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ICT用語ガイド
GUIDE 013 PLC(高速電力線通信)
〜新たなネットワークの選択肢、“PLC”の実力とは?〜

パート1 PLC概論

1-1:PLCとは?

「Power Line Communications」、略して「PLC」。日本語にすると「電力線通信」や「電力線データ通信」などとなりますが、ブロードバンド化を念頭に置いているため、一般的には「高速電力線通信」と呼ばれています。つまり、電気の通り道である「電力線」を通信回線として利用する技術のことで、電気のコンセントに専用のアダプタ(通信用のモデム)をつなぐだけで、物理最大速度200Mbpsの高速常時接続が可能になります。

PLCの最大のメリットは、“「すでにあるインフラ」を「通信」に活かせる”という点です。現在の日本では、電気、ガス、水道といったライフラインは、ほとんどの建物や敷地内に届いています。そのライフラインのひとつである電力線を高速通信に活用することで、新たに通信用のケーブルを設置する必要がなくなります。建物の構造上、LANケーブルの設置が難しかったり、無線LANの電波がうまく届かない場所でも、コンセントさえあれば無理なく、そしてスムーズに、通信可能な環境を作ることができるようになったのです。

信号の重畳イメージ

なぜ電力線で通信が可能になったのか? それは「使用する周波数」を変えているからです。「周波数が違う=電気信号が違う」ものは、たとえ同じ道を通っていても、お互いに混ざり合うことはありません。その電波の性質を上手く活かして、低い周波数(東日本では50Hz、西日本では60Hz)を従来通り電力に、高い周波数(2M〜30MHz)をデータ通信に使用し、1本のケーブルの中で「信号の棲み分け」をしています。そのため、途中でデータが壊れたり消えたりすることなく、ちゃんと目的地に届くのです。

PLCがクリアしてきた大きな問題

しかし、大きな問題がありました。日本では2001年、小泉内閣が策定し、強力に推進してきた「e-Japan重点計画」の中にPLC通信の設置が含まれ、国家政策として総務省主導の下、その基準の制定が検討されてきましたが、そもそも電力線は低い周波数で使う物として作られてきたので、高い周波数の電気信号を通すことはまさに想定外。そのような前提で作られていなかったため、ケーブルからの微弱な「電波の漏れ」が指摘されてきました。しかも、データ通信に使用する2M〜30MHzの周波数帯は、すでに船舶、航空機通信、短波放送、アマチュア無線、そして電波天文観測に使われているものです。ケーブルから漏れ出す微弱電波が他の無線通信に深刻な影響を与えるのではないか。そこが懸念され、2002年に行われた実証実験の段階では実用化に向けての許可はおりませんでした。

その後、2003年にPLC-J(高速電力線通信推進協議会)が設立され、参画各社は電波の漏れを押さえる技術の開発に注力し、2004年より総務省の許可を得て実証実験を重ねてデータを収集してきました。2005年の総務省「高速電力線搬送通信に関する研究会」で推進派、慎重派が共に議論を重ね、2006年の情報通信審議会、電波監理審議会での最終的な審議を経て、許容値が決定。そして10月4日、電波法に関連する省令、告示改正が行なわれ、PLCが容認されたのです。許容値は、漏洩電波の原因となるPLC機器のコモンモード電流※1を2〜15MHz帯で30dBμA(デシベルマイクロアンペア)以下、15〜30MHz帯で20dBμA以下とする、極めて厳しいものとなりました。モデムメーカはこれをクリアする技術開発を更に重ね実用化に向けて一歩を踏み出したのです。
ちなみに、20dBμA以下という数値がどれだけ厳しいものか、なかなか想像がつかない方も多いと思いますので、ここで簡単にご説明しておきましょう。
私たちはさまざまな電化製品を使っていますが、どんなものでも多少なりとも電波は漏れ出ています。漏洩電波をゼロにするのは、今の技術を持ってしても、難しいことなのです。
皆さんが今お使いのパソコンを含めて、全ての情報通信機器は電波の漏洩を防ぐために通信ポート(入出力端子)のコモンモード電流が、30dBμA以下となるよう規定されています。 PLCに課せられたのは、それよりも更に10dBも低い厳しい数値です。欧州では30dBμAという基準値で、すでに実用化されていますから、それに比べると日本はかなり慎重で、厳しい基準値を設けているのがわかります。ここまで徹底していれば、安心して使っていけるのではないでしょうか。

※1 コモンモード電流
コモンモード電流とは、平行する2本の導線で同じ方向に流れる電流のこと。2本の線の行きと戻りのバランスが大きく崩れている(平衡度が悪い)ときに、コモンモード電流はたくさん発生し、コモンモード電流が流れると、電力線の周囲に磁界と電界が発生し、電力線がアンテナとして働いて、電波が漏れ出てしまう。

PLCのしくみ

さて、ここで簡単にPLCのしくみについてお話していきましょう。PLCの使いかたは極めて簡単。“電気のコンセントにつなぐ” だけです。

PLCのしくみ(集合住宅の場合)

イメージしやすいように、一般の集合住での適用例でお話ししましょう。このスタイルは、スペインやポルトガル、ロシア、マレーシア、オーストラリアなど、すでに海外の集合住宅では実用化されているものです。

まずは建物の地下に設置された変圧器の分電盤に親機となるモデムを取り付けます。建物の規模や敷地条件など、必要に応じて中継地点にリピータ(信号の増幅器)を接続します。そしてそれぞれの電気のコンセントに子機となるモデムを接続すれば、準備完了。実にシンプルです。

PLCの物理的速度は最大200Mpbsですが、それは建物一棟分に対しての速度。ユーザが増えたり、いっせいに利用すると、そのぶん減速してしまいます。しかしこれはPLC独自の現象ではなく、ADSLなどのベストエフォート型の通信でも起こることです。あまり減速が激しい場合は、リピータを設置することでフォローしていきます。

子機となる室内のコンセントに接続したモデムの先に「何をつなげるか」は目的次第。パソコンはもちろんのこと、電話、テレビ、ビデオ、ステレオ、ゲーム機、給湯器や冷暖房といった制御装置、監視カメラなどのセキュリティセンサーなど、つなぐものによって、実にマルチなネットワークを、柔軟に構築していけるのです。

ホームネットワーク向けPLC

このマルチネットワークは「ホームネットワーク」と呼ばれ、一般ユーザ向けの家庭内LANのことなのですが、PLCを使うことで、家の中にある様々な電化製品を簡単にネットワークにつなぐことができるようになるのです。

PLCが登場した当初から、「ホームネットワークとしての可能性」に多くの注目が集まってきていました。NTTコミュニケーションズでPLCの可能性を調査している方に話を聞いたところ、PLCは、確かに「ホームネットワーク」から盛りあがって来ているようです。その理由として、

法人事業本部 システムエンジニアリング部 主査 大水 祐一

「例えば、ネット対応のテレビを買ったけれども、近くにLAN配線がないケースがありますよね。家のレイアウトなどの事情で、LANケーブルが配線できない場合もあるでしょう。そんな時にこそ、PLCを使うと便利だと思います。当社をはじめとしていくつかのキャリアやサービスプロバイダが動画配信サービスを提供していますが、QoS(Quality of Service)の規格が盛り込まれているPLCなら、より安定したムービー再生が可能になるのではないでしょうか」 (NTTコミュニケーションズ システムエンジニアリング部 主査 大水祐一さん)と話してくれました。

QoSというのは、ネットワーク上で、ある作業に必要な帯域をあらかじめ確保しておく技術のこと。例えば、音声や動画のリアルタイム配信(ストリーミング配信)やテレビ電話など、途中でデータが遅延したり途切れたりすると、スムーズな再生ができません。そこで、QoSの技術を用いて、「どのデータを最優先させるか」を決めることで、常に安定したサービスの提供が可能になるのです。
既に家庭内で使われている無線LANでは、いまのところQoSが実装されてはいないので、通信状況によってはストレスを感じることもあるものです。その点、PLCは回線が必要な帯域をあらかじめ確保してくれるので、よりスムーズな再生が可能になり、ノーストレスでデータ量の多い動画などが楽しめるというわけです。

1-2:海外でのPLC事情と日本での可能性

日本では2006年の10月に解禁になったばかりのPLCですが、ヨーロッパにおけるPLCへの取り組みは早く,1990年代後半から短波帯を利用した実証実験が行われてきました。そしてその陰で日本の技術は、一足早く海外で実用化されていたのです。

日本では早くからPLC通信機器の開発に携わる住友電工は、1998年から研究および実験を開始し、2000年からはスペインのPLCチップメーカDS2社と協業を開始しました。翌年の2001年、当時としては世界最速の45Mbpsモデムを開発し、さらに2002年には、同じくスペインの最大手電力会社、ENDESA社(エンデッサ)がサラゴサ市で行った大規模な実証実験に参加。200台もの45Mbpsモデムを提供しています。その実験は見事成功を収め、ENDESAは2003年からPLCの商用サービスをスタートしたのです。
その際に使われたのが、住友電工が開発した45Mbpsのモデムでした。日本の技術が日本よりも早く海外で使われていたとは、なんとも興味深い話です。

その後も、モデムの研究・開発は進められ、2004年には「世界初の200Mbpsモデム」が誕生しまた。45Mbpsから比べると飛躍的なスピードアップです。この技術が世界的に認められ、スペイン、ロシア、ポルトガル、オーストラリア、マレーシアなどのアジア各国で、実証実験が次々に開始されました。実験に使われたのは、主に集合住宅で、そのしくみはすでに説明した通りです(図参照)。

現在アメリカなど一部の海外では屋外利用も許可されていますが、日本では“屋内利用”に限定されています。屋内のネットワークというと、LANケーブルを使ったイーサネット、無線LAN、そして今回の解禁によって、新たに電力線による“PLCという選択肢が増えた”ということになります。

全てのネットワークがPLCに置き換わるとは考えていません。むしろ、PLCは無線LANやイーサネットといった従来のネットワークと共存していけるものです。お客さまのニーズ、使う場面やコストなどによって、使い分けていって欲しいと思っています」(NTTコミュニケーションズ 大水祐一さん)

現在、「ホームネットワーク」という個人ユースで大きな注目を集めているPLCですが、大水さんの言葉にあるように、PLCの登場によって、ネットワークの選択肢が増えました。「選択肢が増えた」ということは、ビジネスユースでも、大きな可能性があるということです。パート2では「ビジネスから見たPLC」という切り口で、インタビューを行いました。

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