います。なぜなら、特定のコンテンツを得るために料金を払い、登録の手間をかけたりといった諸々のことを厭わない人々が、一般多数派のユーザーになることはあり得ないからです。
David: もう1つだけお聞きしてもいいですか?
Richard: もちろん、どうぞ。
David: あなたは、じつに素晴らしいブログ記事を書いていらっしゃる。
Richard: どうもありがとうございます。あなたもそうですね。
David: ほんの何年か前まで、あなたのような地位にいる人が、身分を明かした個人的なブログを書くということは考えられませんでした。無党派でなければならない必要性と、ある種厳格に権威を保たなければならない必要性とが、調和することはないので不可能としか考えられませんでした。ブログを書くことと、ご自分の職務上の役割との間で緊張を感じることはありますか?
Richard: 率直に言って、それほど大きな緊張は感じません。それは私のやり方のためです。私はきっと、現在私がいる位置から、私がその位置でやれることに到達するまでの旅の途上にいるのです。

簡単に説明すると、ブログを始めたのは、BBCでの私の職務が変わって、私のことがあまりよく知られていない新しい分野と新しい部門を担当するようになったときでした。「どうしたら私のこと、私にとって大切なこと、私が信じていることなどをスタッフに知ってもらえるだろうか」と考えたのです。

たぶん4年か5年前のことでした。「そうだ、これまでのような上司のデスクから発信されるニュースレターや電子メールではなく、ブログをやってみよう」と思ったのです。これは予想していたよりもはるかに成功しました。スタッフが廊下で私を呼び止めて、ブログの内容について話したり、私の下にいるスタッフの人数よりも多くのトラフィックがあったりなど、いろいろなことがあります。

そう、初めはBBCの社内ブログにしかすぎなかったのです。社内でブログを始めると、「私はBBCの人間ではないけれど、あなたのブログをとても読んでみたいんです。なぜ私は駄目なんですか?」と言う人がたくさん出てきました。

実際のところ、企業の壁の内側から外に踏み出すということは、とても難しいことでした。なぜなら、英国におけるBBCは、ときに、激しい議論の的になるニュース機関だからです。現在のメディア論争区域と言えます。実際、何かを投稿するときはいつでも、もし誰かが悪意を持ってこれをメディアで利用しようとした場合、どのように見えるだろうかと考えなければなりません。ある程度の自己規制はしますが、大切なのは、何を書き、どのようなアプローチを取るかという姿勢にあると思います。

BBCの演壇といったところからでも発言する覚悟の持てないことは、ブログでも決して書く気はありません。しかし言うまでもなく、ブログを書くということはずっと非公式な作業であり、職務上の問題よりはるかに多彩で、なんと言ってもきわめて有意義な体験です。
David: 本日は時間を割いていただき、ありがとうございました。こういった問題に取り組むBBCを、総合的に見ることができ、さらにはあなたの幅広いご活躍も垣間見ることができ、じつに素晴らしい体験でした。
Richard: 申しあげたように、あなたとお話しをするのはいつも最高の楽しみです。こうした問題については、今後も引き続き話し合えればと願っています。なぜなら、私たちみんながこうした問題に対してさまざまな方法で奮闘していますし、しばらくの間はこの状態が続くのは確実なのですから。
David: 今日は、BBCのGlobal News担当ディレクターRichard Sambook氏にお越しいただきました。この番組は、ハーバード大学ロースクールのBerkman Center for Internet & Societyの特別研究員で、『Everything is Miscellaneous: The Power of the New Digital Disorder』の著者であるDavid Weinbergerがお送りしました。
このポッドキャスト・シリーズは、Berkman Center for Internet & Societyとワイアードの提供により実現しました。このシリーズの他のポッドキャストをお聴きになりたい方は、ワイアードのブログ『Epicenter』の紹介ページにアクセスしてください。

[日本語版:ガリレオ-向井朋子/小林理子]


※この記事は米国「WIRED」の記事を翻訳したものです。
  WIRED NEWS 原文(English)

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