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牧野二郎弁護士コラム 内部統制事始め
Vol.14 人が移動する、仕組みづくり
「技術移転」は容易ではない

先日とある企業の方の講演を聞きました。そこで素晴らしいヒントをいただきました。 技術を開花させる方法についての議論なのですが、あらゆるところで使えそうなポイントなので、ちょっとご紹介します。

企業では開発者が次々と新しい技術を開発しているわけですが、それが実用化して、開花するまでには様々な作業と、そして時間がかかります。多くの技術は使うことができずに、賞味期限が切れてしまいます。使える技術も沢山あるのですが、それをどのようにビジネス化するか、ここに問題があるわけです。「技術移転」が求められている時代とはいえ、残念なことに技術はそう簡単に移転などしません。まして、特許化された技術が、転々流通してゆくほど単純なものではないのです。

「マン・トランスポート」が技術移転には有効

どのように技術を活かして、ビジネスに結びつけるか、この講演会では、ここにヒントがありました。そのヒントとは、「マン・トランスポート」です。すなわち技術を移転させるのではなく、技術とともに技術者も一緒に移転させる、という発想です。この講演者の会社では、それを導入して、活かしているというのです。この発想は少し前から言われていましたが、これが実用化され、活用されているという話に、興味を引かれました。

では、どうして人を移動させるか、というと、技術の特性にポイントがあるのです。技術開発の中では様々な実験や変更が繰り返されています。無数の失敗という貴重なデータもあります。また、その他にも様々なことが求められるでしょう。そうした情報を基礎にしてひとまず形を成した技術ですが、その実態はというと、技術者の頭の中で大きく展開されていて、とても紙の上に表現できるほど単純ではないです。空間志向があり、より高度な経験と勘が背景にあり、その中でダイナミックに構成されているものなのです。紙上で単純化し、平板化した技術仕様をいくら持ち込んだからといって、それがすぐにビジネスに展開できるわけもなく、両者の間には深い谷があります。これを克服するのが「マン・トランスポート」です。この方法だと、開発技術者が頭に詰め込んだ無数の経験や勘を持ったまま移動し、そのままビジネスの専門家チームと共同して開発を進めることが可能になるわけです。

実はこうしたビジネスの進め方は様々な場面でも実施されています。スピードが求められる情報系の世界では、新しい開発を他の企業が理解するまでの時間を惜しんで、開発者、ときには開発チームを丸ごと移転して、出向などの方法で対応することが行われています。

企業を超える難しさ

こうして技術を切り離さず、開発者ごと移動させて次のステップ、ビジネス化に進むというのは、大きな企業の中であれば特段の障害は無いのかもしれません。内部での人事異動と同様に処理できるでしょう。しかし、企業を超えて、あるいは産学の間で行うことは可能なのでしょうか。

最近では大学相互で、研究者の移動が活発になり、研究成果の移動が問題となっています。それに伴い、新しいガイドラインができてきて、研究成果が研究者と一緒に移動することも認めるようになってきました。大学間でも「マン・トランスポート」が始まったといっていいでしょう。

では、企業相互ではどうでしょうか。そこには企業間格差という問題もあります。また、有能な技術者が抜けてしまうと企業活動が止まってしまう危険もあります。そんなときは、パートタイムの「マン・トランスポート」が有効となるでしょう。開発元企業と、ビジネス化推進企業を行ったり来たりする、ということです。情報の保持に関する信頼関係があれば十分活用することができるでしょう。

技術の本当の保護とは

牧野二郎 こうして見てきますと、技術というものの本当に大切な部分は、言葉にならない経験であったり、失敗であったり、空間的なイマジネーションだったりするようです。そうであれば、守るべき技術は紙に書いたものではなく、開発技術者の頭の中の概念であり、コラボレーションで生まれてくる考えであるのでしょう。

これまでの法制度は紙に書いたものを守ってきましたが、これからはこうしたコラボレーションを守る体制、そこで生まれる概念を守る体制が必要となってくるでしょう。