日本航空株式会社
統合報告書の編集と翻訳担当、COTOHA® Translatorが連携
完全内製化で“想い”を込めた統合報告書英語版が完成

日本航空株式会社
総務本部 総務部総務グループ
山中 明香里氏
「本当に伝えたい想いを表現するには人の手が欠かせません。AI翻訳で業務を効率化できた分、最終的な表現にはこだわりたいです」

日本航空株式会社
人財本部 人財戦略部
人財戦略グループ
麻生 洋氏
「社外発信の場合、文法などの基本的なチェックは言うまでもなく、誤訳、誤訳による誤解、ジェンダーについての表現に伴う読者の心理など、ブランド棄損のリスクにも細心の注意を払っています。機械と人間の共生の実現を目指すためにも、COTOHA のさらなる進化を期待しています」

日本航空株式会社
アジア・オセアニア地区支配人室
オーストラリア支店総務セクション
Matthew Cupitt氏
「英訳するツールとしてよくできていると思います。英語の表現や言い回しをよりネイティブに近づけるアップデートを期待しています」
課題
統合報告書は“投資家へのラブレター”とも呼ばれる重要な冊子
英語版においても幅広いステークホルダーに想いを伝えたい
日本航空株式会社(以下、JAL)は、10年先のあるべき姿をグランドデザインとして描き、さまざまな改革に着手している。その一環としてグローバルエリアでのコミュニケーションの活性化に向け、国内外で働く約36,000人の全社員を対象にNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)の「COTOHA® Translator」を一斉導入した。これはTOEIC960点レベルのビジネスパーソン並みの翻訳精度と、人間の数十分の一から数百分の一の翻訳速度を併せ持つAI翻訳サービスだ。
JALグループは海外拠点が多く、全社員の約1割が海外で勤務している。しかし、業務連絡などは日本語で発信することも多く、英語に堪能な社員が翻訳する稼働が発生していた。COTOHA® Translatorの導入により、グローバルエリアにおいて、同時・同量・同質の情報発信ができるようになったという。
同グループは、企業の売上や資産など法的に開示が定められた財務情報に加え、企業統治やサステナビリティ、知的財産などの非財務情報をまとめた統合報告書「JAL REPORT」を発行している。編集を担当する同社の山中明香里氏は、「統合報告書は“投資家へのラブレター”と呼ばれることもあります。一般的には機関投資家に向けて発行するものですが、弊社では幅広いステークホルダーを想定しています。投資家に求められる情報に加え、バリューチェーンやサプライチェーンに関わる方や社員にもわかりやすく、興味を持って読んでいただける内容を目指しています」と語る。
同社では統合報告書の英語版も制作しており、翻訳は外部に委託していた。外部から上がってきた一次原稿は社内の翻訳担当と日本語原稿制作部が確認し、すでに外部発信しているほかの報告書類の英訳とも整合性をとりつつ添削するため、外注コストはもちろん、社内外で幾度もやり取りを行う稼働も大きかったという。
社内の翻訳メンバーの1人である同社の麻生洋氏は、外部委託の翻訳の質も課題だったと振り返る。「複数の翻訳家が分担して作業するため、スタイルや英語のレベルが不ぞろいでした。さらに、これは仕方ないことですが、航空業界の専門用語に精通しているわけではありません。使われる単語や表現が洗練されていない印象で、添削には苦労していました」(麻生氏)
そこで、同社ではAI翻訳を活用して一連のプロセスの内製化を決断する。山中氏は、統合報告書で幅広い層に想いを伝えたいことを麻生氏に打ち明けた。「財務情報だけではなく、AI翻訳を活用して、文字面や数字の情報だけでは伝わりにくい情緒的な想いが伝わるよう表現してくださいとお願いしました」(山中氏)
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対策
NTT Comとの緊密な連携で翻訳精度を向上
AI翻訳の特性や癖を理解して効果的に活用
統合報告書の英語版を完全内製化するプロジェクトがスタートしたものの、滑り出しは順調とはいえなかった。なぜなら、当初社内の翻訳担当がCOTOHA® Translatorと向き合う必要があったからだ。
「多くの社員にとって、コミュニケーションを活性化する優れたツールであることは間違いありません。しかし、統合報告書は弊社のブランドイメージに影響を与える文書ですので、細心の配慮が必要です。強い意志を込めて伝えたいことが平坦な文章になったりするため、書き換えが欠かせないのです。当初は自分でやれば簡単にできる仕事なのに、AI翻訳を使いこなすために骨を折る必要がありました」(麻生氏)
社内翻訳メンバーであるオーストラリア支店総務セクションのMatthew Cupitt氏は、COTOHA® Translatorを評価する一方、翻訳担当としてはやや不満を感じていた。
「以前は本社から一方的に日本語で伝えられていた情報が、AI翻訳導入により同時・同量・同質で伝わるようになったことで外国籍の社員や海外駐在をしている社員の能力をより有効に引き出し、使える環境が整いました。特に、担当者レベルで日本語・英語の円滑なコミュニケーションを図れるようになったことは大きな成果だと思います。個人的に翻訳が効率化できていると思う反面、ネイティブとしては英語の表現や言い回しの不自然さを感じることもあります。たとえば、日本語では主語を省くケースが多いため、英語で主語が間違ってしまうことなどです」
そこで、効果的なAI翻訳の使い方や洗練された表現に向け、翻訳担当とNTT Comのキャッチボールがスタートする。「NTT Comの担当者に、多くの質問を投げかけました。ときにはシステムエンジニアのフォローもいただき、AI翻訳の癖や得意領域、登録のルールなどを学んでいきました。社内用語や専門用語を辞書登録してカスタマイズを進めながら、AI翻訳が苦手な領域は添削、書き換えをするポストエディターの立場に徹して共同で作業を進めました」(麻生氏)
同社からの要望を受け、いくつかの課題も改善されたこともあり、統合報告書の英語版は無事完成。幅広いステークホルダーに配布、公開された。
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効果
完全内製で翻訳のコスト・稼働・時間を抑制
熱い想いを込めた“渾身の一冊”が完成、
外部機関による統合報告書アワードで「優秀賞」を受賞した内容を反映
COTOHA® Translatorの特性を習熟し、共同で統合報告書の翻訳にあたった麻生氏は、効果を次のように述べる。
「AI翻訳を導入したことで、従来抱えていた問題がかなり解決されたと感じています。専門用語や社内用語を辞書登録することにより、表現の統一も図れつつあります。それをMatthewに展開して、さらに流暢な表現に仕上げてもらいましたので、納得のいく統合報告書が完成したと思っています」(麻生氏)
Matthew氏は、今後のCOTOHA® Translatorへの期待を次のように語る。
「日本語も英語も、時代とともに言葉の捉え方が変わってきます。たとえば、ジェンダーについての言い回しなども、20年前は使用していた表現も現在は使用しなくなっているようなケースもあります。そういう時代とともに変化するネイティブな表現を、これからAI翻訳が学んでくれることに期待しています」(Matthew氏)
山中氏は、仕上がりはもとより内製に切り替えながら、納期通りに進んだことも大きな収穫だったと明かす。
「やはり外部に翻訳を委託するコストはもちろん、リードタイムがなくなったことは大きいです。その分、添削や書き換えの手間は増えましたが、統合報告書の英訳というプロジェクト全体のスピード感は上がったと感じています。伝えたい想いがあふれて、約150ページ、従来の統合報告書の1.5倍のボリュームになったのですが、そのボリュームでも納期通りに完成できたのは麻生とMatthew、そしてAI翻訳のおかげだと思います」(山中氏)
今年度もJALの統合報告書プロジェクトは、着々と進んでいる。日本語はもちろん、英語の洗練された表現は、きっと昨年以上に幅広いステークホルダーの心に届くのではないだろうか。
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日本航空株式会社
事業概要
1951年8月設立、国内・国際線の定期航空運送事業、不定期航空運送事業、航空機使用事業、その他付帯する関連事業を手がけている。2021年度~2025年度の中期経営計画で「JAL Vision2030」を定め、多くの人々やさまざまなものが自由に行き交う、心はずむ社会・未来において世界で一番選ばれ、愛されるエアライングループを目指している。
(PDF形式/922 KB)
(掲載内容は2022年4月現在のものです)
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