600年前にトリップ? XRが可能にする歴史体験の新たなカタチ

600年前にトリップ? XRが可能にする歴史体験の新たなカタチ

600年前にトリップ? XRが可能にする歴史体験の新たなカタチ

600年前のグスクを移動して、当時の王様と会話したり、琉球の歴史を学んだり~。ヘッドマウントディスプレイを身に着けてのVR(ヴァーチャル・リアリティー、仮想現実)体験は、さながら時間旅行しているようだ。さらに、実際にグスク跡を訪れて、スマートフォンをかざせば、その場所にまつわる映像や説明が画面に表示される。これらXR(クロス・リアリティー、先端技術の総称)のデジタルコンテンツを導入する沖縄県浦添市は、地域の歴史と未来をどうつないでいこうとしているのか。

600年前にトリップ? XRが可能にする歴史体験の新たなカタチ

浦添市は県都・那覇市の北側に隣接する。人口は約11万5000人で県内4番目の大きな都市だ。日本の平均年齢約48歳に対し、浦添市の平均年齢は42歳。人口の自然増加率が高い沖縄のなかでも「若い人が多い」と表現される街だ。そんな浦添市にも悩みがあった。観光客に素通りされやすい、という悩みだ。

​​​​正確な名前で呼んでもらえない…

新型コロナウイルス感染症が拡大する以前、沖縄観光は絶好調だった。入域観光客数は毎年、右肩上がりで増え、2019年には多くの観光関係者の悲願だった1000万人を突破し、ハワイと肩を並べるまでに至った。沖縄に多くの観光客がやってくる一方で、浦添市を訪れる観光客は限られていた。2015年度時点で、浦添市への推計入域観光客数は浦添市外在住の県内客が17万人、県外客が23万人の計40万人にとどまっていた。

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浦添市観光振興課の又吉直樹主事は、この問題を解決しなければと危機感を抱いていた一人だ。「多くの観光客の方から『うらぞえ』と発音されてしまうんですよね。それだけ知られていないということです。浦添市を知ってもらう、浦添市に来てもらうきっかけを作れればと思いました」。又吉主事は2021年度に実施した、デジタルコンテンツを活用した誘客促進事業の狙いをそう説明する。

今回、デジタルコンテンツの舞台となった浦添グスクは三度の戦火に見舞われた数奇な歴史を持つ。一度目は1406年に、後に琉球を統一することになる尚巴志から攻められたとき。二度目は1609年に琉球に侵攻した薩摩藩に攻められ、焼き討ちされたとき。三度目は1945年の沖縄戦で激戦地となり、残っていた城壁まで失われたとき。1996年に浦添市教育委員会が整備基本計画を策定し、発掘調査や城壁整備に取り組んでおり、整備が完了するのは2042年の予定だ。

デジタルコンテンツ事業では、浦添市教育委員会や専門家の監修を受けながら、戦火で失われた浦添グスクや浦添ようどれをCGで高精細に再現し、VR空間にできた浦添グスクを散策できるようにする。グスクにいるキャラクターとの会話を通し、楽しみながら浦添市や浦添グスクの歴史を知ることができるように設計している。インバウンドの回復も見越して、英語と韓国語、繁体字、簡体字の字幕も表示できるようにした。「実際の浦添グスクは復元の途中ですが、CGで再現することによって、観光客にいち早く在りし日の姿を体験してもらえるのではないかと考えています」。又吉主事は期待を込める。

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浦添グスクVRコンテンツ(イメージ)

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浦添グスクVRコンテンツ(イメージ)

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浦添グスクVRコンテンツ(イメージ)

アニメに周遊ルート 
誘客へ相乗効果狙う

ここ数年、誘客に向けた浦添市の取組みは活発だ。2019年の首里城焼失による観光客の落ち込みを軽減しようと、2020年度には歴史的な文化財やかつて外国人向け住宅だった建物をリノベーションした飲食店が集積する「港川ステイツサイドタウン」、市内を周遊するためのシェアサイクルのステーションなどを紹介するガイドマップを作成した。さらに、「Remember URASOE」というコンセプトを打ち出し、歴史文化財のほかにシーサー作りや黒糖づくり、琉球びんがた染めなど沖縄の文化が体験できる施設を紹介する新たな周遊ルートを作り、浦添市の魅力紹介に取組んだ。

アニメに周遊ルート 誘客へ相乗効果狙う

加えて、沖縄県内の自治体としては異例のアニメ制作にも乗り出した。首里城を中心として栄えた琉球王国の誕生以前の、浦添グスクを中心とする「古琉球」時代に現代の女子高生がタイムスリップする「琉球タイムライン-未来少女と古の王-」だ。女子高生と当時の中山を治める察度(さっと)王の交流を通し、浦添の歴史を知ることができるようになっている。2020年度末の公開に続き、2021年度には続編「琉球タイムライン2-てだこのまち探訪」を制作した。

アニメに周遊ルート 誘客へ相乗効果狙う

これら一連の事業は少しずつ、つながっている。VRコンテンツにはアニメのキャラクターが登場し、アニメのなかではガイドマップで紹介されている浦添市の名所や街並みが忠実に描写されている。VRを表示するアプリのスタンプラリー機能とガイドマップ紹介の場所を連携させてもいる。「デジタルコンテンツやアニメは、もともと浦添や浦添の歴史に興味がなかった方に興味を持ってもらうフックにできたらと期待しています。その上で、ガイドマップを使って実際に街を回ったり、アニメのロケ地を巡ったりしてもらいたいです」。又吉主事は各事業連携による相乗効果の狙いを説明する。

新型コロナウイルス感染症がまん延して以降、世界の観光は大きく落ち込んだ。沖縄もその例外ではない。2019年には1016万人に達した入域観光客数も、2020年には373万人、2021年には301万人と低空飛行が続いている。「コロナ感染が拡大している状況下では積極的に『来てください』とは呼びかけづらいですよね。コロナが収束したときに多くの方に浦添市に来てもらえるよう、今は仕込みの時期と考えています」。VRコンテンツは、敷地内に浦添城跡を擁する浦添大公園の南エントランス管理事務所で2022年3月末から利用できる予定だ。

アニメに周遊ルート 誘客へ相乗効果狙う

アニメに周遊ルート 誘客へ相乗効果狙う

「dポイントクラブ会員」
へのPRに期待

浦添市がデジタルコンテンツ事業のプロモーションとして期待するサービスが「プレミアパネル」だ。このサービスを使えば、ドコモの会員組織「dポイントクラブ」の会員向けに、アンケート形式で「プロモーション」や「リサーチ」を行うことができる。ドコモが展開するdポイントクラブ会員は、2021年度上期現在で8554万の会員数に達している。今回は、性別や年代、居住地など121種の属性から誘客効果が高いと想定される会員に絞り込んで、浦添市の観光に関するアンケートを実施した。浦添市としては、アンケート調査結果が得られることに加え、アンケートに回答してもらうことそのものやアンケートを通して浦添市のPRにつながることも期待できる。

デジタルコンテンツがつなぐ
地域の過去と未来

デジタルコンテンツ事業を進めていくなかで、又吉主事にはある思いが芽生えていた。「観光振興の観点から多くの人に浦添市に来てもらおうというのが事業の目的ですが、市民の方にも体験してもらって『浦添グスクってすごかったんだな』って感じてもらいたいなとも思うようになりました。地域への誇り、愛着につながってほしいなと。そうなることで、市民の方に『浦添っていいよ』と発信してもらえるようになるんじゃないかと期待しています」

かつてあった地域の歴史や文化をデジタルコンテンツとして高精細に復元し、地域住民や観光客に体験してもらう機会を提供する。ドコモのソリューションで、地域の過去と現在、そして未来をつなぐ手伝いができるのかもしれない。

(本内容は2022年3月2日取材時点のものです。)

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