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ネクスト・メディアとは何か 〜ネット&ライフスタイルの新時代〜 従来のメディアやビジネスに影響を与えながら、日々成長と変化を続けていくネットの世界。その現状と将来の展望を紐解いていきます。 powered by WIRED VISION

テーマ2 次世代ネットワークとサービスを考える
第1回
デジタル・コンテンツの流通形態が変わる


これまでの4回では、Web2.0のWeb環境でインターネット・ユーザーの振る舞いやコミュニケーションがどう変わってきたか、ということを中心に考えてきました。今回からは、ネットワーク・サービスの変化とそれによって何が起こりつつあるのか、ということを考えてみたいと思います。まずは、動画共有サイトや音楽配信サイトを例にデジタル・コンテンツの流通という観点から現状を整理したいと思います。


グレーな状態が日常的なYouTube

動画共有サイトの「YouTube」は、皆さんもご覧になったことがあると思います。このYouTubeをとりまくニュースや事件、訴訟や出来事などを見ていくと、ブロードバンド時代のコンテンツ流通の縮図を見る思いがします。

YouTubeのさまざまな機能の中でも、ユーザーにとって特に使いやすいと受け入れられたのは、動画のフォーマットを問わないという点でした。デジタルビデオカメラで撮影した映像でも、どこかのサイトからダウンロードした動画ファイルでも、携帯電話で撮影した動画でも、ほとんどの動画を簡単にアップロードすることができ、それがYouTubeのフォーマットに変換されて、誰にでもPCのブラウザで見られるようになります。

アップロードの容易さから、YouTubeには多くのユーザーから動画が投稿されました。その中には、著作権の観点からは違法と判断されるようなものも多数含まれています。

YouTube側は、著作権者から申し出があればその動画を削除する、という運営方針ですが、これに対しては、違法な投稿を見つける手間(実際には、これが一番大変ですね)について著作権を持つ側に転嫁しているのではないか、と非難する考え方もあります。逆に、YouTube側で自発的に問題のある投稿の削除を開始すると、これはこれで違法かどうかの解釈を完全にYouTubeに委ねることにもなってしまいます。

実際には、グレーな状態での運営が続いていると言って良いと思います。例えば、人気のテレビ番組が投稿されたとします。しかし、削除してもまた別の誰かが投稿する、ということの繰り返しになってしまうと、結局、いつまでもそのテレビ番組がYouTubeには存在する、ということになります。

70年代や80年代、あるいはもっと古いロックやジャズの名演なども、削除と投稿が繰り返されており、かつてはDVDやビデオを買わないと見られなかった「動く伝説のミュージシャン」が、クオリティはともかくいつでも見られるようになっています。

良い悪いという判断は別にあるとして、現実にはこのような状態が日常的になってきています。このあたりについて、実際にコンテンツを作る立場の人々はどのように考えているのでしょうか。

もちろん、ちょっとWebを検索してみただけでも、数多くの訴訟や事件、あるいはテレビ局などのコンテンツホルダー(著作権者)とYouTubeの提携のニュースなどを見つけることができます。それらには、多様な立場や考え方が垣間見えます。

中には、「自分が好きなアーティストの作品を『素晴らしいからぜひ見てよ』とネットで公開した、というファンとしての行為を一方的に悪者扱いして良いものなのか、と疑問に思っている」という意見もあります。

これには、エンドユーザーを大事にするという視点が感じられます。もちろん、目に余る違法投稿は削除することもあるでしょうし、それでも、現実問題としてはすべてを見つけ出せるわけではないし、その作業も追いつかないでしょう。

しかし、コンテンツに対する圧倒的な自信があれば、単純に著作権だけを主張するのではなく、コンテンツはエンドユーザーが見てくれるからこそ商売になる、というビジネスの感覚が持てるようになる、という一つの例ではないかと思います。

CDを超える次のオーディオはネット配信

動画だけではなく音の世界でも、コンテンツ流通は大きく変化しています。アップルのiTunes Music Storeはその典型的な例でしょう。ユーザーはCDというパッケージメディア(物理的な記録媒体に情報を蓄積し、それを店頭などで手に取って買えるような形で流通させているメディア。レコード、CD、DVDなどが典型例)をあまり買わなくなりました。

さらに、英国の高級オーディオ・ブランドのリン(http://www.linn.co.uk/)のように、CDのクオリティを超える超高音質の音楽をネットでダウンロード販売し、その受信・再生専用のオーディオ機器を発売する、といった例も出てきました。「Linn Records」というそのダウンロード・サイトでは、エンコード(符号化)の方式を複数選べるだけでなく、同じ方式でも音質のグレードを何段階か設定しています。同じ楽曲でも、音質によって価格が異なっています。

音質が超高音質になると、ファイル容量が大きくなります。例えば、オーケストラの50分程度の演奏(CDは既にデジタル化されているので、ここではアナログのLPレコードの両面相当の録音時間を想定しています)であれば、数ギガバイトになります。記録メディアとしては数百メガバイトのCDでは不足ですし、数ギガバイトのDVDでも余裕があるとはいえません。これは映像に関しても同様で、HD(高精細)化が進むということは、データ量が膨大になることを意味します。

こうなってくると、パッケージメディアとしてディスクに記録するというよりは、ブロードバンド環境でのネット配信、ダウンロードが、デジタル・コンテンツをユーザーに届けるための最も現実的な解になると考えられています。

これまでは、ネットワークの帯域が細い、受ける側(PCやMP3再生機器など)の容量が足りないなどの理由から、ネット向けのコンテンツはクオリティを落としたり圧縮したりしてファイル・サイズを小さくしたものが主流でした。オーディオのMP3やYouTubeのビデオ品質などがその典型ですね。

しかし、ブロードバンド化と端末機器の記憶装置の低価格化・大容量化によって、ネット配信とダウンロードでデータ容量の制約を受けずにコンテンツを配信できるようになってきています。圧縮などしていない最高品質の音源はネットにある、という状況が近い将来に現実になろうとしています。

ネット配信でのDRM(デジタル著作権管理)はこれからのテーマ

映像や音の世界で、ネット配信やダウンロードが当たり前になってくると、やはり著作権とDRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)の問題を避けて通るわけにはいきません。ディスクに記録したパッケージメディアでは容易だったコピーの制限や価格設定、流通経路の管理などが、リアルなモノとしての流通のないネット配信では工夫が必要になります。

そして、著作権や権利処理を考えるときに、ネットの仕組みの中でのバリエーションが出てきていることにも注目しておくべきだと思います。代表的なものとして「クリエイティブ・コモンズ」が挙げられます。

クリエイティブ・コモンズは、米スタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授が中心になって提唱している再利用やライセンスについての考え方で、コピーしたり流用したりすることをどの範囲まで認めるか、ということについて著作者が細かく指定できるものです。

最も利用条件の厳しいライセンス形態は「Copyright」という考え方で、利用できる人や組織を制限してしまいます。反対に最も利用しやすいものは「Public Domain」で、これは誰もが自由に利用することができる方式です。クリエイティブ・コモンズは、これらの中間領域のライセンス形態を規定しようというものです(図を参照)。

クリエイティブ・コモンズ図

クリエイティブ・コモンズでは、
1)作り手の名前を適切に表示する
2)非営利の利用に限る
3)改変しない
4)作り手と同じ条件でのライセンス
という4種類の条件を設定しており、これを組み合わせることで、前述の中間領域のライセンス形態を決められます。さらに、音楽のサンプリング(引用)などについても、利用条件の整備が進んでおり、さまざまなデジタル・コンテンツの利用形態を規定できるようにしようとしています。

著作権と一言で語ってしまうと、それは誰の意向なのか、誰の何を守るものなのか、ということが曖昧になりがちです。コンテンツを作り出すクリエイターやアーティストの意向や権利を最も重視すべきであることは分かっているのだけれど、音楽にせよテレビにせよ、あまりにビジネスの規模が大きくなってしまって、クリエイターやアーティストよりも、彼らの作品でビジネスをしている組織の論理が優先されるようになっているケースが多い、ということは言えると思います。

著作権を持っている人と、それを使ってビジネスをする側との間での、ビジネスの枠組みがまだまだ十分ではないことも、こういったことの要因の一つですが、クリエイティブ・コモンズのように、著作者の意向を細かく反映させたコンテンツをシステマティックに配信するというやり方は、その問題の解決のための一つの方策となります。

次回は、今回整理したような状況を利用して、アーティストなどが新しく始めている取り組みについて考えたいと思います。

ワイアード・ビジョン 編集委員 田邊俊雅


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