人との接触が避けづらい介護業界の新型コロナ対策はどのように行うべきなのでしょうか。今回はスマートフォンなどのICTツールを利用した、人との接触や密を回避する方法を紹介します。
1.介護業界でもICTを活用すれば、人との接触は削減できる
コロナ禍の終息が見通せないなか、産業界では感染対策が最優先の課題となっています。なかでも感染による重症化リスクの高い高齢者のケアを担う介護業界では、徹底した対策の必要に迫られています。
今年1月、感染拡大の第3波を受けて11都府県に緊急事態宣言が再び発令されました。これに際して厚生労働省では介護サービス事業所に対して十分な感染予防対策を施したうえで、必要なサービスを継続的に提供するよう通知を発出しています。利用者や従業員の安全を確保しつつ、いかに事業を継続していくか、多くの介護事業者が難しい課題に取り組んでいます。
こうした課題を解決するための手段として考えたいのがICT技術の活用ですが、これまで介護業界では導入がなかなか進んできませんでした。しかし、さまざまなICT技術を役立てることで、接触機会を減らす、あるいは密を避け、新型コロナの感染リスクを減らすことが可能になります。
2.接触を減らす、ビジネスチャットでの情報共有
まず、介護業界で働く従業員の新型コロナ感染リスクを、ICTツールで減らす方法を考えてみます。実際に利用者のケアをする従業員はどうしても身体的な接触は避けられないため、まずは事務所への出社や立ち寄り回数をどう減らしていくかがカギとなります。
それには、これまで紙ベースの報告書や口頭で行われてきた、情報共有をビジネスチャットで行うという方法があります。ビジネスチャットは個人で使用しているメッセージアプリのように簡単な操作で気軽にコミュニケーションがとれるツールです。
そもそも、コロナ禍でなくても広い施設や訪問系サービス事業所ではスタッフ間の情報共有は難しいもの。ケア中や移動中では電話に出られないケースもあり、メールの場合は即時性にかけ、重要な連絡が埋もれてしまうことも少なくありません。
こういった場合にビジネスチャットが有効です。グループを作って限られたメンバー内だけでメッセージを送ったり、ファイル共有を行うことができるため、情報共有や申し送りがスムーズに行えます。送ったメッセージが既読かどうかも判別できるため、重要な情報の伝達漏れもなくなります。
また、セキュリティやコンプライアンスの面でもビジネスチャットは有用です。たとえば従業員同士が会社の許可を得ず個人の端末を用いて業務連絡をしてしまうケースは少なくありません。一見些細なことにように思えますが、これは厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(※)にも記載されており、ウイルス感染や情報漏えいといった重大なセキュリティリスクの一因となり得ます。
(※)厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」
しかし、この問題も会社が用意したビジネスチャットを統一したルールで運用すれば解消できるでしょう。万一、端末を紛失した場合でも管理者がアカウントを停止すれば、個人情報の流出などのリスクを抑えることができます。
このほかにも人との接触を減らすツールとして活用したいのが、介護スタッフの直行直帰をサポートするクラウド型勤怠管理システムです。訪問系サービスの事業所では、勤務時間の管理をタイムカードやエクセルを使って行っている場合、事務所に一度出勤してから現場に向かったり、退勤のためにわざわざ一度戻ったりと、事務所に出入りする回数が増え、それが接触機会の増加にもつながってしまいます。
クラウド型勤怠管理を導入すれば、タブレットやスマホでどこからでも打刻ができ、タイムカードのために事務所に立ち寄る必要がなくなります。さらに、従業員の勤務状況がリアルタイムでクラウドに蓄積され、給与ソフトとの連携もできるため、月末や月初に集中しがちな管理者の給与関連業務の負担も減らすことができます。
3.コロナ禍ではオンライン面会も一つの手段
次に施設利用者のために、という観点で取り上げたいのが非接触で顔を見ながら会話ができるオンライン面会システムです。新型コロナの感染拡大防止のために、現在多くの介護施設で面会制限が実施されています。状況を鑑みるとやむを得ない対策ですが、利用者にとって家族や知人と会えないという状況は大きなストレスにつながります。
一方、オンライン面会システムを利用すればタブレットやパソコンの画面を通して接触なしで、家族や知人と顔を合わせることができます。親しい方たちとのコミュニケーションは利用者の心の平穏をもたらし、ストレスを軽減してくれるはずです。また、面会に行く立場からも、なるべく外出は避けたい状況下のなかで、自宅にいながら面会ができるので、感染防止にも役立ちます。手持ちのタブレットやパソコン、スマホなどのビデオ通話機能を利用することで簡単に実行でき、特別な機器を準備する手間なども必要ありません。
4.介護施設の事務職をテレワークで在宅勤務に
介護サービスを提供しない事務職であれば、ICTツールの活用で業務をテレワークに移行することができます。限られた職種であってもテレワークを導入できれば、出社する人数も削減でき、従業員同士の接触機会をさらに抑制することが可能です。
テレワークを行うにあたり、最重要課題となるのがセキュリティの確保ですが、たとえばドコモが提供するリモートデスクトップ「Splashtop」であればこの問題は解決できます。リモートデスクトップとは簡単に言えば、自分のタブレットやパソコンに事務所のパソコンの画面を表示して操作ができる仕組みです。
あくまで自分のタブレットやパソコンでは事務所のパソコンの画面を表示しているだけなので、作業したデータは自分の端末ではなく、事務所のパソコンに保存されます。そのため、自分のパソコンを紛失したり、ウイルスに感染したとしても、情報漏洩につながることはありません。また、自宅のパソコンのOSやデバイスをそのまま使用できるため、導入もスムーズです。
これまで挙げてきたさまざまなICTツールは、感染拡大の防止に効果的な人と人との接触機会の軽減につながるものばかりです。タブレットやスマホなど、最小限の設備で実現でき、特別に難しい操作が必要になることもありません。
また、新型コロナウイルスの終息が不透明ななか、国や自治体によるICTツール導入の支援も期待できるかもしれません。令和2年度には、厚生労働省が「介護サービス事業所・施設等における感染症対策支援事業等及び職員に対する慰労金の支給事業」(※)として介護事業者を支援。感染症対策に必要な物品購入などの経費が全額補助の対象となりました。同事業の令和3年度の動向も注視しておくとよいでしょう。
(※)厚生労働省 「『介護サービス事業所・施設等における感染症対策支援事業等及び職員に対する慰労金の支給事業』について」
コロナ禍という未曾有の事態においても、高齢者とその家族の生活を支える介護サービスは必要不可欠な事業です。利用者と従業員の安全を確保しながら事業を継続していくために、ICTツールの導入を検討してみてはいかがでしょうか。