このページの本文へジャンプ

文字の大きさ

ここから本文です

IT&ビジネス 最前線レポート第4回 自動販売機が無線LANの基地局になった「フリーモバイル」

2004年07月12日

自販機の新しい可能性を追求

タケショウ株式会社
タケショウ株式会社

 ひとりの若いサラリーマンが街を歩いている。彼は喉が乾いたらしく、自販機を見つけて冷えたジュースを一気に飲み干す。そんな時、胸ポケットの携帯電話が鳴った。「発注書を急いで工場に送ってほしい」という緊急連絡。彼は慌てることなくカバンからパソコンを取り出し、その場で書類をメール送信した。「目の前の自販機が公衆無線LANサービスの基地局だから、慌てることなくネットワークが使える。いい時代になったもんだ……」。
 これはフィクションであるが、近い将来、そんな光景があちこちで見られるかもしれない。

 人の集まるところには必ず自動販売機がある。その自販売機を公衆無線LANの基地局とする新規事業に乗り出して話題を集めているのが、愛知県半田市に本社を構える自販機オペレーション会社、タケショウ株式会社(竹内久祥社長)である。
 「以前から自販機の新しい可能性、活用法を模索していました。当初は携帯電話を利用する付加機能を考えていたのですが、公衆無線LANサービスの方がさまざまなメリットが生み出せると考えたのです」(広域開発営業部 岩下雅樹氏)。
 無線LANは、屋外のインターネット接続の本命と期待されてきたが、現在の利用拠点は少なく、携帯電話のようにどこでも使えるわけでないため、利用者数は伸び悩んでいる。そこで、同社は、新しい公衆サービスの一環として、自販機の中にインターネット接続装置(無線LAN)をセットし、“基地局”として屋外のネットワーク環境を支援することを考案。そこで、自販機にADSLや光ファイバーのケーブルを配線し、自販機の上にインターネットに接続できるアクセスポイントを設置し、自販機を使った公衆無線LAN「フリーモバイル」をスタートしたのだ。

自販機の基地局で世界一の公衆無線LANサービスを目指す

 「この自動販売機を設置することで、周囲半径50m以内を無線でのネットワーク環境にすることができます。『フリーモバイル』は、11bと11g規格に対応し、8〜12Mbpsで接続でき、回線使用量はもちろん無料です。導入費用も機器設置の手間もかからずに、自動販売機を設置するだけでロビーやお店がモバイルゾーンになるのです。機能的な優位性だけでなく、話題性による集客効果も期待できるなど、さまざまなメリットを訴求することができます」(岩下氏)。

FreeMobile概念図
FreeMobile概念図

 この事業は、同社と全国の自動販売機オペレーター15社で共同出資した会社株式会社ホーキング、インターネット総研のIRIコミュニケーションズ計3社で展開。接続料などは3社で負担することで、ユーザーが無料で使用できるようにしたのだ。このように、同社は通信で利益を得ることは考えておらず、無線LANが自販機に付加価値として付くことで他社との差別化をはかり、自販機の設置数、普及率を拡大することが狙いだという。

 タケショウの販売エリアは愛知、岐阜、三重だけで自販機数は約7,000台。提携している全国15社のオペレーターを合わせると10万台を越える数になるが、もし、その10分の1の1万台が無線LANの基地局になるだけでも、世界一の公衆無線LANサービスが実現するはずだ。
 「自販機のインターネット回線がインフラとして機能しはじめたら、将来的にいろんなサービス展開が期待できます。例えば、自販機に液晶パネル、LEDを付けることでリアルタイムで情報を発信したり、IP携帯の基地局としての可能性も広がります」(岩下氏)。
 もし、これが実現すれば、アクセスポイントの数だけでも自販機は貴重な情報発信基地になる。同社は、今後、基地局としてニーズの高まる、企業の商談ルームやビジネスセンターなどを新たなターゲットにして、営業を強化していくという。

新時代の自販機の付加価値を高めるために

 「自販機のメリットは集金機能です。だからこそ、将来的には100円〜200円の硬貨で買えるデジタルコンテンツを自販機で販売したり、音楽配信などのパスワードを容器や箱に入れて販売して、ダウンロードできるようにしたり、さまざまな可能性に挑戦していきたいと思っています」(岩下氏)。
FreeMobile自販機イメージ
FreeMobile自販機イメージ
 現在、タケショウが先陣を切って、今夏、名古屋市で実証実験として50〜100台でサービスを開始する。そこで、さまざまなデータをとり、スタッフの人材育成も進めながら全国に拡大していく予定だという。この実験結果によって、飲料自販機を設置する施設では集客力アップにつながり、自販機オペレーター企業にとっては、売上げや在庫管理がオンラインで管理できるなどの相乗効果も見込めるという。
 自販機の基地局により、24時間365日、どこにいてもネットワークサービスが可能になる時代が、もうそこまで来ている。
 将来構想としては、全国にある260万台の飲料自販機を基地局にして、全国のほとんどのネットワークエリアを網羅し、自販機を利用したネット上の売買も可能にしたいという。世界一の自販機設置数と自販機の開発技術力を持つ日本において、自販機は新時代の公衆無線LANサービスに進化しようとしている。
本村 賢悟 (もとむら けんご)
1967年鹿児島生まれ。大学卒業後、経済誌、情報誌編集を経て、2001年にフリーライターとして独立。現在、ビジネス、テクノロジー、カルチャーを中心に幅広いジャンルのレポート記事を手掛けている。