NTT Com グローバル Watch vol.3

[2015年3月改訂]

アジアの金融市場の成長を支える、低遅延ネットワークと高機能データセンター

国際的な株式売買システムのスピードアップはとどまるところを知らない。コンピューターとネットワークを駆使した取引では、マイクロ秒(1秒の100万分の1)単位での遅れが致命的になるときもある。成長力の高いアジア金融市場でも、高速かつ高頻度で行われる取引を安定して行うためのネットワーク環境が求められるようになった。アジアの金融センター東京・香港・シンガポールと、さらにそれらを北米の取引所とつなぐ、NTT Comのバックボーンや高機能データセンターが注目されている。

マイクロ秒単位で注文を出す高頻度取引が世界中に拡大

金融取引の世界では、一瞬の判断の遅延が大きな差を生むといわれる。ごくわずかな時間差で入手した情報が100万ドルの利益を生むこともあれば、大損害をもたらすこともある。金融市場で効率よく利益を上げるには、取引情報に迅速にアクセスし、取引のチャンスを見極めて、直ちに行動することが原則だ。

近年、この判断のスピードがますます高速化している。その理由は、コンピューターとネットワークを駆使したアルゴリズム取引や自動取引が一般的になったからである。アルゴリズム取引とは、コンピュータープログラムが株価や出来高などの変動に応じて売買の注文のタイミングや数量を決定し、自動的に注文を繰り返す自動取引のこと。この自動取引を行うための売買の戦略を1秒間に数千回、数万回もの頻度で実施して注文を繰り返すのがHFT(高頻度取引:High Frequency Trading)である。

日本取引所グループが公開している「JPXワーキング・ペーパー 東京証券取引所におけるHigh-Frequency Tradingの分析」によると、「World Federation of Exchanges [2013]が引用するTABB Group」の推計を用いて、近年アメリカの株式市場では約5割、ヨーロッパでは約3割の売買がHFT によるものと推計されていると指摘している。

もちろん日本においてもHFTを利用する投資家が増えている。例えば東京証券取引所では、注文件数や売買代金の大幅な増加、取引の高速化に対応でき、安全かつ信頼性の高い株式売買システム「arrowhead」を構築し、2010年1月4日より稼動を開始した。このシステムによって注文応答時間を2ミリ秒にスピードアップすることに成功している。さらにarrowheadはHFTを利用する投資家の要求に応えるために、現在では平均1ミリ秒程度の注文応答時間を実現している。

そして2013年からの注文件数及び売買代金の大幅な増加、電子取引の進展、現物市場の統合、投資家の新たなニーズなどの変化に対応するために、2015年9月24日の本番稼動に向けてarrowheadのリニューアルを進めている。

進展と高速化が進む株式売買の電子取引では、わずか1ミリ秒の差によって莫大な利益を生むこともあれば、逆に甚大な損失が生じることもある。これが10ミリ秒単位ともなれば、年間での収益ロスは計り知れないものになる。つまり、取引にかかわる処理速度を可能な限り短くする、ロー・レイテンシー(Low Latency:低遅延)への取り組みが、いまや取引所の競争力の源泉となっているのだ。

むろんこうしたスピード競争に追いつくためには、株式売買システムの性能向上だけでは十分ではない。株式売買システムを管理・運用するデータセンターの機能やサービスの品質と信頼性、そして資家と株式売買システムをつなぐネットワークの速度やサービスの品質と信頼性も不可欠のインフラになる。実際に東京証券所のarrowheadでは、arrowheadの性能を十分に発揮するために「arrownet」と呼ばれる高信頼性・低遅延のネットワークを国内に構築して運用している。さらに海外の投資家に最適なアクセス手段を提供する「arrownet-Global」も導入している。

図1 arrownet-Globalのサービスイメージ

日本市場と海外の主要市場や投資家とのコネクティビティをワンストップ提供。低遅延&高品質な国際ネットワークサービスを実現している。

このように株式売買もグローバル化が進んでおり、とりわけ注目されるのはアジアや北米の証券取引所の連携だ。かつてロンドン、ニューヨーク、東京は3大国際金融センターと言われていたが、90年代の日本経済の停滞および他のアジア市場の成長によって、現在は、香港、シンガポール、上海、東京を含む東アジアが、ロンドンや北米と並ぶ世界第3の金融センターとなっている。そしてHFTの流れはアジアにも拡大しており、特にアジアのハブとしての香港・シンガポールの役割が大きくなってきている。

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アジア金融市場をリードする香港・シンガポール

中国大陸の成長力を背景に伸びる香港金融市場

香港は世界有数の外国為替市場、証券市場として知られる。外国為替市場における1営業日の平均取引高は、2013年には世界第5位で2,750億米ドル(※1)にも及ぶ。証券市場としても香港証券取引所(HKEx)の存在感が大きくなっており、2014年12月の時点で時価総額 3兆2,330億米ドル)を誇る(※2)。この数字は、ユーロネクストの時価総額3兆3,190億米ドルに迫る規模である。

さらに香港市場の特徴は中国企業が積極的に上場していることであり、後背地としての中国大陸との経済貿易関係はますます強化され、アジア太平洋地域の重要な金融センターとしての地位を固めようとしている。

※1 出典:日本銀行 金融市場局「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ(2013年4月中 取引高調査)について」(2013年9月5日)

※2 出典:国際取引所連合(WFE)のレポートより引用。

図2 外国為替取引額(1日あたり)

出典:日本銀行 金融市場局「外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ(2013年4月中 取引高調査)について」(2013年9月5日)

図3 株式市場の時価総額

出典:内閣府「国際金融センター、金融に関する現状等について」(2014年4月18日)/内閣府がWEF(国際取引所連盟)資料より作成

大胆な金融改革に成功したシンガポール

金融知識に精通し英語が堪能なプロフェッショナル人材が豊富な点も、香港がアジアの金融拠点としての機能する理由の一つだが、この事情はシンガポールも似ている。

シンガポールの外国為替市場の1日あたりの取引額は、香港が2,750億米ドル(2013年4月)であるのに対して、シンガポールは3,830億米ドル(同)とより大きな市場を形成している。

シンガポールは日本などよりも先んじて、金融改革に成功した国としても知られる。1999年に合併で誕生したシンガポール取引所(SGX)は、世界の主要取引所間での国際競争が激しくなる中、様々な規制緩和や大胆な改革を実施した。アジア各国をはじめ、欧米やオーストラリアなど海外の取引所との関係強化にも熱心だ。2007年には新興企業のための株式市場 CATALIST を新規開設。これは中国、インドを含むアジア新興国の株式の上場促進を狙ったものである。

アジア新興諸国の経済成長を背景に、重要度の高まる香港・シンガポールの金融市場。高頻度取引も、いまや欧米からこの地域へ集中するようになった。アジアの各拠点を緊密に結び、さらにアメリカともシームレスに接続する、信頼性の高い金融インフラへの期待は高まる一方だ。

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アジアの主要都市をつなぐ高品質インフラストラクチャー

香港・シンガポールに高機能データセンターを展開

金融インフラ構築についてNTT Comのアジア各地での取り組みをみると、香港では2013年に香港において初となる金融サービス向けデータセンター「香港 ファイナンシャル データセンター」(FDC)の第一期構築が完了した。さらに、2015年末までに第二期の構築も完了する。

FDCはデータセンターの国際基準(※3)の最高水準であるTier IVを満たすインフラを備えおり、戦略的なロケーションと超低遅延ネットワークソリューションによって、金融機関等の極めて高い要求に応えられる設備となっている。

シンガポールでも、2012年4月、「シンガポール セラングーン データセンター」の提供を開始した。「香港 ファイナンシャル データセンター」と共に国際基準「Tier III」以上に相当し、現地に展開するITや金融系企業のビジネスを加速する戦略的インフラとして活用されている。

(※3)データセンター国際基準はTIA(米国電気通信工業会)およびTUI(The Uptime Institute, Inc.)によって定められたもの。商用電源、空調、UPS、発電機、配電ルートなどデータセンターに必要なファシリティの冗長構成や、運用体制・レベルを詳細に評価し、データセンター全体としての品質、信頼性を客観的かつ包括的に評価する仕組みで、「Tier I」から「Tier IV(最高水準)」までがある。

日本をハブに、アジアと北米を結ぶ大容量・低遅延の海底ケーブル

NTT Comは、日本からアジア、日本から北米など、日本を起点とした海底ケーブルを複数保有している。それらを利用し、各地の金融センターを結ぶ低遅延ネットワークを構築している。各地の金融センター間の遅延を最小化することが、国際金融ビジネスを活性化する鍵になるからだ。

例えば、東京・シンガポール・香港に設置された高機能データセンターを、低遅延・大容量の海底ケーブルASE(Asia Submarine-cable Express) で結んでいる。また、東京とアメリカの間は、同じく低遅延・大容量の海底ケーブルPC-1で結んでいる。

前述した日本が誇る東京証券取引所の株式売買システム「arrownet」と海外の投資家をつなぐネットワーク「arrownet-Global」も、NTTComのグローバルネットワークとデータセンターで実現したものだ。

金融ネットワーク網は、高速・高頻度取引に対応した低遅延ネットワークでなければならない。それを支えるため、NTT Comでは、バックボーンである大容量・低遅延の海底ケーブルを構築し、主要マーケットの最前線で、今後も高品質なネットワーク、データセンターサービスを提供し、お客さまをグローバルにサポートし続けていく。

図4 全世界に広がるNTT Comのデータセンターと低遅延ネットワーク

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現地事業担当者からのメッセージ

NTT Com Asia Ltd.

2013年に第一期の構築が完了し2015年末までに第二期の構築が完了するNTTコミュニケーションズ香港金融センター(FDC)は、香港において初となる金融サービス向けデータセンターです。FDCはNTT Com Asia所有の敷地面積約30,000㎡の土地に構築されており、データセンターの国際基準の最高水準であるTier IVを満たすインフラを備えています。さらに戦略的なロケーションと超低遅延ネットワークソリューションによって、金融機関等のお客さまの極めて高い要求にも応えることができます。

NTTコミュニケーションズは、金融機関等に超低遅延ネットワークソリューションを提供するには、香港証券取引所(HKEx)の取引システムが収容されているデータセンターとの物理的な距離を短くすることが重要と考えました。そこで、HKExのデータセンターに隣接するエリアにFDCを設置しました。

FDCはデータセンターから取引所、その先の世界の金融ハブ拠点とのデータ通信、さらに高速化する電子取引のスピードに応える超低遅延ネットワーク環境も提供しています。このFDCのコネクティビティは、売り手や買い手、データプロバイダーを含む金融機関等のビジネスにおいて、より競争力の高い価格でデータ経路の利用を可能としています。

さらに、アジア地域をつなぐ新しい大容量光海底ケーブル「Asia Submarine-cable Express」(ASE)の陸揚げ局やグローバルネットワークのノードを使用したコロケーションは、香港、シンガポール、東京の金融ハブに対して超低遅延接続を可能にします。また、日米のランディングステーション間を最短で結ぶ海底ケーブルPC-1を使って、アジア経済のハブとアメリカもつないでいます。

NTT Singapore Pte. Ltd.

2012年にオープンしたNTT Singaporeのセラングーンデータセンターは、Tier IV readyで設備に対する高水準な要望にもお応えします。1ラックあたり12KVAまで対応可能で、生体認証をはじめとするさまざまなセキュリティ対策も万全です。また、NTT ComのTier 1ネットワークにも接続し、商業データセンターとして初めてシンガポール建設局(BCA)から「グリーン マーク プラチナ アワード」を受賞しています。

24時間365日業務を継続するだけでなく、非常に高スペックな通信インフラを求められるIT企業や金融機関のお客さまに対して、NTT Singaporeではセラングーンデータセンターを含む高品質なICTサービスを提供しながら、サポートして参ります。

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