いまさら聞けない「デジタルトランスフォーメーション」ビジネスを変える3つのフェーズと2つの力(後編)

デジタルトランスフォーメーションで、人間に求められる能力も変わる

デジタルトランスフォーメーションを実現する取り組みは、「IT(デジタル・テクノロジー)を駆使して、現場のニーズにジャスト・イン・タイムでビジネス・サービスを提供できる、組織や体制、ビジネス・プロセス、製品やサービスを実現する」ということです。顧客や店舗、営業や工場など、ビジネスの現場は時々刻々動いています。その変化をデータで捉え、現場が“いま”必要とする最適なサービスを即座に提供することは、ビジネス環境がめまぐるしく変化しているいまの世の中で、企業として生き残り、成長を持続させるために必要なことです。

これらは、業務手順を変えるとか、ITで業務処理を早くするというレベルで実現できるものではありません。製品やサービスのあり方や収益の上げ方、顧客に提供する価値の中身までを変えないと実現できないでしょう。つまりは「事業目的」を変えなくてはなりません。そうなれば、ビジネスに携わる人たちに求められるスキルや能力も変わります。そんな変革がデジタルトランスフォーメーションといえるでしょう。

企業にもたらされる「即応力」と「破壊力」2つの新しい力

デジタルトランスフォーメーションの実現によって、企業は2つの新しい力を手に入れることになります。新しい力は、製品やサービスをジャスト・イン・タイムで現場に提供できる「即応力」、生産性・価格・期間などの常識を覆す「破壊力」です。

「即応力」を手に入れるためには、ビジネスに関わる事実をリアルタイムでデータとして捉え、それを「見える化」し、迅速な意志決定ができなくてはなりません。必要であれば直ちに業務プロセスの情報システムを手直しする、あるいは機器を制御して対処できなくてはなりません。デジタルトランスフォーメーションの実現によって、ビジネスの最前線で必要とされるサービスをジャスト・イン・タイムで提供できる仕組みを持つことが即応力なのです。

「破壊力」を手に入れるためには、いままでの常識を新しい常識に上書きし、人々の心に「ビジネスの価値基準の転換」を植え付けなくてはなりません。例えば、1万円が相場だった商品やサービスを1千円で提供することや、1週間が常識だった納期を翌日にしてしまうなどです。新しい常識を定着させてしまえば、誰ももとの常識に戻れなくなります。これが「破壊的」な競争力を手に入れることなのです。

Amazonは、世界で最もデジタルトランスフォーメーションの実現に近い

この2つの力を兼ね備えた企業は限られた存在です。そこに最も近いとされる企業は、Amazonではないでしょうか。

Amazonは企業理念として、「最高の顧客体験」を掲げています。例えば、Amazonの商品ページには「1-Click™で今すぐ買う」というボタン(ワンクリック・ボタン)があります。このボタンを押すと、住所やクレジットカードの入力、確認画面に移って確認ボタンを押すこともなく、即座に注文が成立します。有料のプライム会員であれば送料もかかりません。この便利さに、つい余計なものまで買ってしまう人もいるはずです。そして、この便利さ故に、同じものを買うのならAmazonを使う人も多いでしょう。この仕組みはAmazonの特許であり、他の会社が同様の仕掛けを組み込むことはできません。また、そんな会員の注文履歴を機械学習で分析し、次に何を買うかを予測して、配達先のそばの倉庫に予め置いておくことで、他社にはまねできない短納期を実現しているのです。

また、ダッシュボタンという、ネット・ショップにあるワンクリック・ボタンを物理的なボタン(機器)に置き換えたサービスもあります。ダッシュボタンを押すと、カミソリの刃やマウスウォッシュ、洗剤などの日用品、シリアルやミネラルウォーターなどの食品・飲料、美容、ペット、ベビー関連商品など、頻繁にリピートする商品が配送される仕組みです。それら商品を保存する冷蔵庫や使用する洗濯機などの機器にダッシュボタンを貼り付けておきます。商品が少なくなった、または使い切ったら、その場でボタンを押すだけで、最短ならば注文当日に自宅へ届く仕組みです。ダッシュボタンは、ボタンを押すだけでその商品を買えてしまうという点で、広告や宣伝などの費用が不要です。これらの点がマーケティングの常識を破壊するサービスといえるでしょう。

Amazonは、リアルな世界にも進出をはじめています。2017年にシアトルでレジ無しのコンビニAmazon Goを開店。この店舗形態を、2021年までに全米で3,000店舗にすることを計画しています。また、企業向けのサービスであるAmazon Fulfillmentは、商品の在庫管理、販売、決済、配送などの一切の業務を代行するものです。それらに「最高の顧客体験」というソリューションを盛り込むことで、製造業者をAmazonの顧客に取り込んでしまおうとしています。これが倉庫業や運送業などの企業に対する破壊的競争力なのです。

このようにネットに加えリアルでも顧客接点を拡げれば、膨大な行動データを集めることができます。これらのデータを活用することで、倉庫の品揃えをより最適化し、適切なタイミングで顧客へ商品を推奨し、注文が入れば即日配送といった「仕組み」も強化されていくでしょう。一旦このような基盤が出来上がれば、事業やマーケティングなどにおける長期の戦略・施策を最適化することができるようになり、その仕組みを様々な事業へ横展開することも容易となります。Amazonは、「業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態」、すなわちデジタルトランスフォーメーションの第3フェーズを目に見える形で実現している一例といえるでしょう。

不確実性がますます高まるこれからの時代、企業が生き残るためには、ビジネス・スピードを加速して変化に即応し、現場に必要なサービスをジャスト・イン・タイムで提供できる力を持たなくてはなりません。デジタルトランスフォーメーションの実現は、企業が必ず取り組まなければならないテーマになろうとしているのです。

斎藤昌義
ネットコマース株式会社代表取締役

1982年、日本IBMに入社、営業として一部上場の電気電子関連企業を担当。その後営業企画部門に在籍した後、同社を退職。1995年、ネットコマース株式会社を設立、代表取締役に就任。産学連携事業やベンチャー企業の立ち上げのプロデュース、大手ITソリューション・ベンダーの事業戦略の策定、営業組織の改革支援、人材育成やビジネス・コーチング、ユーザー企業の情報システムの企画・戦略の策定などに従事。