第三者意見
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株式会社大和総研
経営戦略研究所 主任研究員
河口 真理子氏
一橋大学大学院修士課程修了(公共経済学、環境経済学専攻)。1986 年に大和証券に入社。94年に大和総研に転籍。東京都環境審議会委員、神奈川県「かながわ産業活性化懇話会」委員、環境省 環境ビジネスウィメンメンバー、サステナビリティ日本フォーラム評議委員、社会的責任投資フォーラム運営委員などを歴任。青山学院大学非常勤講師、南山大学非常勤講師。アナリスト協会検定会員。
この報告書の第一印象は、IT企業のイメージに合うスマートで報告書のガイドラインなどの要求項目がほぼ網羅されている優等生的な報告書というものでした。また、丹念に読むと誠実さを感じさせる記述も散見されます。例えば、社員座談会特集において、本業でインターネットビジネスに関わりながらも「個人がネットに関わる時間を減らして、家族で地球環境問題の話をするようなコミュニケーションのあり方へシフトすべき」というCSRの本質を考えていなければ出てこないホンネの意見が掲載されています。また、通信設備のリユース・リサイクルに関する特集では、「通信事業者は、最先端の技術と設備を駆使して次々と新しいサービスを提供・・(中略)・・その裏側では、古くなった施設や設備が廃棄されていきます」という事業の影の部分にも正直に触れています。こうした正直な意見が社内的に認知されている企業風土ならば、経営戦略としてCSRが認識され実践されているのだろうと好感が持てます。また日本企業の報告書ではあまり言及されないフェアトレードや生物多様性という項目についても会社の取り組みが記載されています。
専門の立場からこの報告書を丹念に読むと、CSRに誠実に取り組んでいる企業像が浮かび上がってくるのですが、報告書をざっと一読した読後感となると、結局 NTTコミュニケーションズとしてステークホルダーに何を具体的にCSRとして訴えたかったのか、その印象が弱くはっきりしないのです。その最大の要因としてネットワーク社会とは何か、ということについて社会的にきちんと認識されていないことが挙げられると考えます。
和才社長のトップコミットメントにおいては、「つなぐ」を原点として、「安心」「安全」のサービスを提供することが通信事業者としての基本的・重要な使命である、と記載され、報告書のなかでも具体的な取り組みが報告されています。このことは通信事業者としてきわめて正統な方針です。ただ読者の立場からは、その重要性があまりピンとこないというのが実情ではないでしょうか。今やインターネットユーザーとしては「いつもどこでもつながって当然・当たり前」ですし、インターネットに潜む危険性についても、さほど明確に認識していないのが現実です。ネットワーク社会の浸透スピードがあまりにも速いため、利用者側、すなわち社会全体の心の準備・倫理を醸成する体制が追いついておらず、その意義が十分に理解されていないのが現状でしょう。
しかしこのネットワーク社会の背後には、報告書で記載されているとおり、物理的に世界中で通信の回線をつなげること、ITの素人も安心して簡単にインターネットにアクセスできる環境を維持すること、の大変さがあります。いいかえると、グローバルベースでインターネットという一つのシステムに依存しすぎるリスク、悪意も善意の情報もすべて平等に扱うインターネットのもつ怖さ、更にシステムを維持するための人的・環境的な負荷、などをマネジメントすることの困難さです。
この大変さとリスクを、社会はまだ十分に認識していません。よって、報告書で取り上げられている台湾沖地震被害からの早期復旧の取り組みや、安定的で信頼性の高い情報通信サービスについても、その重要性が読者にははっきり伝わらない面があるように思えます。これは情報の出し手と読み手の意識のギャップに基づくもので、そのギャップをこうした CSR 報告書で埋めていくことが必要と思えます。
例えばインターネットについても「こんなに便利に安心して使える」話だけでなく、使う側に潜むリスクについて具体例を挙げて啓発していくことも重要なCSR活動でしょう。自動車会社などが交通事故の危険性や、安全運転について啓発活動をするのと同様です。
そしてCSR戦略の柱である「人」と「環境」については、今後は経営戦略として積極的な取り組みを期待します。
まず「24時間・365日動いて当然」の情報通信システムを維持する裏には、技術だけでなくそこに常時携わる「人」が不可欠です。そうした厳しい労働環境の中で、従業員満足の高い職場をどのように構築していくかも重要なCSRの取り組みです。特に、IT産業は他産業に比べ女性や外国人の活躍度合いが高く、ジェンダーや人種のギャップの小さいダイバーシティが図りやすい職場に見受けられます。業界のリーダーとして、多様な従業員が満足する職場作りをもっと積極的に打ち出されてはどうでしょうか。
さらに、地球環境問題の深刻さを考えると、環境保全対策の重要性は今後一層高まります。日本の京都議定書における目標は「2008年~2012年までに温室効果ガスを90年比6%削減する」ですが、温暖化問題の深刻さからすると2050年までに世界の温室効果ガスを50~80%の削減することが不可避といわれています。NTTグループは現在日本の電力使用量の1%を使用する大企業グループであり、温暖化を考える上でその動向が注目される企業グループです。さらに今後の温暖化対策の一つには「モノ」を動かさずに「情報」を動かす仕組みの構築があります。相対的に情報通信産業への依存度は高まることが予想されます。こうした状況をかんがみ、日本を代表する企業として、他社に先駆けて短期的な環境目標に加えて、20年後、30年後を視野に入れ、社会の構造変化も織り込んだ大胆な環境戦略を経営戦略の一環に組み込まれてはどうでしょうか。
このように、安全・人・環境を積極的に戦略的に経営の中に組み込み積極的に強く対外的に訴えかけていくことで、読者には強い思いが伝わり、またそれらを社内で共有することにより、従業員のモチベーションを上げ、持続可能な社会作りと企業価値の向上につながる CSR活動となると期待します。
ご意見をいただいて
NTTコミュニケーションズ株式会社
代表取締役副社長
グループCSR委員長
田村 正衛
2006年度は6月に策定した「NTTコミュニケーションズグループCSR基本方針」に基づき、まだまだ未熟ではご ざいますがCSRの推進に一歩一歩誠実に取り組んでまいりました。
通信事業者として原点となる" つなぐ" という意味には、当グループとステークホルダーの皆さまをつなぐということ も含まれておりますが、ご指摘いただきましたとおり、情報通信サービスの利便性だけでなく、インターネットに潜む 危険性など負の側面につきましてもわかりやすくお伝えする努力を継続的に行ってまいります。
また、私どもは重要なCSR戦略としてCSR基本方針に「地球環境保護」「人財の尊重」を掲げておりますが、ご期 待いただいたことに少しでもお応えしていくことができるよう、本業の遂行とともに社会への貢献および地球環境保護 の観点を強く意識した長期的戦略のもとリーダーシップを発揮し、持続可能な社会の実現に邁進していきます。
