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最先端のICTトレンドを深く理解する ICTトレンドゼミ〜プロフェッショナルに聞く〜

2011年6月1日公開

ICTトレンドゼミ
ICT環境のリスク対策と今後の課題(前編)
福田悦朋氏

2.ICT環境を所有するリスクとその対策

−−今後計画停電は回避される可能性が高くなっていますが、一方で突発的な停電などへの備えは依然として重要であると考えます。そうした中で企業にはどういった変化が生じているとお考えでしょうか。

 確かに電力消費量が増える夏場に、突然停電が起きる可能性はゼロではないでしょう。

 また突発的な停電は今回の震災や夏場の電力需要の問題とは関係なく、どの地域でもどのタイミングでも起こりうるものです。要するに、これまでは東京電力を含む日本の電力会社が、きわめて品質の高い安定した電力供給を行ってきたので、その辺りのリスクを意識する必要がなかっただけのことなのです。

 そうしたことから、ICT設備の停電対策についてあまり意識してこなかった企業もあるようですが、今回の事態でどの企業も「電力会社の給電能力に絶対的な信頼を置くのは危険だ」と考えるようになったはずです。その結果、電力リスクに対する自己防衛の仕組みを整えようとする企業が増えるのではないでしょうか。

 実際、震災後に関東圏(50Hz帯のエリア)の電力不安が顕在化した直後から、60Hz帯のエリア、特に関西圏へとICT環境を移行させようとする企業の動きが活発化しているようです。

 ちなみに、現時点(2011年5月12日現在)では、東京電力管内における夏場の電力不足に向けて政府から15%の電力削減目標が打ち出されました。

 オフィスワークなど平均的な事業活動の場合、ICT環境で消費している電力の割合は全体の10%程度と言われています。クライアントPCについては、本体やディスプレイの電源をこまめに切る、あるいはデスクトップPCを消費電力の少ないノートPCにリプレースするといった方法で節電することができるでしょう。自宅でも作業できる、リモートワーク環境の整備も有効だと思います。

 また、アウトソーシング・サービスを巧みに活用することで、自社施設の省電力化や電力リスクを回避したり、ICTサービスの継続性を高めたりすることもできるはずです。

−−アウトソーシング・サービスの活用とは、クラウドサービスの活用などを意味するのでしょうか。

 クラウドに限らず、ICT環境におけるアウトソーシングはこれから加速するはずです。

 恐らく、今回の震災を契機に多くの企業がICTインフラを自前の施設で抱えること、または一極集中の形で保持することの危うさを痛感したはずです。

 しかも日本の場合、どの地域にも地震リスクが内在しています。電力供給にかかわるリスクも念頭に置かなければならず、さらに防災という観点から自社の施設で働くスタッフの安全性もしっかりと確保せねばなりません。

 これらのリスクを一企業がすべて背負うというのは、かなり大変なことです。企業によってはセキュリティポリシーなどの観点から、自社のシステムはすべて自社で管理/運用しなければならないケースもありますが、大半の企業は決してそうではないはずです。となれば、リスクを軽減するためにアウトソースするのは自然な流れですし、合理的な考え方と言えるわけです。

 そうした考え方の延長線上にクラウドの活用という選択肢があります。もちろんクラウドサービスを支えるデータセンターの設備が十分でなければ、リスクの分散化にはなりえません。

 今回の震災で津波による壊滅的な打撃を受けた地域以外のデータセンターは、仙台市内のデータセンターも含めてサービスの継続性を維持したようです。加えて、インターネットにしても、クラウドのサービスにしても、今回の震災によって災害に対する強さを改めて証明してみせました。その結果として、データセンターやクラウドに対する信頼感が以前にも増して高まったと言えるのです。

 他方、ユーザー企業同士が標準のICTプラットフォームを通じて、人的リソースも含めたリソースの共有化を図ろうという動きもあります。これはある意味で、プライベートクラウド・モデルの発展形とも言えるものです。

 プライベートクラウドでは、仮想化されたプラットフォームを通じて企業グループ内で共通に使うサービスをシェアするという考え方がありますが、そうしたリソース共有のスキームを社外にも広げていくというわけです。

 今回の震災時には、被災した企業の製造工程を他の企業が代行する、あるいは他社の事業継続のために生産ラインを融通するといった横連携が見られたようです。これと同様に、標準プラットフォームを軸にした企業間の横連携が活発化し、緊急時にICT環境におけるリソースを融通し合うといった流れが形成される可能性があるというわけです。

 ICTの運用管理が内包するリスクは、ほとんどが事業の継続性にかかわる重大なものであり、しかも自然災害やセキュリティなどリスクは多岐に渡っています。このため、リスクを1社で抱え込まず、外部の信頼できる事業者へ振り分けたり、ユーザー企業同士で共有したりするというのは、それぞれの企業にとってメリットの大きいことだと言えるでしょう。

 その意味でも、ビジネスの差別化とは直接関係のないICTの共有化やアウトソーシング、もしくはクラウド化は今後ますます活発化するでしょうし、それは事業継続性を強化するという意味でも有効ではないかと考えます。