規模の大小を問わず企業経営者の方であれば、売上げや利益率の向上、経費削減につながるのならITを利用してみたいと思っている方は多いのではないでしょうか。
しかし気になるのが、ITを導入するために必要なコストと、その対費用効果が見えづらいことではないでしょうか。
そこで、今回から6回にわたり、小売業やサービス業などいくつかの業種をピックアップし、抱えている課題・問題点を解決するためのITの利用法と必要になるコストを、実例を交えて紹介していきます。実際にITを導入する際の目安として、ぜひ参考にしてみてください。
まず第1回は中堅の小売業のケーススタディです。現在、小規模の小売業者には、下記のような問題を抱えているケースが少なくありません。
| 問題点 |
1. セール内容や品揃えに独自性がない
2. 店舗運営(事務作業など)が非効率 |
少々ITとの関係をイメージしにくいところもありますが、こういった問題の解決には、実はITは非常に強い武器になるのです。
では、さっそく小規模スーパーであるH社の事例を見てみましょう。

売上高20億円、従業員数50名(パート・アルバイト従業員を含む)の小規模なスーパーH社は、大手スーパーやコンビニエンスストアの進出に対抗して顧客の引止めを図るために、長期間にわたって特売を行ってきました。その結果、売上高と来店客数は増加したのですが、月次の決算では赤字が続いてしまいました。原因は、POSシステムを導入していたにもかかわらず、在庫管理のためのデータ入力を怠っていたために、値入が不十分で、しかも仕入価格よりも低い価格での値引販売が常態化していたことでした。
そのため、H社では店舗運営や品揃えで独自性を出し、競合他社との差別化を図ること、そして、特にITの積極的な活用による店舗運営の効率化で、利益の確保を図ることにしました。

まず独自性の演出では、野菜や魚介類は地方の生産者や漁港の仲卸業者、豚と鳥については牧場などと直接取引きを増やし、近隣の生産者には月に1回程度の割合で来店してもらったり、港からの直送によるミニ産直市を開くようにしています。
そして、生産地や港、牧場周辺の自然や収穫の様子を消費者に伝えることを重視し、生産者や仲卸業者と電子メールで頻繁にやり取りをし、添付ファイルで受取った現地の写真を、ホームページで公開するようにしました。

さらに、大手取引先とは、納品書・請求書をデータ・ファイルでやりとりするようにして、効率化を図りました。インターネットを利用していない取引先とは、それまで電話での発注を行っていましたが、それを禁止し、データ・FAX変換ソフトを使うことによって、H社からデータで送ったものを取引先はFAXで受け取り、取引先からFAXで送ってきたものをH社ではデータで受け取ることで、事務の効率化を図るとともにミスの削減に努めています。
また販売管理面では、パート従業員であってもカテゴリー・マネジメントが可能なように、全従業員を対象に、延べ1週間にわたって専門家を呼んでデータ分析の勉強を行いました。
当初パート従業員は、自分たちはデータ分析などを行う必要がないという姿勢で、正社員は、パート従業員に権限と責任を与えることに反対の姿勢でしたが、勉強会の前までに社長自らが今回の取組みの意義と必要性について説明し、結果として全従業員参加による勉強会を開催しました。

今回、IT活用を実施するため、ハード面ではパソコンの買換えやデジタルカメラなどの購入、インターネットの導入(プロバイダーとの契約、サーバの利用を含む)で150万円程度、ソフト面では専門家の謝礼や従業員の人件費として100万円の投資となりました。
低価格販売を減らしたことによって、一時的に売上げおよび来店客は減少したのですが、パート従業員にも責任と権限を与え、主婦の視点を加えること、カテゴリー・マネジメントの手法による仕入や品揃えの充実を、部門ごとに全メンバー参加のもとで行うことで、売上は横ばいながらも、利益率を2%程度向上させることができました。
また、受発注のデータ化を進めたことにより、伝票整理など事務作業に1時間程度かかっていたものが3分の2程度に短縮することが可能となっています。来店客数も産直の取組みにより、以前より1日あたり30人程度の増加となっています。
今回のIT活用にあたって、発注での取引先との電話のやり取り(余計な会話)の禁止、パート従業員の勉強会や店舗運営(データ分析により品揃えを工夫する)への参加など、今までの運営習慣を変える取組みへの意識改革が最も大変であったと、H社の社長は述べています。
いかがでしょうか。独自色の打ち出しを狙っている中堅〜小規模店舗の経営者の方には、参考になる部分もあったかと思います。
リアルな業務の改善とIT導入をうまく組み合わせて、よい結果が得られることを期待しています。

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