I. 業績の概況

(1) 市場環境および事業基盤の変化

世界経済は、緩やかな回復基調にあるものの、国際政治上の不安要素もあり、先行きは不透明になっています。多くの企業では、ビジネスのデジタルトランスフォーメーション/as a Service化が進展し、ICTの検討/利用主体がIT部門だけでなく事業部門にも拡大しており、ICT市場においても、Software Defined化されたサービス範囲の拡大、海外事業者によるIaaSの寡占化、AIの高度化/開発強化等が進展するなど、市場構造が目まぐるしく変化し、多様かつ熾烈な競争がグローバルレベルで激化している状況にあります。

(2) 経営概況

NTTコミュニケーションズは、このような環境変化を踏まえ、新たな事業ビジョン「ビジョン2020」と新コーポレートスローガン「Transform.Transcend.」を定めました。2016年度は、この新スローガンのもとグローバルシームレスを最大限活用したソリューションモデルの提案を推進するとともに、自動化やプロセス効率化も追求、自らもデジタルトランスフォーメーションにより競争力を強化し、お客さま企業のビジネスプロセス革新と新たなビジネスモデル創出を目指してきました。

具体的には、通信事業者ならではの強みを有するクラウド、データセンター、ネットワーク、アプリケーション、セキュリティ、マネージドICTなどの各種サービスをグローバルレベルで最適に組み合わせた「シームレスICTソリューション」により、グローバルレベルで統一的にマネジメントされたICT環境、低コスト・柔軟・オンデマンドなICT環境、ビジネスを支える安心安全なICT環境を実現し、お客さまの意思決定の迅速化や生産性の向上などのビジネスプロセスの革新や新たなビジネス創出に貢献しました。

加えて、アナリストによるベンダ比較レポートの評価では、グローバルネットワーク事業者としてのトップカテゴリーである「リーダー」のポジションを4年連続で獲得するとともに、アジア/パシフィック地域におけるクラウド事業者評価でも2年連続「リーダー」のポジションを獲得しました。サービスにおいては、グローバルクラウドビジョンに基づきサービス競争力を更に強化しました。各事業分野別の主な取り組みは以下の通りです。

<各事業分野別の取り組み>

○クラウド基盤:

世界11カ国14拠点に基盤を展開する企業向けクラウドサービス「Enterprise Cloud」においては、2016年3月に日本で大幅機能拡充を行い、2016年4月以降、各国へ海外展開を行いました。また、パートナー連携において、2016年10月にミランティス・ジャパン株式会社とOpenStackのマネージドプライベートクラウド提供に向けた協業、2016年11月に株式会社NTTデータ、Pivotalジャパン株式会社、Intel Corporationとクラウドネイティブソリューションの開発・提供に向けた協業、2017年2月にVirtustream, Inc.およびEMCジャパン株式会社と大規模SAPシステムなどに対応する共有型クラウド基盤サービスの開発・販売に向けた協業、2017年3月に日本マイクロソフト株式会社と企業向けのハイブリッドクラウド基盤の共同開発・営業連携に向けた協業に、合意しました。

データセンターサービス「Nexcenter」では、2016年4月に「バージニア アッシュバーン 2(VA2)データセンター」、2016年12月に「東京第9 データセンター」の提供を開始しました。また、2016年12月に「バージニア アッシュバーン 3 (VA3) データセンター」の建設を開始しました。

また、Software Defined技術を活用した「SDx+M」ソリューションにおいては、「Enterprise Cloud」、「Nexcenter」、そして「Amazon Web Services」などを含む複数のクラウドサービス間を、グローバルシームレス・高速・セキュアに接続する「Software-Defined Exchange Service(SD-Exchange)」の提供を2017年3月より開始しました。

○データネットワーク:

高品質・高信頼なVPN「Arcstar Universal One」では、セキュリティオプションサービス「セキュアインターネット接続機能(vUTM)」を2016年10月より提供開始しました。また、セキュアな閉域網上にマルチクラウド環境を構築できるサービス「Arcstar Universal One Multi-Cloud Connect」においては、2016年4月にオンデマンドに即時開通や帯域変更が可能となる機能の強化、2016年6月に英国クラウド基盤への接続、2016年10月に米国クラウド基盤への接続、2016年12月に「Amazon Web Services」の導入・実装・運用を一元的に支援するサポートメニューの提供を開始しました。

インターネット接続サービス「OCN」では、不正なアクセスからお客さまのWebサーバーを守るSaaS型セキュリティサービス「OCN vWAFサービス」を2016年9月より提供開始しました。

高速LTE通信サービス「OCN モバイル ONE」では、2016年7月より無料で接続できるWi-Fiスポットを、2016年9月より通信開始時の速度が向上する「バースト転送機能」を、2016年10月より利用中のスマートフォンの修理・交換などを行う端末補償サービス「あんしん補償」を、2017年2月より大容量かつシェアできる20GB/月コースと30GB/月コースを、提供開始しました。

Software Defined技術を活用した「SDx+M」ソリューションにおいては、複数の回線上でソフトウェア制御によりオーバレイネットワークを柔軟に構築・管理する「Software-Defined Network Service(SD-NS)」の提供を2017年3月より開始しました。

○ボイスコミュニケーション:

ユニファイドコミュニケーションサービス「Arcstar UCaaS」について、当社のグループ会社Arkadin SASが、Microsoftベースのユニファイドコミュニケーションサービスの導入に強みを持つ英国有力プロバイダーApplicable Limitedの買収を2016年9月に完了するなど、大企業向けのサービス展開を拡大させました。

音声サービスにおいては、携帯電話からの通話の利用量が多いお客さまがさらにお得になる、企業向け通話かけ放題サービス「ビジネスモバイル」を2016年10月より提供開始するとともに、BYOD利用時のセキュリティ強化などに活用できる設定変更サイトの提供を2017年2月より開始しました。また、「OCN モバイル ONE」の音声対応SIM利用者向けに提供中の「OCNでんわ」では、2016年8月より何回かけても定額で利用できる「OCNでんわ 5分かけ放題オプション」を、2017年2月より定額でかけられる通話時間が拡大できる「OCNでんわ 10分かけ放題オプション」を、2017年3月よりMVNO向けに格安スマホの通話料金を下げることができる「OCNでんわ」の卸サービスを、提供開始しました。

国際中継サービスにおいては、企業がマーケティングや認証などの用途で個人の携帯電話番号宛に配信するA2P SMS(Application to Personショートメッセージサービス)のうち、国をまたいで送られるものについて、最適な経路で中継し、低遅延および確実な到達を実現する「A2P SMS国際中継サービス」を2016年11月から提供開始しました。

○アプリケーション&コンテンツ:

2016年10月より、マイナンバーカードを使って公的個人認証サービス を利用することができるサービス「MySign」を開始しました。

AI(人工知能)を活用したサービスにおいては、自然な日本語を高い精度で理解し、必要な情報を自ら聞き出すといった“人間らしい対話”ができる「Communication Engine“COTOHA”」を、2016年10月より提供開始しました。また、Webサイトの利用者が入力した質問に対して適切な回答を表示し、疑問を解決できるよう支援する企業向けのAIサービス「Semantic Search Engine “COTOHA Chat & FAQTM”」、AIによる高精度の翻訳機能を提供する「業界特化型AI翻訳プラットフォームサービス」β版を、2017年1月より提供開始しました。

○ソリューション:

総合リスクマネジメントサービス「WideAngle」では、2016年8月にマネージドセキュリティサービス運用基盤に搭載した人工知能を拡充し、サイバー攻撃分析ロジックを大幅強化しました。また、セキュリティインシデント対応メニュー「インシデント対応駆付け保障」と「標的型マルウェア感染端末調査」を2016年10月より提供開始しました。加えて、社内システムへの不正アクセスを特定後、感染した端末の通信を自動遮断するメニュー「プロアクティブ レスポンス」を、2017年2月より提供開始しました。さらに、2016年8月より事業を開始したNTTセキュリティ株式会社と連携し、益々巧妙化/悪質化が予想されるセキュリティ脅威への対策とリスクマネジメントを総合的に支援するサービスの提供に努めました。

Software Defined技術を活用した「SDx+M」ソリューションにおいては、堅牢性と柔軟性を兼ね備えたオフィスLAN環境を構築する「Software-Defined LAN Solution(SD-LANソリューション)」の提供を2016年10月より開始しました。

トータルマネージドICTサービス「Global Management One」では、対象サービスに「SD-NS」「SD-Exchange」「SD-LANソリューション」を2017年3月より加え、お客さまのICT環境全体について、設計・構築から保守・運用、分析までフルライフサイクルサポートをグローバルに実現しました。

○新しいサービス領域など:

IoTのビジネス推進においては、企業のIoTによるビジネスアイデアを素早く形にし、ビジネス変革や生産性向上に貢献するため、キャリアならではのグローバルに展開するネットワーク・クラウド・データセンターなどのアセットを活用し、「Factory」・「Product」・「Vehicle」の各ユースケースに対応したサービス提供と共に、アプリケーションプラットフォーム事業者やデバイス事業者などのパートナー企業との連携も進めました。

SDx技術を活用した「SDx+M」ソリューションにおいては、「Enterprise Cloud」、「Amazon Web Services」、「Microsoft Azure」などのクラウドサービスや、お客さまが構築したオンプレミスシステムを一元的に管理できるプラットフォーム「Cloud Management Platform(CMP)」の機能を2017年3月より拡張し、「SD-NS」「SD-LANソリューション」「SD-Exchange」に対応しました。

<その他の取り組み>

セールスにおいては、Formula 1 レーシングチームMcLaren-Hondaと、3年間のテクノロジー・パートナーシップ契約を締結し、ネットワークやクラウド、IoT、データ収集や解析に係る最新の技術を用いて、Formula 1チームを支えるために最適なパフォーマンスを持つICT基盤の構築に向け、相互協力を開始するなど、全社Go to Marketの視点でお客さま企業のデジタルトランスフォーメーションへの貢献に向けたソリューション提案を促進しました。また、グローバルシームレスサービスを最大限活用したソリューションモデルによる提案強化により、お客さま企業の「既存ビジネスの変革」と「新たなビジネスモデル創出」を支援すること、ターゲット市場に対応した販売チャネルポートフォリオ/ソリューションモデル設定により効率的かつ効果的なセールスをグローバルに展開することに取り組みました。

オペレーションにおいては、競争力の源泉として、デジタル技術を活用し、シンプル化/自動化/標準化を加速させ、サービス複合案件の対応力強化、顧客接点の深化を推進しました。加えて、サービス複合案件に適したデリバリや保守運用のプロセスを構築、標準オペレーションの徹底的な自動化の推進に取り組みました。さらに、アジア域内の保有ケーブル容量の増加と、アジア各国への接続性の強化に向けて、大容量光海底ケーブル「Asia Pacific Gateway」を2016年10月より運用開始するとともに、NTTワールドエンジニアリングマリン株式会社が運用する海底ケーブル敷設船「きずな」を2017年3月に竣工させ、ケーブル敷設・保守力を強化しました。

また、グローバルシームレスなマネジメントを推進するため、NTTコミュニケーションズグループ各社へのグローバル共通のERPシステムの導入を継続して実施しました。さらに、調達においては、調達システムの更改検討を契機に、再販系調達、オフィス用品、少額用品、サプライヤマネジメント等のプロセスの抜本的な合理化を図るとともに、役務調達における標準化を進化させ、DB化、適正チェックフロー定着によるコスト削減と、契約・支払業務のフロースルー化(電子見積/契約/請求)によるプロセスの効率化に取組みました。また、人材においては、若手社員全員にエンジニア業務を経験させるなど、当社のサービスをより高度化するための人材確保・育成に注力しました。

CSR活動については、2016年10月に基本方針の見直しをCSR報告書2016において公表しました。また、環境保護活動については、環境宣言および環境目標2030を2016年11月に策定するとともに、環境保護環境負荷低減を目指し、データセンターや通信ビルにおいて、空調設備の効率化、気流改善の実施、自動空調制御システム導入を拡大しました。

セキュリティにおいては、セキュリティリスク低減に向けた取り組みや、国内外のグループ会社の更なるサイバーセキュリティ対策の強化に向け、グループ各社との連携および支援体制の強化に向けた取り組みを開始しました。

ダイバーシティの観点から、性別・年齢・出身地・国籍・宗教・障がいの有無等を問わず多様な人材が、仕事と生活の調和を図りながら、柔軟で効率的な働き方の実現により活躍できるよう、ICTを活用した生産性の高いワークスタイル改革と、いきいき働くための企業風土づくりを推進しました。またNTTグループにおける「女性管理者倍増計画」宣言に合わせた、女性管理者比率目標値(2020年度8.9%)に向け、女性のマネジメント層創出につながるキャリア形成を継続して支援するとともに、女性社員の採用にも積極的に取り組みました。これらの取り組みの結果、新たに創設された総務省選定「テレワーク先駆者百選」に認定されるとともに、女性活躍推進法に基づく厚生労働大臣認定「えるぼし」の最上位認定を取得しました。

(3)経営成績

NTTコミュニケーションズグループ全体では、営業収益については、対前年比361億円減(▲2.7%)の12,830億円と、4期ぶりの減収となりました。また営業利益は対前年比143億円増 (+12.1%)の1,325億円となりました。

NTTコミュニケーションズ株式会社単体の営業収益について事業分野別にみると、クラウド基盤収入が対前年比20億円増(+2.9%)の720億円、データネットワーク収入は対前年比149億円増(+4.0%)の3,848億円、ソリューション収入は対前年比11億円増(+0.7%)の1,634億円と3つの分野で増収となりました。また、アプリケーション&コンテンツ収入は対前年比9億円減(▲2.6%)の377億円、ボイスコミュニケーション収入は対前年比95億円減(▲3.7%)の2,507億円となりました。以上の結果、営業収益全体としては2期連続の増収となり、対前年比55億円増(+0.6%)の9,238億円となりました。

営業費用については、光コラボのサービス提供に伴って通信設備使用料が対前年比で増加したこともあり、対前年比41億円増(+0.5%)の8,313億円となりました。

これにより、営業利益は対前年比14億円増(+1.5%)の925億円となり9期ぶりの対前年増収増益に、当期純利益は対前年比126億円増(+17.5%)の850億円となりました。