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荒俣宏のITコラム
第5回 風とIT
2003年04月14日
 わたしの親戚に、日本カイトフォトグラフィー協会の会長をつとめる人がいる。室岡克孝さんといい、母方のいとこだ。

 室岡さんは二十五年ほど前に、カイトフォトグラフィーという新しい写真術を発明した。飛行機やヘリコプターが進入できない高度二百メートル以下の空間から、ちょうど鳥の目になったように建物や遺跡や地形を眺められたら、さぞやおもしろいだろう。しかし、その高さへは人間が立ち入れないのだ。

 そこで室岡さんは凧(カイト)に思いあたった。当時パラフォイル・カイトやデルタウィング・カイトなど航空力学から生まれた強力な折型凧が発表されたときにあたっており、人を吊り上げられる凧も誕生した。これなら、二キロか三キロのカメラも上空に吊り上げられる。ただし問題は、空中のカメラのシャッターをどうやって切るかだ。結局、室岡さんが成功したのは、ラジコンを使う方法だったが、あとで、百年前にフランスでカイトフォトグラフィーを成功させた先人がいた事実を、知った。当時はラジコンなんか、ない。どうやってシャッターを切ったのかと推理を巡らせた結果、一分に一センチの割で進んでいく銃の火縄を利用したのではないか、と思いついた。自分で実験したら、成功した。あとでアルチュール・パチュが用いたのも火縄だったことが分かった。

 室岡さんは二十五年のあいだにさまざまなアイデアを投入し、カイトフォトグラフィーを発展させた。現在は、なんと、CCDカメラの付いた携帯電話を凧に吊るし、凧からの眺めを「中継」する方法に挑戦中だ。これで凧糸を光ケーブルに変えられれば、情報のやりとりもできるようになる。まさに、小さな自前の人工衛星――マイ人工衛星を打ち上げたのと同じ機能を果たせるようになるだろう。

 先日、三鷹で凧を上げてもらった。コンパクトに畳まれたデルタカイトを組み立て、あっという間に空へ上げたあと、ラジコンでカメラのシャッターを切ってもらった。シンプルで、しかも高度な発明だった。

荒俣 宏
1947年、東京都生まれ、慶応大学法学部卒業。
コンピュータ・プログラマーを経て執筆活動に入る。代表作である「帝都物語」シリーズは350万部のベストセラーとなり、87年に日本SF大賞を受賞。知識と興味は幅広く、博物学からITまで、古今東西の事象に対する博覧強記ぶりで知られる。2000年に行なわれた「インパク」では、総合案内などを担当する編集長をつとめた。
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2003年04月14日 第5回凧とIT