
アクシデントになる、一歩手前の事態をインシデントと呼びます。インシデントは事故になっていないので、責任問題や法的問題にはなりません。そのためあまり問題にされていなかったのですが、予防的な視点からは、インシデント、すなわち「予兆」の把握が重要なポイントとなります。
インシデントは、アクシデントの予兆、前触れです。2度あることは3度ある、といわれるように、同じ事故は何度も発生するものです。また、事故の前には、その事故と同様の事態が発生していることも多く、幸運にも事故に至らなかったとしても、本質的な事故体質、事故発生のメカニズムが除去されていないため、再度同じ事態が起き、結果として運が悪ければ重大な問題を発生させてしまうのです。従って、危険の予兆として、インシデントをしっかりと把握すること、「インシデントの見える化」が重要なのです。
インシデントを意識し、見えるようにするために考案されたものにインシデントレポート制度があります。危険性の高い業種では、現場にインシデントレポート制度が導入されています。航空業界や医療現場などでは、小さなミスが大きな事故に繋がるため、ミスの発生しない体制を作りの一つとして実施されています。結果としては結びつかなかったものの、事故に繋がる可能性のあったミスや、業務手順の問題点などを明らかにしてゆくことで、ミスの再発を少しでも減らす、という努力がなされているのです。
このように危険性の高い業種、分野では、インシデントレポート制度が活用されているのですが、こうした制度は手間も暇もかかります。加えて、徹底するには大きな費用も必要となります。それでも危険の程度や発生率などを考慮すれば、それだけの手間や費用をかけること自体が正当とされ、推進されるべきであるといえます。また、危険業種であれば、インシデント自体が頻繁に発生するため、インシデントを理解すること、リスク回避の効果を確認することも不可能ではありません。業務を改善することでインシデントの繰り返しがなくなったというような形で、確認する手法もあるのです。
ところが、そうした危険性が認識されにくい一般の業種では、インシデントレポート制度といったものは、いまだ根付いていないようです。危険業種ではないため、危険性は比較的に小さく、そのため危険性の認識も深くはなっていません。
通常企業では、仮にリスクが現実のものとなり、トラブル、事故が起きても、個人の責任や相手の責任にされて、簡易に処理されてしまうのがほとんどです。小規模な事業であれば、危険が現実となる頻度そのものが低く、会社としての蓄積はされないのですが、事故を経験した者は個人的に経験値を蓄積し、経験的にリスク回避を模索するのです。本当の理由は分からないが、ある手順を踏めばトラブルは少ない、といったような職場の知恵によってリスクを回避していることもあります。
それでは、危険業種ではない一般業種でのインシデントの管理は如何にあるべきでしょうか。ここでは二つの方法を参考にご提案したいと思います。
一つは同業者相互でインシデントの認識を深め、相互に検討する仕組みを作る方法。大量観察が可能となり、かつ、経験が普遍化されて、共有できるという面があります。業界から、広く意見や経験を求め、アンケートなどを実施することで、インシデントの把握が可能となるはずです。
今一つは自社内伝承システムの構築です。リスクを回避した経験を、経験者自身が普遍化し、法則化して、社内に蓄積する仕組みを作ることです。責任者は多く、こうした経験を積んできているはずです。この場合、経験者がそうした経験を伝承することが重要な職務であるとの認識を持ち、自主的に経験を蓄積するような仕組みにすることが必要となります。リスク管理の第一歩、予防的対策として、それぞれの企業に合った形でインシデントの管理をすすめていきましょう。