REPORT

2021.05.19

なぜ日本の“強い現場力”が、DXの足かせになるのか?

『Why Digital Matters? ー“なぜ”デジタルなのか』著書・村田聡一郎さんインタビュー


日本だけが世界の経済成長から取り残されている。なぜなら、いまだデジタルではなく、人を走らせる経営を続けているから。そして“現場が優秀すぎる”からだ――。
刺激的かつ納得のロジックで話題となった『Why Digital Matters? ー“なぜ”デジタルなのか』。その著者がSAPジャパンの村田聡一郎氏です。来る2021年6月3日に開催されるC4BASEオンラインイベント『今さら聞けないDX~DXの必要性を今一度認識し「これから」を考える』に登壇いただく村田氏に、NTTコミュニケーションズの戸松正剛がインタビュー。イベント前に共有しておきたい課題と危機意識、そして希望について伺いました。

現場のカイゼンによる一本足打法は限界だ

戸松:村田さんには、日本のDXの現状はどう見えていますか?

村田:コロナ禍に押されて急に進み始めた面はありますね。特にこうしたオンラインミーティングは劇的に普及しました。
2000年頃、私はヒューストンに住んでいましたが、国土が広いアメリカでは当時から当たり前のようにテレワークが使われていました。その意味では日本は20年遅れでしたが、「対面ではなければ仕事ができない」神話が、いい意味で破壊されましたね。

レポートイメージ 村田 聡一郎 氏|SAPジャパン株式会社 インダストリー&バリューアドバイザリー統括本部 IoT/IR4 (Fourth Industrial Revolution) ディレクター
米国Rice UniversityにてMBA取得。米系IT企業・本社駐在、ITスタートアップを経て2011年SAPジャパン入社。SAP HANA、クラウド、IoTなどを利活用した顧客およびパートナーとの共同イノベーション事業開発に関わる。海外事例にも精通し、講演・執筆など多数。SAPグローバルの社内CSRコンテストOne Billion Livesの初年度Winnerとなり、地震防災ネットワーク構築活動「my震度」を立ち上げ。またこの活動で協業中の白山工業株式会社にて社外取締役に就任。現在トラック物流の効率化を促進するデジタルプラットフォーム「合い積みネット」の立ち上げ中。

戸松:一方でDXの必要性が叫ばれている割に「遅々として進まない」との声も多く聞こえます。

村田:全般的にみれば、日本のデジタル活用は残念ながら世界と比べて20年以上遅れています。ちょうど平成の30年間の日本経済の停滞とも重なる。実際、今になって「お祭り」のようにDXが囃し立てられているのは日本だけで、他国からすれば10年以上前に一回りしている内容ですからね。そろそろ目を覚ますべき時かなと。

戸松:村田さんは、日本のDXが遅れている大きな理由として、日本企業は“ヒトの力”“現場の力“が優秀過ぎるからだと指摘されています。製造業のカイゼンに代表されるような、現場のヒトたちのレベルの高さは、高度経済成長を支えた日本的経営の根幹でした。しかし、この「現場力の強さ」が、今はむしろアダになっていると。

レポートイメージ 戸松 正剛|NTTグループ各社にて主にマーケティング・新規事業開発に従事。直近ではスタートアップの成長・Exitの支援や、Jリーグ等プロスポーツ業界とのアライアンスも手掛ける。現在はNTTコミュニケーションズの新規ビジネスの共創コミュニティ「C4BASE」でマネージングディレクターを務める。同志社大学卒。米国ヴァンダービルト大学にてMBA取得。

村田:はい。高度成長期から90年代前半までは、あきらかに現場力こそが日本経済の牽引者でした。製造業が顕著ですが、それはサービス業でもホワイトカラーでもブルーカラーでも変わらない。
問題が発生しても、現場にいる社員たちの「優秀さ」や「勤勉さ」、「長時間労働もいとわない労働観」が発揮されて、なんとか解決していってしまう。経営層が手を出さずとも、日々現場はカイゼンされて回っていく。この“最強の現場力”によって、日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われるまでになりました。

戸松:僕もアメリカに住んでいた時期があるので実感していますが、日本の「未来のために現在を犠牲にできる国民性」もあると踏んでいます。「未来がよくなるためなら、いま多少つらくても頑張る」とマシーンのように自分を動かす。それで結果も確実に出る時代だったし、経済全体も右肩上がりだったからなおさらですよね。「現場で一人ひとりが頑張ればなんとかなる」が、とても強いマインドセットになっていると思います。

村田:そうですね。日本はなまじ「カイゼン一本足」で世界トップクラスになってしまった。ところが、2000年頃を境に、世界の様相は変わりました。各国がデジタルという“第2の労働力”を取り入れ始め、「ヒト」と「デジタル」の両輪で生産性を伸ばし始めたのです。日本以外のG7各国の「名目GDP(※)」が2000年から2019年までの19年間で40%~100%増えているのに対し、日本はわずか6%しか増えていません。
※国内の生産数量に市場価格をかけて生産されたものの価値を算出し、すべて合計したもの。ここから物価の変動による影響を取り除いたものが「実質GDP」。

レポートイメージ

村田:そして「国民1人あたりGDP」は2000年の2位から右肩下がりで落ちつづけ、2018年には26位に。これは、現場の人たちが手を抜き始めたから……ではありません。日本の現場は相変わらず高い現場力を発揮していますが……。

戸松:変わったのは、それ以外の国々ですね。

村田:はい。欧米はもちろん新興国は、90年代後半から2000年代にかけてITやインターネットなどを活用し、ヒトに加えて「デジタル」に仕事をさせるようになりました。ソフト、ハード共に処理能力が飛躍的に伸びたこともありますが、何よりも他国は日本のずば抜けた「現場力」を真似したくてもできなかった一方、デジタルは誰でも「買ってくる」ことができたからです。

戸松:ところが、日本だけが、相変わらずヒトを走らせていた。

村田:ええ。いかに日本の現場力が強いとはいえ、24時間年中無休で働くデジタルとヒトが張り合うのは分が悪い。加えて日本の労働年齢人口(15〜64歳)は1995年をピークに減少に転じ、直近では「人手不足」が深刻になりました。ところが日本はもう50年以上カイゼン一本足でやってきていますから、現場も経営層のほとんども、現場力に頼る以外のやり方を知らないんです。
日本には優れた現場力、カイゼン力があったが故に、逆にデジタルへのシフトには大きく取り残されてしまった。皮肉な話ですが、強みが弱みに転ずるのはよくある話でもありますよね。肝心なのは、「なぜそうなったのか?」を正しく認識すること。正しく認識できれば、対策も打てます。ひとことで言えば、「DXはカイゼンではない」んです。このあたりは、当日、セミナーでお話できればと思います。

日本語が“DXの壁”になるたったひとつの理由

戸松:村田さんはドイツに本社を置くERP(基幹システム)パッケージソフトの世界最大手企業・SAPジャパンに所属されています。世界から日本だけが遅れ、デジタルを走らせないジレンマをいっそう実感されてきたわけですよね。日本企業の多くが頑なに「ヒトではなくデジタルを走らせる」ことを拒んできた理由は、“強い現場力”だけだったのでしょうか。

村田:もう一つの大きな壁は「日本語」ではないかと思います。

戸松:日本語、ですか?

レポートイメージ

村田:ええ。「IoT」の訳として「モノのインターネット」という単語を見たとき、違和感ありませんでしたか?Thingsにはモノもコトも含みますし、Internetとはinter-networkingつまり“相互接続”を指していますから、本来は「モノ・コトの相互接続」と訳すべきだったんですが、日本人の多くが「モノ」が「インターネット」につながる話だ、と狭く受け取ってしまった。ところが、日本語を使っているのは、ほぼ日本人だけなので、その認識違いを日本人以外から指摘してもらえる可能性はほぼありませんよね。
日本企業は社内公用語がほぼ日本語なので、特に経営層に近づくほど、ほぼ日本人だけで占められます。また上位職ほど生え抜きであることが多く、要は自社のことしか知らないことが多い。したがって自社が、非効率な経営をし続けていたり、他国ならありえない古い仕組みを使い続け、結果的にそれが競争力を阻害していたりしたとしても、指摘される機会が極端に少ないわけです。

戸松:僕は日本企業でしか働いたことがないけれど、グループの外国人の同僚と話すと、目の前の現場の仕事に没頭して、成果をあげて、業績をあげて……なんて単純なリニアな目的意識だけで働いている人は少ない気がしますよね。

村田:その意味では、ドイツ人・ドイツ文化は日本との違いが際立ちます。ドイツ人は日本人に似ていると言われますが、真面目で勤勉なところは似ている一方、真逆なところが一つあります。それは「ドイツ人はとにかく働く時間が短い」ことです。OECDの統計によれば、日本人男性の平均年間労働時間を100とすると、ドイツ人男性は64。つまり時間でいうと2/3しか働いていません。ほとんどの企業で年間30日ほどの有給休暇の消化率はほぼ100%です。それでも先ほどのグラフのような成長率を維持している。これ、悔しくありません?

戸松:当たり前のように短時間労働への意識が高いんですね。だからこそ、限られた労働時間の投入量でなんとか業務をこなすしくみが必要になる。SAPのような「ヒトの代わりにデジタルを走らせる」発想が生まれやすいし、また受け入れやすいわけですね。

DXが進んでないからこその希望とは?

戸松:そんな中でもDXを効果的にすすめて結果を出されている日本企業もあると思います。村田さんが気になるDX成功企業はありますか?

村田:私が直接知っているSAPユーザー企業でいえば、トラスコ中山さんです。DX銘柄2020のグランプリも受賞されました。同社は製造業や建設業などものづくり現場向けのプロツール(製造副資材)を扱う卸売業なのですが、さまざまなDX施策を進めています。
一例を挙げると「AI見積」。従来は取引先(小売業)からFaxやメール、電話で届いた見積依頼に対し、営業担当者が自分で手作業で見積を作成し、返信していました。取引先ごと・商品ごとに異なることもある仕切り率の適用をヒトが行うのですから、回答まで早くても30分、もし外回りに出ていれば半日ほどかかってしまうこともあるでしょう。ところがこのAI見積システムを活用すれば、早いと30秒ほどで回答が来ます。そうして回答が早くなった結果、受注率も上がりました。値段は変わっていないのに、です。取引先だって忙しいですから、すぐ回答が来たところに発注しようとなるのは人情ですよね。

戸松:半日が30秒。デジタルだからできることですよね。

村田:おっしゃるとおりです。卸業は「今後なくなる」と言われていた業態ですが、トラスコさんは数々のDX施策が取引先の支持をうけて業績は絶好調です。何より私自身もっとも印象的だと感じたのは、「働いている方々の表情が明るい」ことです。それはそうですよね、面倒な作業をシステムが自動的にやってくれれば、その分社員の皆さんはヒトがやるべき仕事に時間を投入できる。プライベートブランド商品の企画開発などにも力を入れ、こちらも成功しはじめています。

レポートイメージ

戸松:DXによって「社員の表情が明るくなる」というのはとても象徴的ですね。先ほど触れた、海外のヒトは「幸せの尺度が違う」話にも通じる部分がある気がします。DXが答えなのではなく、DXによって作業の一部をデジタルが肩代わりしてくれるので、ヒトは本来やるべきことに時間を使える。その先に幸せがあるべきというか。

村田:そうですよね。企業の業務には競争領域と非競争領域があって、SAPのようなパッケージソフトが存在する分野はすでに非競争領域なわけです。ですから、そこに貴重な人的リソースを割くのはもったいないんです。そこはSAPなりAIなどデジタルに任せ、もっとも優れたヒトの力は競争領域に割くほうがいい。
日本は海外よりも全然デジタルを走らせていない。いわば「片手で戦っている」のに、これだけやれている。デジタルを走らせて、「両手」で競争領域を磨き始めれば、まだまだやり返せるということです。

戸松:おもしろい。ぜひセミナー当日はそうした話をさらに深くお話ください。僕も楽しみです。

村田:こちらこそ、よろしくお願いします!

SAPジャパン株式会社 村田聡一郎氏登壇!
C4BASE STUDIO LIVE「A step toward Smart World ~Re-Confront いまさら聞けないDX〜」
日時:2021年6月3日(木)13:30-15:00
※13:15からアクセス可能 。定員に達し次第、申込受付を終了する場合があります。

このような方におすすめです
・わが社の強み(のひとつ)は「ヒトの力・社員の現場力」だと思う方
・「IT活用」と「DX」の違いを 上手に説明したい方
・「DX」にかかわる悩みを いろいろお持ちの方
・「デジタル」をどう働かせればよいのか知りたい方

こちらより、ぜひお申し込みください!
※お申し込みには会員登録が必要です。

SHARE

共創のご相談、記事や
イベントに関することなど、
お気軽にお問い合わせください

CONTACT

c4BASE

このページのトップへ

C4BASE

JOIN C4BASE
C4BASEに参加する
JOIN C4BASE
C4BASEに参加する

JOIN C4BASE
C4BASEに参加する
JOIN C4BASE
C4BASEに参加する