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荒俣宏のITコラム
第4回 船上からEメール
2003年03月31日

 いま、日本の豪華客船「飛鳥」から、この原稿を書き送っている。 飛鳥はアジア・クルーズの途上にあり、つい先日わたしはバリ島から乗船した。昔は、船旅というと日本の仕事の現場からは完全に切り離されるので、リタイアしたご夫婦とか、会社勤めでない人とかが、お客の主力であった。そのかわり、俗世とは一切関係を断って、純粋に旅に熱中することができた。

 ところが、数年前から船の旅も様変わりしはじめた。通常は世界一周を百日で完了する飛鳥で、毎日自由にEメールが使えるようになったのだ。

 飛鳥の船内はほとんどのお客さんが日本人でしめられているので、和食がおいしい。氷あずきも大福も食べられる。大西洋のどまん中で鮨(すし)も食べられるのだが、一つだけ厄介なのは、日本との交信だった。しかしEメールが使えることになってから、どこにいても、東京に連絡できるようになったのである。おじいちゃん、おばあちゃんは毎日のように旅の話を孫に伝えられる。わたしのような作家も、原稿を東京へ送れる。そのうちにホームページが立ち上がり、航海日誌がお客さん全員の参加で書き込めるようになるだろう。

 こうなると、現役のビジネスマンでも百日間世界一周に参加することが夢ではなくなる。これで船内にインフラが整えば、インターネットもできるようになるだろう。俗世から脱けだして船旅を存分に楽しみながら、なお、必要があればいつでも日本との交信ができるようになる。

 わたしのような職業には、ホテル缶詰という習俗があって、俗世から隔離されたホテル内で原稿を書かされる。しかし、ホテルでなく豪華船だったらどんなに楽しくなるだろうか。噂によれば、来年の世界一周は南極を回るのだが、多忙な某有名作家さんも乗船されるという。そういう時代が来つつあるのだ。さあ、この原稿を送信し終えたら、デッキへ行って、赤道直下の太陽を浴びながら、氷あずきを食べることにしよう!

荒俣 宏
1947年、東京都生まれ、慶応大学法学部卒業。
コンピュータ・プログラマーを経て執筆活動に入る。代表作である「帝都物語」シリーズは350万部のベストセラーとなり、87年に日本SF大賞を受賞。知識と興味は幅広く、博物学からITまで、古今東西の事象に対する博覧強記ぶりで知られる。2000年に行なわれた「インパク」では、総合案内などを担当する編集長をつとめた。
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2003年03月31日 第4回船上からEメール