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インターネット法制度を知る!第26回 システムダウンと損害賠償

2005年01月10日

前回のおさらい

 前回は、「商標法ことはじめ」についてリポートした。内容多岐にわたるだけに全てをリポートさせていただくのは困難だが、商標はビジネスの源泉。その扱いには是非ご留意されたい。さて今回は、損害賠償についてリポートしたい。

平成17年11月1日(火)、東証システム、システムダウン。

 各種報道によると、平成17年11月1日(火)、プログラムのシステム障害により東京証券取引所の売買システムが停止。その結果、現物株式、上場投資信託(ETF)など2千5百あまりの銘柄の取引ができなくなった。また当該障害は札幌、名古屋の両証券取引所にも波及した。原因は、システム更改のためのプログラム改修指示書に誤りとのこと。そしてその翌月の平成17年12月8日(木)、注文取消し機能に不備もあり、誤発注を行った証券会社が注文の取消し処理ができずに数百億円の損害を抱えることになった。いずれもシステムがもつ恐ろしさを垣間見た瞬間であった。
 今回、たまたま証券取引所でのシステムダウン等による損害事例をとりあげたが、同じ事は交通機関、金融機関、発電所、企業、官公庁などコンピューターシステムを運用するところであればどこにでも起こり得ることだ。そしてそのシステムが巨大であれば巨大であるほどその被害は大きい。ついては今回はコンピューターのシステムダウンを切り口に損害賠償に関する法的知識について取り上げたい。

損害賠償請求って何?

 損害賠償請求という言葉を聞いたことがないという方は恐らく少ないと思う。ただその中身は意外とご存知でないことも多い。しかし、交通事故被害における怪我の治療費や車両の修理代なども当然ながら損害賠償請求行為。ましてやビジネスにおいて何か被害を受ければ当然、損害賠償請求は非常に重要な意味をもつ。
 さてこの損害賠償請求だが、法律としては民法第七百九条(不法行為)がその根拠となる。不法行為とは下記条文にもあるように「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」としたものだ。つまり故意であれ、過失であれ他人の権利又は法律上保護される利益を侵害すれば加害者は賠償しなければならないということを定めている。

【関係条文】
■民法第七百九条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 ところでこの不法行為だが、「一般的不法行為」と「特殊的不法行為」にわかれる。一般的不法行為とは、その名の通り一般的な不法行為を規定したもので、被害をうけた方(原告)が損害をもたらした(被告)の故意又は過失を立証しなければならないという過失責任主義の原則が特徴的だ。逆に特殊的不法行為は、立証責任の転換や無過失責任の規定を設けるなど原則が修正されており、未成年者による損害など法的責任能力を欠く場合に適用される。なお製造物責任、国家賠償、大気汚染など公害なども特殊的不法行為に該当する。 なおこうした損害賠償に対して被害者救済という目的から保険制度が普及している。

損害賠償請求へ

 不法行為が認められると原告は被告へ損害賠償を請求することができる。そしてその賠償は金銭賠償が原則となる。但し、原告に過失があった場合はその分が相殺される。また名誉毀損の場合は名誉回復の為の適当な方法を裁判所は被告に命じることができる。なお被告が未成年など法的責任能力を欠く場合は使用者責任と位置付けられる。
 さて以上を踏まえた上で仮にあなたがシステムダウンにより損害を負った場合どのように損害賠償を請求するかであるが、基本は契約書となる。損害の被害を直接損害(システムダウンにより生じたシステムの修理費、代替のシステムを利用した利用費、システムダウンの周知に要した告知費用、臨時の人件費や宿泊費など)に限定されるのか逸失利益や特別損害まで対象としているかは全て契約書しだいである。いずれにせよ契約範囲の損害額を計上し、先方に請求するということになる。なお広く多数に提供するサービスなどについては約款(規約)により一律に規定されている場合もあるので注意したい。

【損害賠償関係の契約書条文(例)】
甲および乙は、本契約に定める事項に関し、自己の責に帰すべき事由により相手側当事者が損害を被った場合は、通常の直接損害に限り、その賠償責任を負うものとし、逸失利益および特別損害については一切の責を負わないものとする。

【関係条文】
■民法第四百十七条(損害賠償の方法)
損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。

■民法第七百二十二条(損害賠償の方法及び過失相殺)
第四百十七条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
2  被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

■民法第七百二十三条(名誉毀損における原状回復)
他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

■民法第七百二十四条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

■民法第七百十四条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 (後略)

■民法第七百十五条(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 (後略)
まとめ
 損害賠償請求の基本は、まず契約書。システム開発、運用などを依頼する場合、必ずこの条項には注意したい。但し、完全なシステムの開発や運用は困難が伴うことも事実。法的に解釈すれば損害が発生すれば契約にそって損害賠償を請求することは可能だが、長期的にビジネスを継続するという観点に立てば代替システムの準備などに力点をおかれた方が現実的かもしれない。
 なお損害賠償請求だが、あくまで権利であって相手が応じない場合も有る。また応じたくとも資力がない場合もあり必ず得られるものではないことに注意したい。(相手が応じない場合は訴訟ということになるが時間的、費用的効果を考慮する必要がある。)併せて損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害、加害者を知ってから三年又はその行為の時から二十年で時効となるので注意したい。
 最後に本リポートをご購読いただいている皆様には本年大変お世話になりました。来年も何卒宜しくお願い申し上げます。
■参考、引用文献
新六法(三省堂)
■参考、引用URL
日本経済新聞
http://www.nikkei.co.jp/
■お断り
 本リポートは、ITビジネス起業者等へ法制度面のアドバイスをさせていただくことを趣旨としております。つきましては、内容の公正性を期するために公的機関等を除き、企業名、個人名等は原則として割愛しております。
なお本リポートの内容については、お客さまご自身その内容を判断するものとし、上田英雅又は本リポート掲載先サイトの管理者であるエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社はいかなる保証も行わず、いかなる責任も負担いたしません。
上田 英雅(うえだ ひでまさ)
ECリーガルアドバイザー
所属:NTTコミュニケーションズ(株) 経営企画部
専門:EC(電子商取引)、EC法制度
所属:情報ネットワーク法学会
出身:京都府