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SOHO人紹介第27回 よい作り手とよい使い手の仲立ちをします
井上典子さん。土や木、ガラス、布、紙、漆や金属など、選ばれた「素材」と作り手の「感性」「技」が生み出す作品と、それらを生活の場で使う人との仲立ちをする「ギャラリー介」を経営。2005年10月からホームページでの通販も開始予定。
井上典子さん
2005年9月20日

4カ月、走りつづけてギャラリーをオープン

大きな開口部と窓の存在も、この場所を選んだ理由の一つ。窓越しの光が作品を静かに引き立てる。

 ギャラリーをやるとは、予想もしていませんでした。長年、百貨店の売場企画や新店の立ち上げ、和陶器の商品開発などに携わり、80年代半ばからはフリーランスで仕事をつづけていました。仕事で年に何度も焼き物の産地を訪れる一方、自分の勉強のためにと気になった作家さんの作品を見たり、お店で買い求めて使ってみたりしていました。そうしたなかで、作家さんとのネットワークが自然できてきたんです。90年代の終わり頃になると長引く不況のせいもあり、徐々に仕事が減ってきてヒマができ、作品展のプロデュースや作家と店の仲立ちなどを半ばボランティアでやっていました。ギャラリーを任せたいという話がきたのは、そんなとき。友人の勧めもあり、フッと気持ち動きました。でも、この話自体は、オーナーの条件が厳しすぎたので、結局断ってしまいました。

 ギャラリー経営へと次第に心が向きはじめたとき、思い出したのが以前訪れてスペースが気にいっていた今の物件です。オーナーに問い合わせたところ快く貸してくださることになり、すぐにやることに決めました。この1999年の11月から2000年4月のオープンまで、一気に駆け抜けました。4月から12月まで26回の作品展の企画から作家との交渉や打合せ、什器の選定、ロゴマークづくり、雑誌社へのPR等々、やることはいくらでもあります。たった一人、昼食抜きで走り回る日々の連続。前の仕事先の仲間や友人たちの応援があったから、走りつづけられたのかもしれません。光の差し込むギャラリーのシンプルな雰囲気は、私の期待通り。幕開けは、この人と見込んだ作家さんの作品展でしたから、これも狙い通り。たった一つ残念だったのは、オープン直前に骨折して、これで決めようと思っていたジル・サンダーの洋服が着られなかったことです(笑)。

自分が面白いと思える作品にこだわりたい

 「ギャラリー介」は、駅からも繁華街からも少し離れた静かな住宅街にあります。ギャラリーの立地としては不利な上に、作家さんに知り合いは多くても、肝心のお客様に知り合いはいないままでのスタートでした。基本的には待ちのビジネスですが、何もせずに手をこまねいているのは性に合いません。かといって、知名度のある作家や人気の出そうな企画で呼び込むという常套手段はやりたくてもできませんでした。「介」は、仲立ちという意味、よい作り手とよい使い手の仲立ちをしたいという思いを込めてのネーミングですから、その気持ちを貫なければやった意味がない。作り手の年齢もキャリアも作品の素材も無関係、自分がいいなと共感し、面白いと思える作家と作品にだけこだわろう。この思いは5年たったいまも変わりません。

組み合わせ自由、高さも幅も調節可能な展示台は、苦心のオリジナル。

 流通業界に長く関わってきましたが、自分で直接モノを売った経験はゼロ。モノを売ることに自信はありませんでした。とはいっても、お客様を呼び込める作品展にして、作品を売らないことには経営はなりたちません。ガラスに力を入れたのは、ガラスの作品を扱うスペースがまだ少なかったからです。ギャラリーは儲かる商売ではありませんし、見た目は優雅でも仕事は肉体労働の部分が多いんです。お客様が立て込んでいれば一日中立ちっぱなしで、昼食も休息も取れません。昨年春頃からは母の介護にも時間を取られるようになりました。仕事の上でもイヤな思いをすることがつづき、もう辞めようと思いました。99.9%辞める方に傾いていた針を戻したのは、インテリア雑誌の編集者からの「介の作家さんを紹介する連載をやりましょう」という嬉しい提案でした。先のことはわからないけれど、いまは辞めなくてよかったと思いますね。

ネット通販は、「介」らしさの新しいチャレンジ

コンクリート打ちっぱなしの外観は室内と共通。作品のじゃまにならないシンプルな空間を実現した。

 ギャラリーの仕事で楽しいのは、気にいった作品に出会ったお客様の笑顔を見ること。そして、若い作家さんの新しい挑戦を応援することです。初個展をプロデュースしたり、新しい素材へのチャレンジをけしかけたり、商売抜きであれこれ考えたり、面白がって行動しているときが、一番充実した時間かもしれません。アナログ世代ですから、ITは無知のレベル。作品展の告知を載せられる便利さや、それを見て訪ねてくださる方の増加に、ITのパワーを感じているホームページは、ある作家さんが作ってくださいました。「介」で一番評判のいいのがこのホームページです(笑)。直接アクセスしてくださる方も随分増えましたし、海外から「買いたい」という注文が入ったのにはビックリしました。これにヒントを得た「介」のIT化第二弾は、この10月にスタート予定のネット通販です。でも、ありきたりの通販にはしません。ちょっぴりへそ曲がりの私らしく、ホームページ内の「ストア」では、ガラス作家のオブジェや墨・画・陶の作家の屏風や掛け軸など、常設の展示ではなかなか見られないものを出品する予定です。工芸的に面白く、美術的な基礎がしっかりしていて、誰の真似でもないもの。ギャリラーでも「ストア」でも、そんな「介」らしさにこだわりつづけていくつもりです。

 

井上さんのある一日
タイムテーブル
6:30
起床。母の介護と家事
9:00~
19:00
ギャラリーでの仕事。掃除、接客、電話応対、次の作品展の準備など
20:30
買い物を済ませて帰宅。家事と母の介護
23:00
就寝
SOHOスタート費用
賃貸料・什器など、知恵と幸運が重なったためかなり安くあがった
サイト名
Gallery  KAI
若手を中心とした工芸作家の作品紹介や作品展の年間スケジュールなどを紹介。「ストア」では通販も行っている。
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