2023年10月1日からスタートする消費税のインボイス制度。小規模事業者や個人事業主はもちろんのこと、規模が大きい企業にも多大な影響がある制度変更です。そのため個人・法人問わず、しっかりと理解して準備をしておかなくてはなりません。そこでインボイス制度の基本について、税理士の小島孝子さんに解説してもらいました。

小島孝子(こじま・たかこ)税理士。ミライコンサル代表取締役。早稲田大学社会科学部卒業、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科修了。大学在学中から地元会計事務所に勤務した後、東京都内の税理士法人に入り、税理士受験対策校の講師、一般企業の経理職に従事したのち、2010年に小島孝子税理士事務所を設立。税務、経理業務に関する執筆やセミナー講師としても活躍。著書に『会話でスッキリ 電帳法とインボイス制度のきほん』(税務研究会出版局)
消費税の大改革「インボイス制度」
インボイス制度とは、消費税の情報が正確に書かれたインボイス(適格請求書)の交付や保存を義務づける、新しい制度です。その目的は、法律で定められた内容を記載した請求書を発行することで、消費税の計算を正しく行うこと。海外ではインボイスは一般的です。
今回、インボイス制度がスタートする背景には、消費税をきちんと納めるシステムにするだけではなく、税金のシステムをグローバル水準にそろえるという意味合いもあります。
インボイス(適格請求書)
- 売り手が買い手に対して、正確な適用税率や消費税額などを伝えるもの
- 現行の「区分記載請求書」に「登録番号」「適用税率」「消費税額等」の記載を追加

インボイスの詳細を説明する前に、理解しておかなくてはいけないのが消費税の仕組みです。
消費税は、国内すべての商品やサービスの消費にかかる税金です。消費税を負担するのは消費者ですが、商品を販売する事業者が消費者から受け取った消費税を代わりに国に納めるという形になっています。
この際、売り上げに対する消費税をそのまま納税するのではなく、仕入れの時に別の事業者に払った消費税を差し引くことができる「仕入れ税額控除」という仕組みがあります。

この仕組みは、取引に関わるすべての事業者が納税していることが前提です。しかし、現行の法律では売り上げが1000万円未満など、一定の要件に該当すると消費税を納付する義務がない「免税事業者」となります。そのため、下の図のように事業者の中に免税事業者がいると、納税額が一致しないことになるのです。

このような納税の不一致を解消し、消費税を正しく計算できるように、売り手も買い手も正確な税率・税額を記載したインボイスが導入されることになりました。インボイスによって「取引先が納税義務のある事業者かどうか」と「正しい税額」を明確にすることができます。
インボイス制度導入でどうなる?
- 売り手(インボイス発行事業者)・買い手である取引相手(課税事業者)の求めに応じてインボイスを交付
- 交付したインボイスの写しは保存 買い手(課税事業者)
- 売り手(インボイス発行事業者)から交付を受けたインボイスを保存して、仕入れ税額控除を適用
インボイス発行には事業者登録を
インボイスを発行するには、税務署に「事業者登録」をしなくてはならず、登録申請できるのは課税事業者のみです。
もともと課税事業者であれば、そのまま申請するだけでOKですが、免税事業者の場合は、①免税事業者のままインボイスを発行しない、②課税事業者となってインボイスを発行する、のいずれかを選択することになります。
そのため「税金を負担しなくてはいけない課税事業者となるより、このまま免税事業者でいたほうがいいのでは?」と考える事業主もいます。
インボイス制度は義務ではないので、基本的にどちらを選んでもよいとされています。ただし、取引相手である買い手にとっては、免税事業者との取引は仕入れ税額控除の対象外となり、消費税を全額負担することになります。
そのため買い手としては、インボイスに登録している事業者と取引したいという意向が働きやすくなります。免税メリットだけを考えるのではなく、取引相手との今後の関係性を考慮して、インボイス登録事業者になるかどうかを検討する必要があるでしょう。

インボイス発行の条件:適格請求書発行事業者の登録
インボイス制度のスタートは2023年10月1日からですが、10月1日からインボイスを発行するためには、2023年3月31日までに申請しておく必要があります。これはインボイス発行は登録を申請した日からではなく登録が完了した日から有効になるためです。インボイス事業者登録を考えている場合は、早めに手続きをしておくのがスムーズです。
なお、一部の事業者(小売り・飲食店・写真・旅行・タクシー・駐車場・その他)は制度スタート後も、記載事項を省略した「適格簡易請求書」でOKです。また、必要事項が記載されている仕入明細書をインボイスとして発行することも可能です。
個人事業主や一人法人の場合、「簡易課税」を選択することもできます。
簡易課税とは、売上高5000万円以下の中小事業者が事前に届け出をすれば、簡易化された仕入れ控除税額の計算で済ませられるという制度。売り上げにかかる消費税額の一定割合(みなし仕入れ率)を、仕入れにかかった消費税とみなして計算できるので、消費税の計算が簡単に済みます。このみなし仕入れ率は、業種によってあらかじめ決まっています。
簡易課税の場合の消費税の計算方法
納付税額=課税売上等に係る消費税額-(課税売上等に係る消費税額×みなし仕入れ率)
業種別のみなし仕入れ率
第一種事業(卸売業) | 90% |
---|---|
第二種事業(小売業) | 80% |
第三種事業(製造業等) | 70% |
第四種事業(その他の事業) | 60% |
第五種事業(サービス業等) | 50% |
第六種事業(不動産業) | 40% |
上記でいう業種は、一般的な登記上の業種ではなく、売り上げの内容に合わせて分類したものです。例えばスーパー(小売業)と卸売業をやっている場合は、それぞれの売り上げに係る消費税額の90%、80%のみなし仕入れ率を適用して計算することになります。
簡易課税とインボイスで、どちらが税金で得なのかは売り上げの規模や内容によって大きく違ってきます。そのため、どちらかに決める前に一度しっかりシミュレーションをして確かめることが大切です。

免税事業者が不利益を得ないための禁止事項
前述の通り、免税事業者との取引では買い手は仕入れ税額控除が受けられません。そのため買手側の事業者から取引先に対して、なんらかの圧力がかかることがないように、禁止行為が定められています。買い手側の企業は、このような禁止行為を行わないよう注意しなくてはなりません。
6つの禁止行為
1.取引対価の引き下げ
再契約が形式的にすぎず、著しく低い価格を設定
2.商品・役務の成果物の受領拒否、返品
契約期間中にもかかわらず、免税事業者であることを理由に納品を拒否
3.協賛金等の負担の要請等
取引価格は据え置くが、協賛金などの不合理な金銭を要求
4.購入・利用強制
取引価格は据え置くが、関係のない商品やサービス購入を要請
5.取引の停止
売り手に不当に不利益な契約を一方的に提示し、応じない場合、取引を停止
6.登録業者となるような慫慂(しょうよう)等
課税事業者にならなければ、取引価格を下げる、取引の打ち切りなどを一方的に通告
事業者のインボイス対応で迫られること
事業者にとってインボイス制度を考えるうえで最も重要なのが、具体的にどれくらいの影響が自分たちにあるのかきちんと試算しておくことです。例えばフリーランスとの取引が多い事業者であれば、売り手である相手がインボイス登録事業者か免税事業者かで、税金の金額が大きく違い、業績にも大きな影響を与えることになるでしょう。
場合によっては税金だけの話ではなく、発注額や販売価格の見直しも検討する必要があるかもしれません。
また、事業者は請求書の発行、そして請求書を受け取る側として、次の2つをしっかり確立しておかないといけません。
②取引先が適格請求書発行事業者かチェックできる体制づくり
特に、取引先が発行事業者かチェックできる体制づくりでは、誰がどのようにチェックするかというフローをしっかりと確立しておきましょう。インボイスは登録制であることから、相手の状況が変わる可能性があるため、定期的なチェック体制が必要です。

※この記事はNTTコミュニケーションズ株式会社の「NTTコミュニケーションズ 編集チーム」が制作した記事です。
この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております。
取材・構成: 株式会社NTTコミュニケーションズ NewsPicks +d担当
デザイン: 山口言悟(Gengo Design Studio)