Select Language : English 日本語
Global Site : NTT Ltd.

お客さまの課題解決のヒントをお届けするデジタルマガジンICT Business Online

メルマガ登録 サービス
オンライン注文

中小企業経営の研究者に聞く「コロナ禍のピンチをチャンスに変える方法とは」

中小企業経営の研究者に聞く「コロナ禍のピンチをチャンスに変える方法とは」

目次

メルマガを登録する!(無料)

コロナ禍によって、日本経済は大きなダメージを受けました。今後の中小企業の経営において大事なことは何なのか。明治大学の岡田浩一教授に聞きます。

1.中小企業に大きな打撃を与え、働き方を変えたコロナ禍

日本経済や企業に大きな打撃を与えた、新型コロナウイルス感染症の流行。2021年に入ってからは日本でのワクチン接種が始まり、「アフターコロナ」も視野に入る状況になってきました。今、中小企業はどのような取り組みをすべきなのでしょうか。まずは、コロナ禍が日本の中小企業に与えた影響について、中小企業の研究者である明治大学の岡田浩一教授に聞きました。

「コロナ禍による打撃を特に大きく受けたのは、飲食や宿泊業界です。これらの業界はまさに中小企業が支えています。さらに、これらの業界を取引先として、商品を納め、サービスを提供している企業にも中小企業が多い。そのため、多くの中小企業がダメージを受け、業績を悪化させています。そもそも、コロナ禍以前から経営者の高齢化や後継者不足によって、2025年頃までに多くの中小企業が廃業になるとの予測もありましたが、そんな「大廃業時代の到来」をコロナ禍が加速させている面があります」

一方、コロナ禍の影響で、むしろ業績が向上した業界もあります。たとえば、感染防止対策や医療関係、巣ごもり需要などに関連する業界です。

「製造業では、コロナ禍で海外からの輸入が一時的に途絶えたため、国内企業への需要が一気に増え、売り上げを伸ばしたケースがあります。外出を控える人が増えたことで宅配サービスを利用する人も増えたと思います。そして、個人で宅配員の仕事をするために、あるいは『密』を避けて通勤するためにと、自転車を購入する人が増え、自転車や関連用品の売り上げが伸びたとの話もあります。ただ、こうした需要動向は変動的で、今後も好業績がずっと続く保証はないことに注意する必要があります」

コロナ禍は企業の業績だけでなく、働き方にも大きな影響をおよぼしました。テレワークが普及し、会議や商談もオンラインで行われることが増えました。

「中小企業の場合、コロナ禍を機に今までためらっていたIT活用によるテレワークの導入に踏み切ったところもあれば、依然として旧来のスタイルに固執しているところもあります。それでも、全般的にITの重要性に対する認識は大きく高まっています。この点は、コロナ禍が中小企業に与えた影響のポジティブな側面だと思います」

2.ピンチをチャンスに変えるために、経営者に求められる考え方とは

コロナ禍によって、多くの中小企業がダメージを受ける一方、業績が向上している企業もあります。今、苦境に立たされている企業は、創意工夫によって業績を伸ばしている企業の事例を参考にしてほしいと岡田教授は言います。

「独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しているサイト『J-Net21』では、コロナ禍に立ち向かい、新たな挑戦を始め、新市場を開拓したり、新規の顧客を獲得したりしている中小企業の事例がたくさん紹介されています。今、コロナ禍のピンチを乗り越えるために奮闘されている中小企業のみなさんには、ぜひそれらを参考にして活路を見出していただきたいと思います」

そして中小企業がコロナ禍というピンチをチャンスに変えるために、最も重要なのが経営者の姿勢です。岡田教授は、その指針となる重要な考え方として、経営学者サラス・サラスバシー氏が提唱している「エフェクチュエーション」を挙げます。

「優れた起業家が実践している意思決定プロセスや思考に関する理論で、5つの原則が挙げられています。その中の一つ『レモネード』は、予期せぬ事態を避けたり、克服したりするのではなく、それを利用しようとする思考です。たとえば、酸っぱくて味が良くないレモンを仕入れてしまっても、廃棄するのではなく、それをレモネードに加工すれば、付加価値を高めて売ることができる。そんなマイナスをプラスにする発想です」

5つの原則のなかには、そのほかにも既存の人材、技術力、ノウハウなどを駆使して問題に対応する「手中の鳥」、競争相手であったとしても何かしら情報やチャンスを提供してくれる存在であり、排除するのではなく、パートナーとして価値ある存在だと捉える「クレイジーキルト」など、苦しい状況を乗り越えるためのヒントとなる思考が提示されています。

3.ハイパーコンペティションの時代は、積極的に変化を求めるべき

岡田教授は、アフターコロナの企業経営では「エフェクチュエーション」のような考え方がますます重要になると言います。それは、たとえコロナ禍が収束しても、今後も変化の激しい時代は続くからです。

「今はハイパーコンペティション(超競争)の時代です。従来の業界の枠組みはどんどん崩れ、そこで確立してきた優位性はいつ失われるかわかりません。今までの競合企業が競合でなくなり、まったく別の業界の企業が競合相手になることもあるでしょう。たとえば、若者の車離れが進むなか、今や自動車メーカーの最大のライバルは、若者が夢中になるゲームを提供しているIT産業とも言われています。コロナ後に成長するのは、そんな時代の変化に迅速に対応し、新たな戦略をつくっていける企業です」

そもそも、多くの中小企業の停滞は、時代の変化に対応できないことが一因になっていると岡田教授は指摘します。

「大企業は7〜8年ほどで経営者が交代しているのに対し、中小企業では30年近く、あるいはそれ以上、経営者が交代しないことが少なくありません。その結果、事業内容や経営スタイルなどにも変化が起きにくく、時代の流れに乗り遅れてしまいがちなのです。中小企業の経営者は、大企業の経営者以上に、時代の変化を敏感に察知し、積極的に変わっていこうという強い意志をもつ必要があります」

4.コロナ後に向けてまず取り組むべきはIT化

今、経営者に求められるのは、時代に合わせて変化していくこと。ただ、新しいことに挑戦するといっても、資金や人材のリソースに限りがある中小企業にとっては、そう簡単なことではありません。そこで最初に取り組むべきこととして、岡田教授が推奨するのがIT化です。

「ITはコスト削減や業務効率化だけでなく、市場開拓や新規顧客開拓、新製品開発、顧客満足度の向上などにも有効です。近年はそのことを多くの経営者が認識し始めていますが、中小企業が大胆なIT投資をするのは難しかったのも現実です。しかし今は、コロナ禍の影響もあり、社会全体で、さまざまなものがオンラインに移行しつつあります。この状況は、中小企業がいままで取り組めなかったIT化を一気に進めるチャンスになるでしょう」

現在、国は企業のDXを後押しするため、「IT導入補助金」や、IT専門家のサポートを受けられる「中小企業デジタル化応援隊」などの支援制度を用意しています。地方自治体や商工会議所、商工会、金融機関などもIT化の相談には親身に対応してくれます。

「まずは、自分が相談しやすい機関に相談してみてください。とりわけ私が日本企業での導入がもっと進んでほしいと考えているのが、企業間の取引を電子化する『EDI』です。日本ではまだEDIの導入率が低いのですが、EDIを活用することで業務の効率化が促進され、成長のカギとなるでしょう」

しかし、中小企業のなかには、トップがIT化に後ろ向きであるために、なかなか導入が進まないというケースもあります。社員としては、ITを導入したくても「経営者や上司をどう説得すればいいか悩んでいる」という人もいるかもしれません。そういう場合は、最初から大きなIT投資の話をせず、まずは小さなことから始め、ITのメリットを実感してもらうことが大事だと岡田教授は言います。

「ある会社では、社長がメーリングリストを使って社員とやりとりすることから始めました。その結果、社内の情報共有やコミュニケーションが円滑になり、問題やクレームにも迅速に対応。顧客満足度も、社員満足度も上がりました。そのことでITのメリットをトップが実感し、本格的なIT化が一気に進んだのです。いきなり大規模なシステムなどを導入しようとするのではなく、まずはホームページをつくってみたり、スマホで利用できるアプリを取り入れてみたり、小さなことから始めてみることをおすすめします」

5.危機を乗り越えた先には明るい未来が待っている

IT化によって中小企業はピンチをチャンスに変え、日本の成長を支える。岡田教授はそんな風に、中小企業に大きな期待を寄せています。

「今は経営に苦しんでいる中小企業が多いと思いますが、実は中小企業に関する研究文献を読むと、いつの時代の文献でも『今の時代は中小企業の経営は厳しい』と書かれているのです。でも、そんな厳しい時代にチャンスを見出し、活路を見出した企業こそが、新しい時代を切り開いてきたのです。私は日本の中小企業の技術や顧客目線の姿勢は、世界一といえるすばらしいものだと思います。優れたアイデアを持っていて、創意工夫に長けた経営者も多い。そんな日本の中小企業なら、必ず今の危機を乗り越えられると信じています」

岡田教授は、コロナ後に以前の社会に戻ることなく、新たな社会へと変わっていくなかで、中小企業がその変化に対応するには、ITを活用していかなければならないと言います。

「ITは日進月歩で進化しています。今後も、よりすばらしいサービスやシステムがどんどん提供されるでしょう。そんなITを今から武器にしておけば、中小企業の可能性はますます広がっていきます。さらに、コロナが収束すれば、反動としてさまざまな業界で需要増も起きるでしょう。今は大変だと思いますが、支援制度なども活用し、現在の危機をなんとか乗り越えていただきたい。その先には必ず明るい未来が待っているはずです」

メルマガを登録する!(無料)