REPORT

2021.07.01

企業のDXを動かす“キーワード”「スケールフリーネットワーク」が、いま日本の大企業に効く理由

『スケールフリーネットワーク』著者・株式会社東芝 執行役上席常務 最高デジタル責任者 島田太郎氏インタビュー


東芝が変わりはじめています。メーカーを問わない共通規格でIoT機器をつなぐプラットフォーム「ifLink®(イフリンク)」や、POSレジのレシートデータをユーザーのスマホに送る「スマートレシート®*1」を矢継ぎ早に展開。“伝統的なものづくり企業”の殻を破り、技術とデータのオープン化による共創を進めているからです。
キーパーソンは独シーメンスから移籍した島田太郎氏。「スケールフリーネットワーク」の概念を東芝に持ち込み、実装したCDO(最高デジタル責任者)です。2021年7月14日のC4BASEオンラインイベント「A step toward Smart World ~Reconceive 共創成功の鍵はスケールフリーネットワーク〜」にも登壇する島田氏に、C4BASEマネージングディレクターの戸松正剛がインタビュ-。スケールフリーネットワークが日本企業に効く理由と、大企業でDXを叶えるための“空気の変え方”について伺いました。
*1 スマートレシート(東芝テック株式会社の登録商標):店舗で買物客が会計をする際に、レジでレシート印字データそのものを電子化して提供することができるシステム。買物客はスマートフォンアプリに表示されたバーコードをレジで読み取ってもらうだけで、電子化されたレシートデータを受け取ることができる。

GAFAが世界を席巻した本当の理由

戸松:著書『スケールフリーネットワーク』は、今や日本のものづくり企業の“DXの教科書“になりつつあると思います。しかし、多くの人には馴染みがなかった「スケールフリーネットワーク」という言葉。東芝社内で伝えるとき、実際はどう説明されてきたのでしょう?

島田:「スケールフリーネットワークとは人間そのものである」と話しています。ユヴァル・ノア・ハラリ氏が『サピエンス全史』で書いたように、人とほかの生き物を大きく分けたのは圧倒的なコミュニケーション力の有無です。サルならば50匹ほどの群れを統率するのが限界ですが、人間は言葉を使ったコミュニケーションによってもっと大きな共同体を動かせる。そのため、古代ローマや古代中国の時代から何十万人もの人間が同じ目的をもって集まり、戦えたわけです。

レポートイメージ 島田 太郎氏|株式会社東芝 執行役上席常務 最高デジタル責任者・東芝デジタルソリューションズ株式会社 取締役社長

戸松:ハラリ氏が言うように人間は「虚構」の物語を伝え、信じる力があるからこそ、正義や法律、お金といった虚構の物語を認知して、大勢で共有できる。だからこそ、人間はここまでスケールしてきた。

島田:そうです。魅力的な虚構にひかれて、人間はつながる。ネットワークをつくります。直接言葉を交わす会話から始まり、文字を使うようになると距離と時間を超えたネットワークが生まれ、活版印刷はさらにそのスピードと量を増やしました。さらにインターネットの普及は、このネットワーク化を強烈に加速させ、世界中の人々をすぐさまつなげられるようになりました。
注目すべきは、こうして生まれるつながりが「スケールフリー」であること。ようするに尺度(スケール)がない。誰しもが同じ数の人とつながり、全員が等しく周囲の人に影響を与えられるわけではなく、 多くの人は一人につき数名から数十名程度の影響力しかもたない一方で、わずか数人だけが何千、何万の人をひきつけてネットワーク化し、巨大なハブのような存在になるんです。

戸松:いわゆる「べき乗則」ですね。

島田:そのとおりです。私たちの「友だちの数」も一緒ですよね。大勢の友だちがいる人はわずかで、大多数の人の友だちは数名~数十名程度。webサイトのリンク数や、引用される学術論文もべき乗則になっています。
航空路線がそうであるように、物理的な制限や意図的な規制がなければ、人間が生み出すつながりはハブ&スポークのような形になり、格差が必ず生まれるわけです。そして、これが強みになる。

戸松:なぜ強みになるのでしょう?

レポートイメージ 戸松 正剛|NTTグループ各社にて主にマーケティング・新規事業開発に従事。直近ではスタートアップの成長・Exitの支援や、Jリーグ等プロスポーツ業界とのアライアンスも手掛ける。現在はNTTコミュニケーションズの新規ビジネスの共創コミュニティ「C4BASE」でマネージングディレクターを務める。同志社大学卒。米国ヴァンダービルト大学にてMBA取得。

島田:はい。「多様性」を生み出すからです。わずか一部でも巨大なハブがあれば、スポーク状にわずかなつながりを持つ無数の個とつながれる、ということでもある。たとえばアマゾンが小売の王様になった理由は「アマゾンならば何でも揃う」状態をつくりあげ、ユーザーを集めたからです。リアル店舗ではコストが見合わないために置くことができない商品であっても、ECでは販売できますからね。 この多彩な商品群がユーザーをひきつける魅力となり、万が一売れ筋商品が売れなくなったとしても、多様性ある商品群の中から補完する商品が生まれます。

戸松:だからこそ、アマゾンは当初、黒字化よりも品揃えとユーザー数を集めることに力を入れたわけですよね。

島田:Amazonのみならず、グローバルで圧倒的な価値を生み出したGAFAは同じなんです。オープンで巨大な「スケールフリーネットワーク」をまず生み出し、そこに集まった多様性あるユーザーから支持を得る。そして圧倒的なデータを集めてサービスを磨き、またそれが魅力となって支持されるというスパイラルです。
多様性はイノベーションの源泉にもなるため、出会わなかったはずの技術や知見、才能が結びついたときに、新しいものやことが生まれますからね。

戸松:まさにオープンイノベーションの仕組みです。人間が自ずと形作る「スケールフリーネットワーク」こそが、オープンイノベーションのエンジンの一つだということなんですね。
一方で気になるのが、日本企業はこうしたオープンでスケールフリーなネットワークをつくるのが、極めて苦手だということです。

島田:だからこそ、私はスケールフリーネットワークに焦点を当てました。先に述べた「虚構が必要だ」ということは、日本企業もみな重々承知している。だからどの会社も熱心に理念やビジョンやパーパスを作り、社内に浸透させようと努力しています。技術や才能も社内で育てているんです。

戸松:ただ、それを閉じたままにしてしまうんですね。

島田:はい。過去の成功体験は、閉じたスタイルで得たものだから、なかなかそこから脱せないでいます。ただし、だからこそまだチャンスがある。DX2回戦となるIoTの領域では日本に勝ち目があるんです。

大企業に眠る「宝の山」を生かすには?

戸松:DX2回戦で勝つためのリソースとして、著書では東芝に来て気づいた「宝の山」について触れていらっしゃいました。

島田:うまくつなげることができれば、ものすごくイノベーティブな事がおきる「宝の山」のような技術と人と知見が、東芝のような伝統的な企業にはまだまだあると思っています。
東芝の場合、社内にマイクロRNAを使った高性能のがん検診の技術があり、加えて世界で3番目のAI関連の特許出願数となっている(2019年1月のWIPOレポートより)。こうした領域の掛け合わせで「技術のビオトープ(野生動物の生息空間)」と呼べるような貴重な場を持っている企業はまだまだあるのではないでしょうか。

レポートイメージ

戸松:私たちNTTグループも同じかもしれません。また、このC4BASEに参加してくれている方々も、同じようなビオトープをそれぞれの企業に持っているように思います。

島田:すこし乱暴な言い方になるかもしれませんが、欧米の企業の多くは、こうしたビオトープを自前ではもうほとんど持っていません。自前の研究所や研究費に予算を割くことは短期的な利益につながらないように見えてしまうため、株式市場では評価しづらい。欧米の企業は「選択と集中」の結果、こうした研究所を減らし、売上や利益に直結する領域に特化した、筋肉質の企業体がやたらと増えました。それは「多様性」とは正反対の動きです。

戸松:つまり、自社だけではイノベーションが起こりづらい形になってしまった。

島田:だからこそ他社とつながって「オープンイノベーション」を起こさざるをえなくなったとも言えます。
しかし、日本は違いました。経営者が「あいつは天才だから」「切ったらかわいそうだし」とビオトープを残してきたんです。ただ、今はそれを眠らせていては意味がない。オープンにしてスケールフリーネットワークをつくる必要があります。 僕が東芝をはじめ、日本企業に強く押しているのは、「その宝の山をスケールフリーネットワークにつなぎ合わせて、DX2回戦を勝ちましょう」ということです。

戸松:とはいえ、東芝社内の意識を変えること自体、大変だったのでは?

島田:それはもう、私は3ヶ月で200回くらい社内プレゼンをしましたよ。取締役会から、地方の工場まで語り続けました。先ほどの「虚構」ではないですが、大勢の人が同じ方向を見るため、一人ずつに語り続けました。

戸松:効果はありましたか?

島田:はい。最初は「島田さんの言っていることはさっぱりわからん」と言われたのに、何回かやるうち、変わっていきました。スケールフリーネットワークの意義もDXの定義も、理解するだけではなく「自分たちはプラットフォーマーになるんだ」と言葉に出始めています。

戸松:C4BASEには、まさに社内をどう変えるか、「宝の山」をどう活かすかに、頭を悩まされている方が多いと思います。

島田:インフラを扱う企業やハードウェアを持つ企業ほど、少し失敗するだけで世間から叩かれてしまうので、慎重で保守的になってしまうのは致し方ない面もあります。少しの失敗は気にしない傾向にあるソフトウェアを扱う企業のスタンスとは溝があります。
しかし、DX2回戦のIoTの勝負は、ハードウェアやインフラを扱う企業と、ソフトウェアを扱う企業がスケールフリーネットワークでつながらないといけません。多様性がイノベーションを生むんですから。いずれにしても、伝統的なものづくり企業やインフラ系企業がスケールフリーネットワークを実現したら変わるはず。日本企業のポテンシャルをもう一度解き放つことにつながると思っています。

戸松:島田さんは話の節々に「日本のため」「世の中のため」という大義の意識がとても強いと感じます。それはオープンな、スケールフリーネットワークをつくるうえでも大切なことなのでしょうか?

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島田:そうですね。私個人の原体験でいえば、司馬遼太郎や吉川英治といった歴史小説を読んできた影響もある。過去の偉人たちはみな私利私欲ではなく、世の中のため、社会のためにとビッグピクチャーを描くからこそ、大きなことを成し遂げられました。
正しさというか、愛というか、そういったものが私を突き動かしているし、スケールフリーネットワークを形づくるときのファクターとしても大切な気がします。

戸松:イベント当日は、具体的な会社の変え方やネットワークのつくり方から、「愛」の話まで伺うことができれば嬉しいです。本日はありがとうございました。

島田:ありがとうございました。イベント当日が楽しみです。

『スケールフリーネットワーク ものづくり日本だからできるDX』著者、株式会社東芝CDOの島田太郎氏登壇!
C4BASE STUDIO LIVE「A step toward Smart World ~Reconceive 共創成功の鍵はスケールフリーネットワーク〜」
日時:2021年7月14日(水)13:30-15:10
場所:オンライン
※13:15からアクセス可能。定員に達し次第、申込受付を終了する場合があります。

こんな方におすすめです!
・ものづくり日本が進めるべきDXについて知りたい方
・社内でのDXの進め方についてヒントを得たい方
・ビジネスモデルの方向転換を考えられている方
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