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IT&ビジネス 最前線レポート第6回 次世代セキュリティを担う、携帯電話での「顔認証」技術

2004年08月23日

バイオメトリックスの先端を走る「顔認証」システム

日本女子大学・小舘香椎子教授
日本女子大学・小舘香椎子教授
 現在、モバイルに代表される携帯電話も第3世代を迎え、通話の他にメールやインターネット、静止画、動画、音楽、GPSなど急速にその機能を拡大している。しかも、第4世代にいたっては、ユビキタス社会における情報家電操作、遠隔医療診断、そして遠隔教育システムを支援するなど、きわめてパーソナルな情報端末として進化していく。
 しかし、このような情報通信の進化は、コンテンツのアクセス権の認証、不正なアクセスによる情報の盗難、流出、改ざんなどの問題も拡大させる可能性もはらんでおり、個人情報の保護やセキュリティ技術の向上は大きな課題だ。そのような中、世界的にも高度な新しいタイプのセキュリティシステムが続々と誕生している。
 その中でも最近注目を浴びているのが、バイオメトリックス認証(生体認証)である。これは、指紋、声紋、虹彩、手の形状などを使って個人認証を行うもので、なりすましが非常に困難な、次世代のセキュリティだ。そして、その中でも最先端に属するのが、「顔認証」と言われている。
 通信・放送機構(TAO、現・独立行政法人情報通信研究機構)のマルチメディアモデルキャンパス展開事業として、日本女子大学と早稲田大学との間で実施した「e-learning受講システム」では、学生の認証に「顔認証」を使用していることで注目されている。
 これは、光を使って瞬時に大量の違う顔を見分ける「小型光顔認識システム」と呼ばれるもので、システムを開発したのは「光エレクトロニクス」の研究で知られる日本女子大学の小舘研究室(小舘香椎子教授)である。

肌の色、照明条件にも左右されない高精度認証システム

小舘研究室・渡邉恵理子さん
小舘研究室・渡邉恵理子さん
 「このシステムは、遠隔授業を受講する学生を事前に顔写真を撮影してデータベースに登録しておき(撮影はプログラミング言語「java」対応のNTTドコモのカメラ付携帯電話を使用)、受講時にはカメラ付き携帯電話を使って認証サイトにアクセスします。そして、撮影した顔写真はデータベースで照合され、認証されるという仕組みです」(小舘研究室・渡邉恵理子(博士課程後期3年生))。
 顔の認識作業は、「携帯電話」、顔認識装置の「小型光並列相関器」、認証の前後処理をする「サーバ」で構成され、次の手順で行われる。
 「携帯電話」(画像入力:携帯電話で顔画像撮影)→撮影画像・ID送信→「顔画像個人認証サーバ」(前処理:正規化→切り出し→エッジ抽出→2値化)→「小型光並列器」(相関演算→相関信号取得)→後処理→「顔画像個人認証サーバ」(認証結果・ワンタイムパスワード返信)→「携帯電話」。
 現在、企業で市販化されている顔の認識装置もあるが、照明条件で認知できないなど、とても完全とはいえないと言う。しかし、このシステムは、直径約2ミリのレンズとレーザーによって画像を光学処理するため、照明条件にも左右されず、肌の色や表情、髪形や化粧による変化や多少痩せたり太ったりしても認証に不都合は生じないという。しかも、1,000人分の顔写真から本人の画像を探し出す処理速度は約1.4秒という速さだ。
 小舘研究室では、このシステムの応用として心臓手術で有名な榊原記念病院との共同研究も進めているという。
「この病院には、言葉が話せず、しかも術後で動けない新生児・乳児が多くいます。それらの患者の取り違えや医療ミスを防ぐためにもこの顔認証システムを実際に活用しているのです」(小舘教授)。
 認証レベルの精度はきわめて高く、これまで識別の困難とされてきた、人種混合や双子(一卵性)も識別可能だという。  もし、この顔認証が一般化すれば、セキュリティをはじめ、ID(身分証明)への応用も実現するだろう。たとえば、暗証番号の変わりに顔を近づけるだけで現金の引き落としもできるなど、デジタル認識による「顔パス」が実現する時代がすぐそこまで来ている。

弱者をサポートできるのがITのよさであり、中小企業の強み

 この革新的ともいえる顔認証システムが、女性の研究者たちにより開発されたことは特筆すべきだろう。
 同女子大は、私学の女子大で唯一理学部を持っている学校であり、小舘教授自身、女性科学者の地位向上に理工系分野諸学会をあげて取組む「男女共同参画学会協会連絡会」の初代委員長でもある。それだけに、男女共同参画により、女性研究者がさまざまな最先端技術に関わり、リーダー的な立場になることを積極的に推進している。
「共学だと女性は少数派で一歩引いてしまうかもしれないが、女子大ではそれぞれが自己啓発し、女性特有の能力を生かしながら生き生きと研究に没頭しています」(小舘教授)。
 この顔認証システムのように、女性だけで作り上げた革新的なシステムがこれからも続々と社会に出ていき、いろんな意味でインパクトを与えられれば、これからもっと多くの女性研究者がリーダーとして社会に巣立っていくことだろう。
 「車イス利用者に対するバリアフリーのマップをネットで公開したり、病院に関する情報をIT化している自治体があるように、これからのITは、コンピュータやネットワークを上手に使うことで、社会的に弱者と言われている人たち対して非常にあたたかいシステムを作っていけると思います。多くの中小企業の経営者たちが、ITを使用してビジネスを模索しているようですが、このような取組みは、大企業よりもむしろ中小企業の方が進めやすいかもしれません」(小舘教授)。
 身近な生活の中からいろいろな問題を引っ張り出して、弱い部分をサポートできるのがITのよさであり、中小企業の強みという見識。これも、女性だからこそ持ち得る、繊細で優れた視点なのかもしれない。
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本村 賢悟 (もとむら けんご)
1967年鹿児島生まれ。大学卒業後、経済誌、情報誌編集を経て、2001年にフリーライターとして独立。現在、ビジネス、テクノロジー、カルチャーを中心に幅広いジャンルのレポート記事を手掛けている。