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独立行政法人 防災科学技術研究所
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遠隔地で発生した地震を、大きな揺れが来る前に知らせる気象庁の「緊急地震速報」の一般提供が、2007年10月1日より開始された。世界でも有数の地震頻発地域である日本において、地震防災・減災への有効性が大いに期待されている。
緊急地震速報は、地震予知ではなく、すでに発生している地震について、大きな揺れが到達する時間を報知できることに意義がある。そのため、緊急地震速報の実用化には、大きな揺れが発生する前に生じる初期微動の段階で、地震のデータを瞬時に収集・解析し、その情報を地震波よりも速い速度で伝送することができる地震観測システムが必要だった。そのシステムに利用されているのが、すでに全国に地震観測網を整備していた独立行政法人 防災科学技術研究所(以下、防災科研)が運用する、高感度地震観測網「Hi-net」だった。
しかし、従来のHi-netでは、観測データを収集するネットワークで伝送遅延やパケットロスによる精度低下が生じており、緊急地震速報に情報配信するには改善が必要だった。そこで、文部科学省から委託を受けた防災科研は、平成15年度より5カ年計画で「高度即時的地震情報伝達網実用化プロジェクト(経済活性化のためのプロジェクト〜リーディングプロジェクト〜の一環)」において、気象庁などと協力して緊急地震速報の実用化に取り組むとともに、Hi-netデータ収集系における新たな開発を行った。
防災科研のHi-netは、1995年に発生した阪神・淡路大震災を契機に、地震調査観測の高度化を目指して整備が始められた地震観測網だ。通常は100メートル以上、自動車や工場などの人為的ノイズの多い都心部などでは2,000メートル以上もの深い井戸の底に高感度の地震計を設置して、その観測データをネットワークで、ほぼリアルタイムに研究所へ伝送する仕組みだ。
Hi-netの観測施設は、当初38カ所が設置され、毎年100〜200カ所のペースで規模を拡大し、現在は約800カ所に達しており、20〜30キロメートル間隔の高い密度で全国をカバーしている。
Hi-netが整備される以前の観測施設では、1.5以上のマグニチュードの地震でなければ検知できなかったのに対して、Hi-net整備後は、マグニチュード0.9までの地震が検知できるようになり、震源決定できる地震の個数は7倍へと飛躍的に向上した。しかし、観測網の規模拡大と観測データの精度向上に伴い、Hi-netにおける課題が顕著化していった。

従来の課題について、防災科研 地震研究部副部長 兼 地震観測データセンター長の小原一成氏は、「地震計の高性能化と、観測データにGPSで取得した時刻情報を付加する方式を採用したことで、データの時刻精度が大幅に向上しました。同時に、観測施設が400〜500カ所増加したことで、膨大な観測データの一括処理が可能となり、信頼性の高い研究基盤が形成されました。しかしそれと同時に、データサイズと量の肥大化による通信の輻輳が激しくなったことで、伝送の遅延やパケットロスによる観測データの損失が発生するようになり、皮肉なことに観測システムとしての質が低下してしまいました」と説明する。
そもそも、当初のHi-netのネットワークでは、経済性を重視して若干のデータ通信遅延や損失を許容した設計となっていた。しかし、緊急地震速報に情報を配信するには、ネットワークの高速化と伝送品質の向上とともに、観測施設の増加に伴うデータ量の増加に対応できる帯域の拡大も、Hi-netのネットワークに求められた。
新しいネットワークへの要件について小原氏は、「緊急地震速報の実用化には、Hi-netの伝送遅延を1秒以下に、観測データの伝送品質を100%に近づけることが目標でした」と説明する。さらに、「緊急地震速報は、社会の安全に貢献する重要な仕組みですから、決して止まらない信頼性も実現しなければなりません。それには、ネットワークだけではなく、Hi-netと連携して稼働する膨大なプログラムの全てを、24時間365日体制で運用・監視しなければなりません」と続ける。しかも、これらの要件を高い経済性で実現することも求められた。
そして、これらの課題の解決に防災科研が採用したのが、従来からHi-netにネットワークを提供していたNTTコミュニケーションズの高度地震データ伝送サービス「EarthLAN」だった。EarthLANは、「高度即時的地震情報伝達網実用化プロジェクト」において開発された仕組みをベースに、NTTコミュニケーションズがあらためて独自に商用化したもので、ネットワークの提供だけではなく、観測データの集積と蓄積、そして配信までのアプリケーションを含めたプラットフォームを、24時間365日体制の運用・監視サービスとともに、信頼性の高いデータセンターでサービス提供するアウトソーシングサービスだ。


EarthLANでは、全国約800カ所の観測施設をつなぐネットワークにArcstar IP-VPN フレームリレーアクセスを用いて、経済性への要求に応えた。同時に、トラフィックの状態に応じてパケットの送信を調整し、パケットロスが生じてもエラー訂正する機能を開発・提供して、収集する観測データの精度と信頼性への要求も満たした。
配信ネットワークには、Arcstar IP-VPNに光アクセスを組み合わせた「Arcstar IP-VPNイーサタイプ」で広帯域を確保し、地震波よりも速い配信を可能とした。そして、これら全てのネットワークを二重化し、ネットワークとシステムを24時間365日体制で運用・監視することで、決して止まらないレベルの信頼性を実現している。
EarthLANについて小原氏は、「EarthLANは、伝送遅延は1秒以内という目標値を大きく下回る、わずか500ミリ秒まで高速化できました。伝送品質は99.999998%を達成し、観測データを確実に伝送できるようになりました。そして、コンピュータの計算誤差を小さくする仕組みなどと合わせて、瞬時の震源位置決定や精度の高い震度推定などが可能となり、緊急地震速報の早期実用化につながりました。しかも、これらの成果が、従来コストのままで得られたことも大きな成果です」と評価する。
EarthLANの導入後、気象庁が運用する観測網「ナウキャスト地震情報」とHi-netを組み合わせ、合計1,000カ所の観測施設を擁して緊急地震速報の試験運用を、2006年8月1日より開始した。そして、2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震では、先行導入した長野県の半導体工場や松本市役所、東京都や神奈川県の病院や私鉄などで、その有効性が実証された。
このHi-netは、これまでに数々の成果を創出している。例えば、巨大地震の震源域に隣接する場所で生じる「スロー震源群」の発見にも成功している。この一連の研究成果のうち、2つの論文が米科学誌「サイエンス」に掲載され、巨大地震の発生メカニズム解明につながる現象として、世界からも注目を集めている。EarthLANによって進化したHi-netは、データ処理の即時性が加わり、更なる飛躍が期待される。
小原氏は、「現在の研究成果では、地震を正確に予知することは不可能です。しかし、我々がHi-netで得たデータを、1秒たりとも欠かすことなく蓄積し、研究を重ね続けることで、100年後の子孫たちが地震予知を可能にしてくれるかもしれません。そのためにも、地震観測データの正確な収集と蓄積には、大きな意義と使命があるのです」と未来への期待を語る。
そして、「全ての観測施設を光ファイバーでつないで観測データの収集ネットワークを広帯域化すれば、各施設に複数の地震計を設置して多角的な観測データを収集することが可能となります。そうすれば、新しい研究が実現でき、画期的な成果が得られるかもしれません」と意気込みを語る。
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