時代は大きく変化している。それを認識し、成長から発展へとモデルを変えていくことが今、求められている。その変化の中で、これから求められるビジネスモデルが生み出され、ビジネスは次の展開を始めていく。そこでは時代の風を鋭く感じ、その風を先んじて活かしたり、あえて立ち向かったりしていく、イノベータ達が欠かせない。新しいモデルを作るには、新しい知を備えかつ新しい発想をする人材が必要だ。「先端領域で活躍する“人財”の育成には、従来の工業社会モデルに基づく知識伝授型教育ではなく、実践を通じて、気づき、学び、考え抜ける力を付ける教育モデルが必須だ」と東京大学先端科学技術研究センターの妹尾堅一郎氏は主張する。先端的領域で活躍する“人財”の育成のためには何が必要か。今どのような実践が求められているのか。妹尾氏に聞いた。
実践の中で学び、考え抜く力を付けることが先端領域での人材育成
――新しい知を備えた人材が求められていますが、人材育成について、どのようにお考えですか。
妹尾 これまでの教育モデルは、「確かめられ・体系立てられた・知識を・順序立てて・教える」ということが基本でした。その背後には、仕事ができる人は知識を持っている人だという世界観が潜んでいます。これはマスエデュケーションの基本で、単位化、標準化を特徴とする工業社会モデルの一つに他なりません。既存領域で活躍する人材を大量に育成するには、確かに効率的な教育法です。しかし、これは先端的な領域では有効でありません。先端領域では、確かめられ、体系立てられた知は存在しないから、この教育法が相応しくないのは当然です。そもそも体系的な知識があるなら、それを先端とは呼ばないはずですね。
――どうすれば、先端的な“人財”を育てられるのでしょうか。
妹尾 先端領域の知の特徴は第1に融合領域であることです。例えば、知財分野であれば、科学技術と法務、経営が融合しています。第2は流動領域であることです。そこでは、変化したり、確かめられていない情報の中で、的確な判断を下すことが求められます。そして第3は唯一の正解がないこと。正解が複数あるのではなくて、正解という概念がなく、自分たちで自分なりの“応え”を作っていかなければならない。その時に、最も重要なのは「考え抜く力」です。意味づけや自分の判断を正当化しながら、最後まで考え抜くことが重要なのです。そのためには、分析や仮説検証といった科学的な方法より、むしろ「気づき」や「学び」を軸にした「探索学習」の方法論を体得することが求められるのです。つまり、人の育て方が全く変わってきているのです。従来型の教育ではなく、実践的な経験の中で、学び、育てるようにならなければ。
教育とは「学習者の創造」。他と同じことを言えるか、他と違うことが言えるか、それが勝負。
――プロフェッショナルを育てることも必要ですね。
妹尾 プロフェッショナルには、まず「DueProcessの修得(やるべきことがきちんとできること)」、そして、「戦略的選択肢を持っていること、すなわち、あの手、この手が使えること」の2つが求められます。
この2つを考え合わせると、まずケースメソッドやプロジェクトメソッド、あるいはロールプレイ等の「実践的経験」を徹底的に積むことが有効です。つまり、稽古をたくさん積んで、的確な判断力を養っていく擬似的実践経験が必要です。そして、もうひとつ重要なのが「互学互修」。先端領域で活躍している人たちがさらに高度化・広域化していくには、同じイシューに異なる立場で取り組み、それを通じてお互いに教え合い、学び合うことが必要です。そうすれば、様々な知見が生まれてきます。そこでポイントになるのが「場と機会」の提供です。最近「場」を言う方が多くなりましたが、それだけではダメ。そこに互いが気づき合い・学び合うことをせざるをえない「機会」を提供しないと動きません。私が関わる教育プログラムは全て、大なり小なり、この考えで動かしています。
――知識伝授から学習支援、互学互修へということですね。
妹尾 教育とは何かと問われれば、それは、学び続ける人、学び続けることを楽しめる人を育成すること、すなわち「学習者の創造」です。さらに言えば、「人と同じことを言えると共に人と違うことを言える」ようにしていくことです。日本には、世阿弥に起源を持つと言われる「守破離(しゅはり)」の考え方があります。これは真似をしている内に、ある段階から不連続的な発展が生まれて、道を究めることができるというものですが、それに則って、物真似で留まるのではなく、自らのオリジナリティを出すような創意工夫を進めていくことが何よりも大切だと考えています。
ICTトレンド解説 第三回INDEX
その5 |
先端領域の人材育成では「知識伝授」型教育は限界。実践の中でこそ考え抜く力を養えられる |

