コロナ禍により、いっきに広がったオンラインによる採用面接。そのメリットとデメリット、成功させる秘訣をHR総研主席研究員の松岡仁氏に聞きました。
1.企業と志望者、双方の負担が減り、選択肢が広がる
新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークなどの新しい働き方が普及するなか、人材採用においても変化が起きています。特に顕著なのは、オンライン面接の増加です。オンライン面接は、従来の対面の面接と比べて、さまざまなメリット・デメリットがあります。それらを踏まえ、オンライン面接を成功させるには、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。企業の人材採用に詳しい、ProFuture株式会社 HR総研主席研究員の松岡仁氏に聞きます。
ProFuture株式会社
HR総研主席研究員
松岡仁氏
「コロナ禍以降、大手企業の多くは、新卒採用の説明会や面接をオンライン化しました。2022年卒採用では9割以上の大企業がオンライン面接を導入しています。当初は戸惑いもあったかもしれませんが、大学の授業もオンライン化されているため、学生たちはすっかりオンライン面接に適応しているようです。
むしろ、対面の面接に慣れていないため、選考が進み、初めて対面の面接をする際に学生が緊張してしまうといった話も聞きます。社員300名以下の中小企業でも、2022年卒採用では6割以上、大手・中小企業をあわせた全体では約8割がオンライン面接を導入しています。キャリア採用においても、同様にオンライン面接が増えており、もはや採用活動において、なくてはならないものになっています」
松岡氏によれば、きっかけこそ感染症予防のためというケースが多いそうですが、実際に運用してみると、多くの企業がそのメリットを実感していると言います。
「オンライン面接を導入した企業の多くで、応募数が増えています。オンライン面接のよい点は、まず時間や場所の制約がなくなることです。志望者は、交通費をかけ、長時間の移動や待機の時間を経て、面接を受ける必要がなくなりました。そのため、遠方に住む志望者や、面接にかける時間やお金を節約したいという志望者であっても、気軽に応募しやすくなり、企業側はより多くの人材との面接機会をもつことができます。
加えて、会場の確保や面接担当者のスケジュール調整などの手間も少なくなります。最近は、テレビ会議用のレンタルスペースなどが日本全国いたるところにあるので、たとえば面接担当者が出張中でも対応することが可能です」
もちろん、良いことばかりではなく、デメリットもあります。対面での面接との一番の違いは、パソコンの画面を通してのやりとりとなるため、受け取ることのできる情報が少なくなってしまうことです。
「オンライン面接は、直接会って話すのに比べると、その人が醸し出す雰囲気や熱意などが伝わりにくい、といった問題があります。そのため、相互理解を深め、関係性を強めるのが難しいのです。さらに、オンライン面接は手軽に受けられる分、安易に応募する人も増える可能性があります。そのため、面接のドタキャンやミスマッチもおきやすい。
実は、大手企業でも、2021年卒採用において、一次面接から最終面接まで、すべての面接をオンラインで行ったところは、内定辞退者が増えた企業が少なくありません。そのため2022年卒採用では、一次面接や二次面接はオンラインで行っても、最終面接だけは対面で行うという企業が増えています」
2.オンラインの特性を踏まえ、志望者が自分らしさを出せる環境づくりを
オンライン面接は、採用活動におけるコストや手間を減らし、志望者の増加を期待できる一方で、コミュニケーションが取りにくいなどのデメリットもあるとのこと。そこでここからは、オンライン面接を成功させるためのポイント、注意点について伺います。
「前提として、オンラインに限らず、面接には二つの目的があります。一つは、その人材の能力を推し量り、自社にあう人材かどうか見極める『アセスメント』。もう一つは、自社のことを知ってもらい、志望意欲を高める『プロモーション・動機付け』です。オンライン面接でも、この二つの目的を常に意識することが大切です」
まず、「アセスメント」において重要なのは、対面よりコミュニケーションが難しいという、オンライン面接の特性に対する配慮です。
「オンライン面接は、対面より雑談がしづらいため、応募者が緊張し、本来の自分らしさを出せないことがあります。そのため、面接担当者は意識的に笑顔をつくり、服装や言葉づかいなどもなるべくフランクな雰囲気になるように気を配ったほうがよいでしょう。本題に入る前に、アイスブレイクとして、気軽に受け答えできるような質問を挟むこともおすすめします」
相手の発言が聞き取りづらいことや、表情が読み取りにくいこともあるため、できるだけはっきりと話し、リアクションをわかりやすく示すことも大切です。
「対面の面接よりも、ゆっくり、はっきりと話すことを意識しましょう。相手が話をした後は、ややおおげさにうなずくなど、リアクションは大きめに。加えて、オンラインの場合、志望者から何か発言をしたくても、どのタイミングで切り出せばよいか、判断が難しいこともあるでしょう。
そこで、『ここまでで何か質問はありますか?』『この点に関してどう思いますか?』などと、こまめに発言をうながしてあげることも大事です。面接官が複数名いる場合も、それぞれがいつ発言するのか、タイミングをはかるのが難しいので、事前に、誰が・いつ・どの質問をするのかなど、役割分担を確認しておきましょう。また、オンライン面接では、PCのモニターとカメラの位置の違いにより、お互いに目線がズレた状態での面接になります。できるだけモニターと顔の位置を離すことで、そのズレはかなり補正されますので、それも心掛けるようにしましょう」
一方、面接は、「プロモーション・動機付け」の場としても重要です。企業が人材を選ぶだけではなく、相手に自社のことを知ってもらい、志望動機を高める貴重な機会だと、松岡氏は言います。
「たとえば、画面共有機能を使って会社紹介の動画を見てもらったり、ホームページを見てもらったりしながら、自社について説明するのもよいでしょう。それから、質問の時間は十分にとっていただきたいです。あるいは、選考のための面接とは別に、社員と気軽に懇談できる場をオンラインで設けるのも有効です。コロナ禍では、会社を見学することも難しいですが、フランクに社員と話してもらうことで、職場の雰囲気を感じてもらい、不安な点を解消してもらうこともできるでしょう」
では、オンライン面接のためのツールについては、どのようなものを導入すればいいのでしょうか。松岡氏によると、大がかりなシステムなど、コストをかけて特別なものを導入する必要はないそうです。
「ビジネスで一般的によく使われているビデオ会議ツールであれば問題ありません。学生も、オンライン授業でそうしたツールの使い方には慣れています。安定した通信環境を用意し、通信の問題などがないかを事前にチェックしておきましょう。
万一、面接中に通信障害などのトラブルが起きたときはどうするのか、対応法を決めておき、最初に志望者に説明しておくと、いざという時に安心です。さらに、複数名の面接官が同時に面接に参加するときは、同じ部屋のなかで近距離で複数のPCからアクセスするとハウリングしてしまうので、ヘッドセットやイヤホンマイクを使用するなど、注意が必要です」
3.オンライン面接とも相性がよい「構造化面接」とは
オンライン面接は、対面の面接に比べると、志望者から受け取れる情報が少ない面があり、コミュニケーションが十分に取れるような工夫が必要です。一方で、オンライン面接だからこそ評価しやすいこともあると、松岡氏は言います。
「対面の面接では、志望者が醸し出す雰囲気や熱意が伝わってきますが、それが評価へのバイアスになってしまうことも。たとえば、面接で受けた明るく元気な印象を評価して採用したのに、いざ働いてもらったら期待したパフォーマンスを出してもらえなかった、といったケースがあります。
対面面接の評価は、感覚的なものになりがちなのです。一方、オンライン面接は雰囲気や情緒的なニュアンス(非言語情報)が伝わってこない分、その人物が話す内容そのもの(言語情報)にフォーカスしやしいと言えるでしょう。オンライン面接は、対面面接よりロジカルに、客観的な評価ができる側面があるのです」
さらに、オンライン面接で、より志望者の本質を引き出すためには、質問の仕方を工夫する必要があります。
「面接官に知っておいてほしいのは、オンラインの場合、志望者は画面から見えないところ(PCモニターなど)にメモを貼り、それを見ながら話をしていることも多いということです。特に、『志望理由は?』などの典型的な質問に対しては、どのように答えるか、あらかじめ用意していると考えていいでしょう。そのため、スタンダードな質問だけではなく、少し違った角度からの質問や、『なぜそのように考えたのですか?』など、より本質を掘り下げていくような質問も用意しておくのがおすすめです」
最近では「構造化面接」と呼ばれる手法に注目が集まっており、オンライン面接と組み合わせるところも増えていると言います。
「構造化面接とは、まず自社がどのような人材を求めているか、採用要件を明確にした上で、評価基準を決定。そして、その基準を満たすかどうかを確認するための質問を用意し、すべての応募者に同じように投げかけ、統一した基準によって評価します。このようにロジカルに、マニュアルにしたがって行う構造化面接は、オンラインの環境や志望者の印象などによって評価が左右されにくく、面接官による評価のばらつきも抑えられます。オンライン面接との相性がいいと思います」
4.これからの採用は、オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド型へ
これまでお伝えしてきたように、オンライン面接は、上手に活用すれば、非常にメリットの多い手法です。そのため、新型コロナウイルスの流行が収束した後も、多くの企業はオンライン面接を使った採用活動を継続するだろうと、松岡氏は予測します。
「アフターコロナにおいては、オンラインと対面をうまく組み合わせたハイブリッド型の面接が主流になっていくと思います。いずれにしろ、志望者との接点を増やすことができるオンライン面接は、人材獲得に悩む中小企業こそ、積極的に活用すべきです。オンラインを取り入れることで、地方や海外を含め、より幅広く優秀な人材を募ることができるでしょう」
逆に、オンライン面接を導入していない企業は、志望者から「時代の波に乗り遅れている」と思われてしまう可能性もある、と松岡氏は指摘します。
「少子高齢化や労働人口の減少にともない、これからは子育て中の女性や親の介護をしている方、遠方に暮らす方など、多様な人材にとって働きやすい環境を整えなくてはなりません。採用だけではなく、人事や教育などを含めた社内制度全般を、社員一人ひとりに合わせた個別対応型のものにしていく必要があります。そのとっかかりとして、大がかりな投資が不要で、導入のハードルが低いオンライン採用にまず挑戦してみるのはおすすめです。優秀な人材の確保に苦労している中小企業こそ、ぜひオンライン面接を有効に活用していただきたいと思います」