いまや企業にとって決して避けて通ることのできない環境問題。その中で、最近注目されている取り組みに「グリーンICT」がある。そもそも「グリーンICT」とは何なのか。また企業はいかに「グリーンICT」という考え方と向き合うべきなのか。このテーマにいち早く取り組んでこられた東京大学大学院工学系研究科の松野泰也准教授にお話を伺った。
地球温暖化の主な要因と言われているのがCO2の増加だが、気象庁が発表しているデータによるハワイ・日本・南極点におけるCO2濃度の経年変化を見ると、いずれの場所でも増加の一途を辿っている。観測を開始した当時(ハワイ・1958年、南極・1957年)は大気中のCO2濃度は約315ppmだったが、2005年の世界平均濃度は379.1ppmにまで上昇。これは産業革命(1750年)以前の平均値とされる280ppmと比べ、35.4%も増加している。
国連のIPCC(気温変動に関する政府間パネル)の第3次評価報告書によれば、このままCO2が増え続ければ、1990年から2100年までの間に地球の平均地上気温は1.4℃〜5.8℃も上昇すると予測されている。

ではこのまま地球温暖化が進むと、いったい何が起こるのか。2007年に発行されたIPCCの第4次評価報告書では、1.6℃〜2.6℃程度(20世紀末の平均気温から1℃〜2℃)の上昇により、最大で全生物種の30%に絶滅の危険が高まるとしている。その他、異常気象による干ばつや水害、海水面の上昇など、深刻な地球規模の危機が迫っているといえるのである。

こうした危機に対して、1997年に京都で開催された「地球温暖化防止京都会議」では、2008年〜2012年の間に温室効果ガスの排出量を1990年のレベルより全体で5%以上削減する約束がなされた。これがいわゆる「京都議定書」であり、2007年10月23日の時点で、176ヶ国が批准している。欧州では「EUバブル」という仕組みの中で、欧州各国が共同で8%の削減を達成しようとしている一方、アメリカはブッシュ政権誕生後、この約束は自国の経済にとって不利益になると主張し「京都議定書」から離脱していた。しかし、現在は国内世論の高まりなどを受けて協議そのものには復帰している状況だ。
では日本はどうだろう。京都議定書では温暖化効果ガスの排出量6%を削減することを目標としているが、2006年には逆に6.4%増えてしまっている。とりわけ企業活動に関して言えば、産業部門で減少しているもののICTとのかかわりが強い業務部門(商業・サービス・事務所など)では大幅に増大しているのが実状だ。 また、ICT機器の家庭や企業への急速な普及にともない、今後はICT全体の電力消費による環境への負荷がさらに増えると考えられている。経済産業省主催の研究会では、2006年のICT機器全体の年間電力消費量が約500億kWhなのに対し、20年後の2025年には約2400億kWhと約5倍に達すると予測。2005年の電力大手10社によるトータルの電力供給量が8830億kWh であることを考慮すれば、これがいかに危機的であるかがわかるだろう。

そうした中で注目されているのが、「グリーンICT」という考え方である。グリーンICTとはPCやサーバー、ネットワーク機器などの消費電力の削減や、ICT活用がもたらす効率化などにより、地球に優しいICT環境の構築を目指す取り組みである。 松野氏は、グリーンICTには2つの視点から取り組む必要があると主張する。1つは、ICT機器の消費電力削減や資源のリサイクルにより環境負荷の軽減を図る“グリーン of ICT”だ。「もちろん機器単体での省電力は不可欠ですが、ICT機器の稼働時の除熱による電力消費も軽視できません。また、製品の製造から使用、廃棄・リサイクルに至るライフサイクル全体で環境への影響を評価することも重要です」と、広い視野での判断を松野氏は力説する。

もう1つの視点は、ICTの活用によって環境負荷を減らす“グリーン by ICT”。TV会議であれば出張がなくなるので交通機関の利用が減り、環境への負荷が軽減されるなどがその一例である。松野氏は「ICTを積極活用し、情報の移動によって物や人の移動を減らす“脱物質”や“脱移動”がポイントです。いままで効率化という視点からICTに注力していた企業も、今後はそれが環境負荷の低減につながる点にも着目するべきでしょう」と語る。グリーンICTに取り組むことは、同時に業務効率化やコスト削減にもつながるなど、さまざまなメリットをもたらすのだ。

7月に開催される洞爺湖サミットを控え、社会的にもクローズアップされている感があるグリーンICT。「この潮流を決してブームで終わらせてはいけません。地道に根強く取り組んでいくことです」と松野氏は強調する。「グリーンICTによる消費電力の削減はコスト削減に直結するので、ユーザーのみならずICTベンダーや電力の安定供給が危ぶまれる電力会社にも大きな利点をもたらします。企業を元気にすることもできますし、すべての人々にメリットがあるのがグリーンICTなのです。まだ始まったばかりですが、マーケットメカニズムに乗って動いていけば一過性のブームに終わることはないでしょう」と松野氏は期待を込めて言葉を結んだ。






