BP総研・桔梗原が解説! 働き方改革先進事例 CASE8業務効率+安全性=「イイとこどり」の
モバイルワーク環境 実現方法は?

※本ケーススタディは、2019年2月に日経 xTECH Activeに掲載された記事の転載です。

もう大企業だけではない!
法改正によって個人情報保護が全企業の責務に

【日経BP総研・桔梗原 富夫が見る、この事例のポイント】
いつでも、どこからでもクラウドにアクセス・利用するためのモバイルPC環境の整備は、働き方改革の重要なテーマの1つです。しかし、セキュリティを重視するあまり、使い勝手がないがしろになってしまっては、大きな成果につなげることは難しいでしょう。個人情報保護関連の法改正も進む中、今、企業が用意すべきモバイルワーク環境について再考します。

グループウエアやMicrosoft Officeなど、業務に必要な各種ツールがSaaS型で提供されている現在、場所に縛られずに働くことは当たり前になりつつある。営業担当者などの外勤部門はもちろん、事務系スタッフなどにもノートPCやタブレットを配布し、テレワーク/モバイルワーク環境の整備に取り組む企業は多い。

ただ一方で、最近はモバイルワーク環境のあり方について、いま一度見直そうという企業も増えている。そのきっかけとなったのが、2017年5月に施行された「改正個人情報保護法」だ。

そこでは、指紋データやマイナンバーなどの個人識別符号を含めて「個人情報」を再定義するとともに、情報の取得から利用、保管、第三者への提供に関するルールが明示された。また同時に、従来は適用の対象外だった「5,000人分以下の個人情報を取り扱う小規模な事業者」にも、以後は適用される旨が定められたのである。そのため、自社の情報管理、およびモバイルワーカーの働き方のあり方について、見つめなおす企業が増加しているのだ。

もちろん、モバイルワークの主な目的である生産性向上を実現するには、セキュリティ対策をしつつ、同時に業務の利便性を向上させる必要がある。「働きやすさ」と「安全性」をいかに両立するか――。これを模索しているのが各社の現状といえるだろう。

そうした中、いち早くこのテーマに向き合い、新たなアプローチを見いだしたのがNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)だ。同社の事例をひもときながら、実践のポイントを探ってみたい。

セキュリティを意識するあまり便利さが犠牲に

そもそもNTT Comは、ICTを活用した働き方改革に率先して取り組んできた企業でもある。例えば、同社がテレワーク制度を導入したのは約9年前。在宅勤務に限らず、社外からいつでも、どこでもモバイルPC経由で業務システムにアクセスし、仕事が進められる環境を当時から整備してきた。

NTTコミュニケーションズ株式会社
システム部
第三システム部門
担当部長
久野 誠史氏

「ネットワークや情報システムを扱う企業である以上、当社自身もお客様に対して恥じないICT環境を整備する必要があります。そのため、業務上の必要なデータはすべて厳重なセキュリティ対策を施した社内のオンプレミス環境に置き、端末側には一切のデータを持たせないシンクライアントによるVDI環境を整備してきました」と同社の久野 誠史氏は語る。

ところが近年、この仕組みにおいて、社員から利便性における不満が寄せられるケースが増えていたという。

例えば、通信の利用が前提となるシンクライアントでは、営業担当者が客先でプレゼンを行おうとしても、ネットワーク接続しなければ資料を開くことはできない。また、新幹線での移動中など、通信が不安定な状況では、接続が切れるたびに業務を中断せざるを得ないといった問題があったのだ。

NTTコミュニケーションズ株式会社
アプリケーション&コンテンツサー
ビス部
アプリケーションサービス部門
第一グループ
担当課長
新村 道哉氏

「安定したネットワーク環境下でも課題はありました。作業を開始しようとPCを立ち上げても、セッションを確立する際の処理によって待機時間が発生してしまうのです。さらに、シンクライアントにアクセスするためには何度もID/パスワードの入力を行わなければならないという不便さもありました」と同社の新村 道哉氏は明かす。場合により、作業が開始できるまでに10分以上かかってしまうケースもあったという。

セキュリティを重視するあまり、業務上の便利さが犠牲になっている。このままでは生産性の向上にはつながらないと感じた同社は、改善策を検討し始めた。

ネットワークと端末の保護施策を強化し、利便性を改善

「新たなシステムで当社が目指したのが、従来の環境で達成されていたセキュリティレベルは維持しながら、社員が『使っていて気持ちのいいシステム』を追求することでした」と久野氏は言う。

このコンセプトの下、同社はオフライン環境での作業が容易なファットクライアントへのリプレースを前提に、ネットワークや端末の保護施策を拡充する方針を決定。具体的には、SSL-VPNをはじめとするセキュアな通信環境の下、統合型ソリューション「Microsoft 365」ベースで業務を行う環境を用意することにしたという(図1)。

図1●NTT Comが構築したファットクライアントベースのモバイルワーク環境

図1●NTT Comが構築したファットクライアントベースのモバイルワーク環境

クラウド、エンドポイントの両側で複合的なセキュリティ対策を施すとともに、
SOC(Security Operation Center)による不審な通信の監視・分析も行う

NTTコミュニケーションズ株式会社
システム部
主査
銅直 峻志氏

「まずネットワークについて、各端末は常時インターネットとSSL-VPNの両方に接続しますが、利用するサービス/アプリケーションに応じて、どちらのネットワークを使うかを自動的に判別する仕組みを実装しています」とNTT Comの銅直 峻志氏は紹介する。これにより、ユーザーがアクセス先のシステムを意識してVPN接続を行ったり、セキュアブラウザを起動したりする手間は必要なく、安全性が担保される形にした。

また「Microsoft 365」は、セキュリティを強みとするOS「Windows 10 Enterprise」と「Microsoft Office 365」、さらにエンドポイントセキュリティ対策「Enterprise Mobility+Security」で構成される業務ツール。これを標準ツールに採用することで、マルウエア対策から暗号化、多要素認証まで、必要なセキュリティ対策を網羅的に揃えた。

さらに、配布する端末自体にも生体認証機能を搭載。一層のセキュリティ強化を図るとともに、Microsoft 365各サービスへのシングルサインオンも実現し、業務開始時の手間や時間を削減している。

「加えて、端末と社内システム/クラウド間の通信は、当社のSOCがリアルタイムに監視・分析を行っています。これにより、不正アクセスなどの早期発見と、万一のインシデント発生時の迅速な対応を可能にしています」と新村氏は付け加える。

既存環境との比較検証では作業時間を約4割短縮

こうしてNTT Comは、現状維持を超えたセキュリティ強化を実現しながら、課題だった業務上の利便性向上を図ることができている。

NTTコミュニケーションズ株式会社
システム部
池澤 真紀氏

「導入後、以前のシンクライアントと新規導入したPCで、新幹線内での業務効率がどう変わるかの検証も行いました。その結果、新PCでは従来の6割程度の時間で作業を終えることができました」と同社の池澤 真紀氏は話す。通信が安定した社内環境でも検証を行い、こちらも2割程度の時間短縮が見られたという。

そのほかOffice 365の中でもチャット/コラボレーションツール「Microsoft Teams」で可能になった柔軟なコミュニケーションは、大きな業務効率化をもたらしている。「これまでは、参加者が急きょ同席できなくなったり、部屋が取れなかったりという物理的な理由でミーティング開催が滞ることもありました。現在はチャット・音声ベースのWeb会議で、いつでも必要なときにミーティングが行えるようになっています」(池澤氏)。

図2●新たなモバイルワーク環境がもたらした効果の例

図2●新たなモバイルワーク環境がもたらした効果の例

ファットクライアントの採用により、どこでも素早くPCを立ち上げて業務を開始できるほか、
電波状態が不安定な場所でも作業を継続できるといった成果が得られている

さらにNTT Comは、自ら実現した環境をベースに、顧客にもセキュアなモバイルワーク環境を提供するサービスを開始している。顧客企業の業種や規模によらず、複数のツールを適材適所に組み合わせることで、顧客ニーズに合わせた環境を提供することが可能だという。

「当社は、通信事業者として非常に厳格なセキュリティポリシーを設定しています。もちろん、これをそのまま再現することも可能ですし、このレベルまでは不要というお客様にも、改正個人情報保護法への対応を踏まえた最適なモバイルワーク環境をご用意することが可能です」と久野氏は強調する。

自由な働き方を目指す上で、多くの企業がぶつかるセキュリティリスクの壁。NTT Comの実践に裏打ちされた提案は、多くの企業の悩みを解決するものといえそうだ。

コミュニケーション環境の変化を把握し、パートナーと共に最適な取り組みを

働き方改革の過程で、必ず考えなければいけないことの1つが「コミュニケーション環境の見直し」である。昨今、「働き方改革の実現」をうたった、多種多様なコミュニケーションツールが登場しているが、1つのツールだけで働き方改革を実現するのは難しい。様々なコミュニケーション手段を、自社の業務にフィットしたかたちで用意できているかどうかが、働き方改革の成否に大きな影響をもたらす。

コミュニケーション環境を見直す際には、自社における、以下の「3つの変化」を把握することが重要となる。

1つ目は、「働く場所の変化」。働き方改革の目玉として、在宅勤務やテレワークの制度を導入した企業も多いだろう。「いつでも・どこでも」場所を選ばずに働けることは重要なポイントとなっている。

2つ目が「人の変化」だ。スマートフォンの普及に伴い“スマホネイティブ”な世代が登場し、PC中心のコミュニケーション環境の整備だけでは、すべての社員に満足してもらえる環境が実現しにくくなっている。また、世代により、コミュニケーションに対する考え方がまったく異なるということを、働き方改革を推進する側が理解しておく必要があるだろう。

そして3つ目が「ツールの多様化」。従来の電話やメールなどといった特定のツールだけを使うのではなく、連絡相手や自社の業務実態に合わせて、チャットツールや電話会議など適したツールを複数組み合わせる。これにより、TPOに合わせた働きやすい環境が実現できる。

こうした変化は日々起きており、働き方改革に必要なICTを自社だけで検討・構築するのは困難な状況になりつつある。働き方改革を実現するためには、NTT Comなどのパートナーの存在が不可欠だ。

NTT Comは、ネットワークインフラからクラウド、各種アプリケーションまで提供可能であり、自社サービスだけでなく、多様なパートナーベンダーのソリューションを最適に組み合わせた形で一元的に提供・サポートすることが可能。またNTT Com自身も長年に渡り働き方改革を実践しており、成功だけでなく、失敗からも得たノウハウを基にした提案が行える。時流の変化に即した、働き方改革の成果を上げるための取り組みを、強力に支援してくれるだろう。