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イノベーションと生産性のスパイラルな関係を認識し、自らのポジショニングを見極める 東京大学 先端科学技術研究センター 知財マネジメントスクール校長役 特任教授 妹尾 堅一郎 氏

成長か、発展かの議論と同様に、混乱しているのがイノベーションと生産性の関係だ。イノベーションとは今までの生産性が全て無に帰するような全く新しいモデルを創出することだ。一方、生産性はひとつのモデルを普及・定着させるために必要になる。「イノベーションによる成長の促進とか生産性の向上というのは、平面的には概念矛盾なんです。イノベーションと生産性はスパイラルな関係としてとらえるべき」と東京大学先端科学技術研究センターの妹尾堅一郎氏は強調する。イノベーションと生産性の関係を整理した上で、企業はイノベーションをどうとらえ、生産性向上をどう考えるべきなのか。妹尾氏に聞いた。

イノベーションと生産性に関する議論の混乱

――イノベーションが大きな話題になっていますが。
妹尾 最近、「イノベーションで成長を促進する」「イノベーションで生産性を高める」という話をよく聞きます。しかし、イノベーションは中国語で「創新」というように、今までと違うことの新機軸を立ち上げること、つまり、新しいモデルに移ることです。これに対して、生産性向上とは今のモデルを前提として、それをいかに効果的・効率的に進めるか、ということです。ですから、新しいモデルに変えるイノベーションと今までのモデルを前提にする生産性とは、そもそも矛盾するわけです。
 レコードをいくら研究してもCDが生まれなかったように、生産性をどんなに高めてもイノベーションは生まれません。今までの生産性向上に関する知見がすべて無に帰するようなモノやコトを創出するのが、そもそもイノベーションなのですから。したがって、イノベーションと生産性を並べるのであれば、その論理を整理する必要があります。私は生産性向上が要らないといっているわけではありません。企業はイノベーションすべき時なのか、生産性を高める時なのかを、はっきりさせなければいけないと思うのです。それをイノベーションで生産性を高めるというのは余りにも粗雑な議論ではないでしょうか。


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イノベーションと生産性のスパイラルな関係の中で、ポジショニングを見極める

――今ある土台の上で、イノベーションは生まれないのでしょうか。
妹尾  イノベーションが起こりそうな時期に、生産性を高める設備投資をやるのは間違いです。かつての日本の半導体メーカーの失敗の原因はそこにあります。一方で、生産性を高める時期にイノベーションに挑み、キャッシュフローを失う企業も多い。ですから、経営者は状況を見極め、どちらに注力すべきか、を読み切る力を持つ必要があります。その上で、イノベーションを起した後は、それを普及・定着させるために、生産性を高める必要があるわけです。

――両者は関連しているというわけですね。
妹尾  その通りです。生産性を高め、普及・定着が限界近くなった時に、イノベーションが生まれるスパイラルな関係にあります。そう考えれば、自分たちがどこにいるかが分かるのです。成長・発展の議論に戻って、そのスパイラルで考えれば、今の日本は間違いなく、発展段階にあります。井伏鱒二(いぶせますじ)に、「山椒魚」という有名な小説があります。山椒魚が岩穴の中で悩んでいたら、身体が大きくなり過ぎて、出られなくなってしまったという話です。私は日本は今、岩穴から飛び出す時期だと思うのです。そのまま居続けて、穴から出られなくなったのではどうしようもない。企業も同じで、スパイラルな関係の中で、タイミングを逸しないように、判断すべきなのです。成長と発展、生産性とイノベーションの両方を議論して、その関係づけを検討し、私たち自身のポジショニングを見極めていくことが求められているのです。

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