「失敗≠不運」マーフィーの法則が示す意外な人生の真実とは

「失敗≠不運」マーフィーの法則が示す意外な人生の真実とは

公開日:2022/04/22

ダイエットしているときに限って、高級鮨店やフレンチのフルコースに誘われる。 大切な用事があるときに限って残業をしなければならない破目に陥る。 急いでいるときに限って信号が赤になる。
40代以上の読者ならご存知でしょう。 「よりによって、なんでこうなるの?」という日常の「理不尽あるある」の集積ともいうべき「マーフィーの法則」です。 身につまされる法則の数々には、人生のユーモアとペーソスが漂います。
ところが、マーフィーの法則を科学的に分析した結果によると、その多くは、運が悪いのでも、めったに起きないことでもなく、原因・法則にしたがって、一定の確率で誰にでも起こり得ることなのです。
その事実は、失敗をしたとき、それをどう捉えるか、失敗にどう向き合うかについて、大切なことを示唆しています。

理不尽な目に遭うのは不運だから?

トーストが落下するとき、バターを塗った面が下になるのはなぜ?

「マーフィーの法則」の典型例の1つに、「トーストが落下するとき、バターを塗ってある面が下になる」という現象があります。*1

その原因はなんでしょう。 バターを塗った面はバターの分だけ重いからだと考える人が多いようですが、そうではありません。トースト全体の重さが35gとすると、バターの重さは4gでわずかですし、バターはトーストの表面に薄くすりこまれてしまうため、トーストの回転にはほとんど影響を与えません。 この問題について、多くの科学者はバターを塗った面が下になることも上になることも同じ50%の確率で、無作為に起こると考えていました。

この問題に一石を投じたのは、物理学者のロバート・マシュー博士です。 彼は、このバタートースト問題に果敢に挑み、詳細な計算を行いました。 長方形の薄い板の質量と台の高さをさまざまに設定し、板がかろうじてテーブルに載っている状態にまで重心を移し、それを初期状態として、そこから床に落ちるまでの様子を力学的な観点から詳細に分析したのです。

その結果わかったのは、さまざまな条件下で、バターを塗った面が下になる傾向があるということでした。

さらに、その現象はあらかじめ宇宙に備わった法則、つまり、ビッグ・バンの直後から、宇宙の基本デザインに組み込まれた宇宙法則に従っているということをつきとめます。

その後、彼は自らの理論を証明するために、1,000人の子どもたちを使ってトーストの落下実験を計9,821回行いました。 すると、50%の確率だと信じている多くの科学者たちの期待を裏切り、バターを塗った面が下になったのは、6,011回、61.2%で、マシュー博士の理論を裏づける結果となったのです。

こうして、トーストはマーフィーの法則どおり、バターを塗った面を下にして落下することが多いこと、そしてそれが無作為に起こることが実証されました。

「絶対ない」 は絶対ない!

マーフィーの法則とは、いわば「めったに起こらない不運なできごとが、よりによって自分に起こってしまった」という現象です。

しかし、実際には、およそあり得ないと思うような出来事が起こる確率は想像以上に高いと数学者のD. J. ハンド博士は言います。*2 一見奇妙な偶然の一致と思える出来事も、確率からすればさほど奇妙なことではない。 「絶対ない」 は絶対ない、と。 博士はそれを「あり得なさの原理」と呼んでいます。

例えば、何人集まれば、その中に同じ誕生日の人がいる確率が50%を超えるでしょうか。 答えはたったの23人。 23人いれば、その中に同じ誕生日の人がいる確率は51%で、同じ誕生日の人がいない可能性を上回るのです。

実際に、こんなことが起こりました。 2009年9月6日にブルガリアのロトで「4、15、23、24、42」という当選番号が出ました。49の数字から6つを選ぶ方式のロトです。

その4日後、驚愕の出来事が起こります。前の週と全く同じ当選番号が出たのです。 メディアは大騒ぎになり、その「異常事態」に不正を疑う人もいました。

ところが、同じ「異常事態」は、翌年、イスラエルでも起こりました。 2010年、イスラエルの宝くじで、1か月足らずの間に全く同じ当選番号が出たのです。 このときも八百長が疑われました。

しかし、これらの出来事はそれほど驚くことではないとハンド博士は言います。 一般に、n回のロトを行ったとき、互いに一致し得る当選番号の組み合わせは、nx(n-1)/2組。 そして、このロトの場合、2つの当選番号が一致する可能性の方が一致しない可能性を上回るのは、ロトの実施回数が4,404回に達したときです。 その4,404回を年間のロト実施回数で割れば、どのくらいの年数になると起こる可能性の方が上回るのかが割り出せます。 もし週2回、年間104回、ロトくじが行われたとすると、43年弱でその瞬間が訪れます。 つまり、それは「異常な偶然の一致」というほどのことではないのだと、ハンド博士は述べています。

さらに、こんなこともありました。 1980年にある女性が買ったロトくじには、マサチューセッツ州とロードアイランド州の当たり番号の両方が含まれていました。ところが、マサチューセッツ州のくじはロードアイランド州の当たり番号で、ロードアイランド州のくじはマサチューセッツ州の当たり番号だったというのです。 まるでマーフィーの法則ではありませんか。 しかし、これも確率からすれば、さほど驚くべき出来事ではないと博士は言うのです。

さらに、確率はこんなことも教えてくれます。 例えば、職場に30人の社員がいたとして、社員が協力して仕事をする場合、2人でペアを組むとしたらいく通りの組み合わせが可能でしょうか。 435通りです。3人グループなら、4,060通りの組み合わせ。

ちなみに、グループの人数を1人から30人までのすべてで考えると、形成し得るグループ数はなんと10億7,374万1,823になるのです。

数が大きければ大きいほど、どれほど小さな確率の事象であっても、起こり得る可能性は高くなるとハンド博士は言います。 たった30人の職場であっても、そこには想像以上に多くの出来事が起こる可能性が秘められていると考えていいのではないでしょうか。

失敗と誠実に向き合う

失敗を受け入れる

ビジネスではさまざまな失敗が起こります。 その際、失敗をどう捉え、失敗にどう向き合ったらいいのでしょうか。 これまでみてきたことをふまえて、そのことについて考えてみましょう。

前述のマシュー博士の力学理論とハンド博士の「あり得なさの理論」から学べるのは、何か思わしくないことが起こったとき、それは不運なのではなく、起こるべくして起こったと捉えた方がよさそうだということです。

私たちは好ましくないことに接すると、「なんでよりによって」と思いがちですが、出来事には原因・理由があり、同じような出来事が思ったより頻繁に起こっている可能性があるのです。

誰にとっても、自分の失敗を認めるのは難しいものです。 仕事など自分の人生にとって重要なことで失敗を認めるのはことさらに難しいでしょう。 何かミスを犯して自尊心や職業意識が脅かされると、心穏やかではいられなくなり、頑なに心を閉ざしてしまいます。

私たちは他人からだけでなく、自分自身からも自分を守るために、失敗を隠そうとするのです。 失敗を不名誉なものと捉える傾向は少なくとも2,500年前から見られるとか。*3

しかし、失敗したときには、それを不運のせいにせず、そのことを受け入れて失敗に誠実に向き合うという態度が望ましいということを、マーフィーの法則を巡る科学的論証が教えてくれているのではないでしょうか。

そして、失敗が他者によってもたらされた場合にも、そういうことが起こるのは珍しいことではないという認識をもてば、攻撃的にならずに、「お互い様の精神」を発揮することができます。 また、人の失敗に学ぶことができれば、自分の経験だけからでは得られない多くの気づきに恵まれるはずです。

失敗を肯定的に捉えるマインド

ただ、この問題は社員の心構えだけでは解決しない問題です。 心理学では、社会的な上下関係が部下の主張を妨げると考えられています。*3 だれでも権威のある人の意見には逆らいにくく、また上司からの評価を気にします。

したがって、失敗は悪いことではなく、失敗こそが学びのチャンスだと失敗を肯定的に捉え、失敗を咎めない社風が必要です。

アメリカの大手成功企業のトップたちはそれをよく理解しています。 2017年5月、コカ・コーラの新CEOとなったジェームズ・クインシーは就任直後、こう述べました。*4

コカ・コーラが今後発展していくためには、より多くのリスクを冒さなければならない。「失敗するのではないかという恐れ」は、逆効果である。ミスを犯すことを恐れてはならない。失敗は会社にとって重要である。

ドミノピザのCEOであるパトリックドイルも 「自社の成功はすべて、間違いや失敗の可能性を受け入れる意志からもたらされたものだ」 と述べています。*5

彼らに共通しているのは、失敗を肯定的に捉え、それは自分たちの成長に欠かせない要素であると考えていることです。

されど、マーフィーの法則

マーフィーの法則は人生の側面を鮮やかに切り取ってみせ、「あるある」と私たちの共感を集めます。 そのマーフィーの法則をめぐる科学的な論証から思わぬ別の側面がみえてきました。 それをフックに、ビジネスでの失敗について考えると、案外多くの気づきに恵まれます。

されど、マーフィーの法則。 そこには想像以上に豊かな世界が秘められているのかもしれません。

資料一覧

  • *1 マーク・エイブラハムズ(2004)『イグノーベル賞 大真面目で奇妙キテレツな研究に拍手!』阪急コミュニケーションズ pp.205-210
  • *2 D. J. ハンド(2014)「あり得なさの原理『絶対ない』は絶対ない」(『日経サイエンス』2014年7月号)pp.90-93
  • *3 マシュー・サイド(2016)『失敗の科学』ディスカヴァー・トゥエンティワン(電子書籍版)No.233-234、No.501-502
  • *4 THE WALL STREET JOURNAL(2017)“Coke’s New CEO James Quincey to Staff: Make Mistakes”(2017年5月9日)
  • *5 Harverd Business Review (2017)Bill Tayler “ow Coca-Cola, Netflix, and Amazon Learn from Failure”(2017年11月)

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Profile

横内 美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
留学生の日本語教育、日本語教師育成、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティア教室のサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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