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神田 健司 Kenji Kanda

フォワード・PR

決して饒舌なわけではないが、その言葉の節々からラグビーに対する熱い想いがにじみ出る、神田健司選手。「試合中は、見えなくてなんぼ」と関西弁でPRの役割を繰り返し語り、3番というポジションに深い愛情と誇りとを抱いている。

恵まれた身体を見込まれて、ラグビーを始める

神田 健司

――ラグビーを始めたきっかけを教えてください

中学校まで野球をやっていたので、報徳学園高校でも野球部に入りました。部活動の練習グランドは共用で、先輩がバッティング練習している際に外野の後ろの方にいて他の部活のエリアにボールが転がっていかない様に球拾いをするのが、新入部員の役目でした。そしたらある日、自分の周りを大勢のラグビー部員に囲まれて、「ええ身体しとるな。ラグビーやらんか」と勧誘されたのが始まりでした。

――また凄い勧誘ですね

それからもいろいろと声をかけてもらい、おまけに担任の先生はラグビー部の部長だったし、ラグビー部の監督から授業科目を受けていたりで、文字通り囲まれてしまいました(笑)。でも自分は小さい頃からスポーツが好きで、ラグビーも見ていたので興味もなかったわけではなかったですし、こんなに勧誘されるのは自分が本当に必要とされているんだろうと考えて、5、6月頃ラグビーに入部し直しました。

――野球とラグビー、全く違うスポーツですよね

ラグビーを始めた当初は、身体がきつかったですね。野球とラグビーでは使う筋肉が全く違いますから、毎日のように筋肉痛になっていました。高校からラグビーを始めて細かいことはわからずに無我夢中でプレーしていましたが、それでも周りよりも身体が大きかったのですぐに馴染むようになりました。

――高校から始めて、2年生でレギュラーになりました

自分が成長したという実感はなかったですけど、どうしたら無駄のない動きが出来るのか等、ラグビーを理解し始めたのかなと思っています。1試合で3つも4つもトライを挙げたこともありましたし、2年生の時はラグビーをするのが楽しくて仕方がなかったです。

――初めての高校選手権(第79回 1999年度)は天理(奈良県)に敗れてベスト16になります

素直に言って天理は強かったです。練習試合でも対戦していて相手の手の内を知っていた分、悔しかったですね。それに関西は大阪、京都、奈良の高校が兵庫より頭一つレベルが高くて、自分のいた兵庫の高校は常に打倒3府県のチームでやっていましたから、負けたのは余計に悔しかったです。

――しかし、3年生の時は県予選に出場されていませんよね

3年生の時は、本当に辛い1年でした。春の練習試合で前十字靭帯を断裂してしまい、手術をしました。本格的に復帰するまで半年以上必要で、県予選も出場できませんでした。春の近畿大会では強豪の大工大高に勝っていましたから、自信もついた矢先のアクシデントでした。

――それでも全国大会では1回戦(盛岡工戦)の後半からの出場にまでこぎつけます。

全国大会に出るためにリハビリをがんばって、大会直前にメンバーに入ったんです。試合前、監督に「後半から出場させる」と言われていましたから、限られている時間の中で自分が持っているものを全部出そうと思ってゲームに臨みましたが、敗者としてノーサイドの笛を聞くことになりました。

――そして、明治に進学。決め手は何だったのでしょうか?

明治の、FWで前に進んでいくスタイルが自分の力を試すのにはいいかなと考えました。チームメイトも「東京行けよ」って勧めてくれましたし。

――明治に限らず大学ラグビーは上下関係が厳しいと聞きますが、不安はなかったですか?

自分が入った頃は、一時期に比べると上下関係は少なくなっていたようです。それでも4,5人は夜逃げしていましたが。

試合風景

――そういう環境の中で、辞めたいと考えたことはなかったですか

いや、いつも辞めたいと思っていましたよ。でも、同じ苦しみを持つのが一人じゃなかったし、みんなで励ましあっていたから続けられました。仲間に恵まれていましたね。

――しかし、出場機会はなかなか訪れませんでした

モチベーションは下がりますけど、下のチームでもそれなりに目標がありましたし、決して諦めていたわけではなかったです。ただ、大学の頃の自分はスクラムが安定せず、「スクラム以外は完璧」と監督からも言われていましたので、その克服に時間がかかりました。

――3年生から少しずつ出場機会が増えましたが、なかなか勝てない時期でした

何をしても上手くいかない。そんな時代でした。ただ、一回でも早稲田に勝つことが出来れば、その流れを変えられるとも考えていました。語弊があるかもしれませんが、明治には「どこに負けてもいいから、早稲田には勝て」という言葉があるぐらい、ライバルの伝統校を倒すことには大きな意味があるんです。

――ところが、4年生の最後の早明戦だけスタメン落ちになりましたね

悔しかったですね。どうしてスタメンじゃないんだという怒りもありました。采配はヘッドコーチが決めるもので仕方ないのはわかっていたのですが、早明戦は自分にとってそれだけ重要な一戦でしたから。

――その早明戦に敗れ、大学選手権でも法政に敗れてシーズンが終了しました

志半ばとはこういうことを言うのでしょう。結局このシーズンは、強いチームに勝てないまま弱いチームに勝って喜んでいただけなのかなとも思いますね。

――そして、大学卒業後は近鉄に

関西のチーム(近鉄は大阪)で実家に近かったことと、ラグビーをやれる環境がしっかりしていたことが入団を決めた理由です。チームがラグビー場(近鉄花園ラグビー場)を保有しているメリットは非常に大きいと感じました。

――具体的にはどんな点でしょう?

ホームチームとして多くの試合が出来る点ですよね。普段自分たちが慣れ親しんでいる場所ですからリラックスして試合に臨めますし、もちろん観客も自分たちを応援してくれる声が圧倒的ですから、非常に有利な状況でゲームを行えます。

大きな舞台での経験がもっと必要

大きな舞台での経験がもっと必要

――その近鉄を退団し、NTT東日本に入団した経緯を教えてください

なかなか試合に出場できなかったこともあって、スパッとラグビーを辞めて就職活動をしようと考えていたんです。でも自分が退団するのを知って、明治の先輩でもあり元NTTの岡本さん(岡本淳平  当時近鉄)が、何のアテもないことを心配して、自分の目の前でNTTのラグビー関係者に電話をかけてくれました。そこから話がトントン拍子に進み、入団が決まりました。近鉄を退団する前に、先にNTTに入団していた明治時代の同僚の安藤(安藤隆紘)から、「PRを探してる」と相談されていたんですが、まさか自分が入団するとは思ってもいませんでした(笑)。

――入団されて、印象はいかがでしたか?

来た時は、「本当にこれで大丈夫なのかな」と思いました。練習の雰囲気も厳しさが無くて、声も出ていないし、ミスしても笑っている選手もいて、遊びでやっているのかなという感じで不安でした。

――それでも、昨シーズンも3位でした

今年と一緒で最後に3連敗をしたんですけど、個人的には昨年の方が(トップリーグに)近かったと思います。個人的な能力は今年の方が上だと思いますが、もし対戦したら昨年のチームが勝つんじゃないかと。昨年は加藤キャプテン(加藤昭仁)がケガもなく試合に出場して、言葉よりもプレーで引っ張ってチームの精神的支柱になっていたのですが、今年のチームはそういった柱となるものがなかったのかなと思います。

――今季からシンボルチームになって、変わったことは?

どういう環境であっても、選手はラグビーに対する気持ちを変えてはいけないと思います。今シーズンの結果を見ても、環境が良くなったからといって勝てるわけでもなく、良くなった環境を選手がどう活かすかが一番大事なんだと思います。自分をはじめ、環境に甘えてしまい、結果を出す気持ちがチームに足りなかったと感じています。

――それに対して後悔はありますか?

もっと選手から要望を出しておけばよかったというのはあります。今は環境を与えられているだけだと思うんですよ。勝つためにどういう準備をして欲しいとか、どういうチームにしたいとか、スタートしたばかりのチームですからそういう声が選手からもっとあってもよかったのかなと思います。

――今シーズン3位に終わってしまった成績について

率直に言って、3位で終わるようなチームではなかったと思います。セコム戦、横河戦はどちらが勝っても負けてもおかしくない試合でしたが、前後半開始の10分で相手のラグビーになってしまったのが勝敗の分かれ目で、常に追いかける展開になってしまいました。最初からもっと強く当たって前に出るプレーを心がけていれば、違った結果になっていたと思います。それと他の選手も口にしていますが、目に見える課題とすればセットプレーですね。練習と違って試合は相手があり、予期せぬトラブルやミスは必ず大なり小なり起こります。セットプレーでミスをした後の決まり事が守れず、試合中にゲーム修正できなかったことが、課題として残りました。

――来シーズンに向けて

やっぱり経験ですね。選手個々では、日本一になった選手やトップリーグでやっていた選手もいます。ですが、チームとして入替戦のような大きな舞台では勝っていないという事実があります。それを乗り越えるためには、絶対に勝たなければならない試合の経験を増やさないといけないと思います。練習から強いチームと試合をすることで、強いプレッシャーの中でもミスを減らしたり、今までできなかったプレーを少しずつ身につけていくこと。それを積み重ねていけばトップリーグに近づくのではないかと考えています。

――最後に、神田選手にとってラグビーの魅力とは?

ラグビーというのは、それぞれ皆個性や特徴がバラバラな15人の選手が、チームとして一つの目標に向かってプレーするのが面白いスポーツだと思っています。15人のうち誰一人が欠けてもトライに結びつきません。誰にでもそれぞれ違った役割があるところが面白さですね。また自分のポジションであるPRに関していえば、PRは「見えなくて、なんぼ」だと考えています。見えないところでPRが身体を張ってがんばり、それを他の選手がトライに結びつけてくれることが、PRの醍醐味ですね。