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緑を湛(たた)えた美しい水の景色 アクアリウムの世界

そこには命溢れる色彩のドラマがある

 じっとしていても汗ばむ鬱陶しい時期がやってきた。そんな季節にあって、オフィスビルのエントランスホールやホテルのロビー、駅構内などの公共の場で目に留まり、清涼感とともに心も和んでくるのがアクアリウムだ。幻想的な淡い光に照らされて鬱蒼と生い茂る水草の森、舞うように遊泳する熱帯魚の群れ。緑を湛えた美しいその水景は、神秘的で生命溢れる色彩のドラマでもある。庭で植物を育てるように、水槽の中で水草を栽培するアクアリウムは、室内を彩るグリーンインテリアとして注目され、その愛好者はアクアリストと呼ばれる。

江戸時代にもあったガラス製のアクアリウム

金魚

 水族館や水槽を意味するアクアリウムという言葉は、古代ローマ時代の石造りの生簀(いけす)に由来している。世界最初の水族館は1853年にロンドン動物園内に開設されたものであるという説が有力だが、アクアリウムがポピュラーになるのは、1851年のロンドン万国博覧会で、鋳物の枠組みにガラスを嵌め込んだ華麗な魚の展示が人気を博したことに始まる。
江戸時代の金魚鉢もまたアクアリウムのひとつであるといえるだろう。金魚が日本にもたらされたのは室町時代とされるが、当時は庭の池などで飼っていた。金魚を鑑賞するための球体の鉢「金魚玉」は、江戸時代後期の文化・文政年間(1804〜1829)に誕生し、ガラス越しに眺められることで爆発的な人気を博したという。
 また、江戸の園芸熱に伴って室内に水鉢を置き、スイレンやハスといった水生植物を配して金魚やメダカを飼うことも流行した。その様子は浮世絵などにも描かれているが、金魚玉は横から見て楽しみ、睡蓮鉢などの水鉢の金魚は上から眺めて慈しんだ。このように私たち日本人は、昔から暮らしの中に水や自然を取り入れ、鑑賞することで風情を楽しんでいたようだ。流木や石を配し、空間に配慮した現代のアクアリウムのレイアウトには、狩野派や琳派などの日本画、さらには生け花や盆栽、石庭といった日本人独得の美意識が如実に反映されてもいる。
 ちなみに、日本初の水族館は1882年、上野動物園の一角に登場した。「観魚室(うおのぞき)」という和名があてられたこの施設は「竜宮城の再現」といわれ、多くの人々が押し寄せた。ちなみに、日本は人口あたりの水族館数が世界一といわれるほどの水族館大国である。

地球の生態系とつながるアクアリウムの世界

地球の生態系とつながるアクアリウムの世界

 アクアリウムには、熱帯魚の飼育・鑑賞という従来のスタイルを超える奥の深さが潜んでいる。
 「アクアリウムの面白さは、単に水棲の生物を生かし、その見た目を楽しむことにとどまりません。小さな水槽の中に自然界の生態系を実現することにこそ、その楽しさがあるんです」と話すのは、アクアリウム専門店『ペンギンビレッジ』のオーナーである尾崎 初(はじめ)さん。自然界の水中では、水草や魚だけでなく、それらを取り巻く無数の微生物などが物質循環という仕組みの中で生きている。そうした自然環境を水槽に再現するのがアクアリウムなのだ。
 「個々の生物を飼うという発想ではなく、水槽という限られた空間に人為的に水草や熱帯魚などの生物が生息する自然環境(生態系)を作るということです。いわば“小さな地球”をまるごと維持・管理しているという感覚なのです。どんな種類の水草や熱帯魚を選ぶかといった“種の選択”まで含めると、まるで自分が水槽内の“生命の神秘”を司っているようにさえ思えてしまう。そこがまた醍醐味なんですよ」と、尾崎さんはその魅力の深さを語る。
 「60cmの水槽にアピストという魚を20匹も入れて楽しんでいるお客さまもおられます。この魚は非常にテリトリー意識が強く、普通はそんなに入れられないのですが、その方は水草をうまく配置することで棲み分けができるように調和させているんです」と、尾崎さんは楽しみ方の一例を教えてくれた。

手軽に楽しめるアクアリウム

水草

 日本のアクアリウムは、1960年代にブームとなった熱帯魚飼育からスタートしているといわれるが、水槽での水草の栽培・植栽ができるようになったのは、ここ20年ほどのこと。かつては水草を水槽の中で育てるのは至難の技で、それは水中の二酸化炭素や照明といった、水草栽培・植栽に関する基礎的な知識と、そのための周辺機器の不足が何より大きな原因だった。
 「最近ではタイマーやCO2供給機、照明器具など水草栽培用のさまざまな周辺機器が普及しており、その育成を助ける砂や添加剤なども豊富です」と尾崎さんが語るように、これまでプロや一部愛好家だけのものだったアクアリウムの世界は、いまや誰にでも手軽に実現できるようになっている。生態系の維持・管理というと難しそうだが、水草を美しく育てるには、成長して伸び過ぎた部分をカットし、安定した水質や水温、栄養など日常の管理を怠らないようにすればOKだ。
 「熱帯魚から水草の方に興味が移り、本を見ながらイメージに合わせた水槽を作って育てているお客さまもいます。リビングにはアフリカ水槽、アジア水槽などと名付けられた大型水槽があり、その水系に合わせた水草が植えられ、魚やエビが泳ぎ回っているそうですよ」。タイマーで昼と夜を規則的に作り出し、ヒーターやろ過装置で水系に合わせた水質管理を行うことによって、そのような楽しみ方も可能なのだ。

芸術の域にまで達したアクアリウム

芸術の域にまで達したアクアリウム

 「水草の育成には、盆栽や花壇で草花を育てる園芸に似た楽しみもあります。植え込む前から限られたスペースでのレイアウトを考え、丈の低い水草と高い水草とをうまく組み合わせるほかに、葉の大きさや色合いのコントラストも含め、それら全てを考慮しながらひとつの群生世界を創り出していくんです」。
 水草の成長は思いのほか早い。油断していると伸び過ぎて見苦しくなるだけでなく、場合によっては水槽内の生態系維持に支障も出てくる。そのため、育ち過ぎのものはトリミングし、新しい芽を育てるために植え替えも行う。
 「どう水草の形を整えるかを腐心しながら、水槽内を理想の形に創り上げていく楽しみは格別です。あるお客さまは『1日の終わりは、ビール片手に“夜の園芸”』と洒落ながらトリミングをなさるそうですが、『楽しくて一向に1日が終わらない』と、嬉しい悲鳴をあげておられます」と笑う。屋外で育てるガーデニングなどと違い、水草の手入れは天候に左右されない室内で行えることに加え、夜でも作業ができることもアクアリウムの魅力のひとつであるといえるだろう。
 そして今、水草の育成は、その芸術性を問われるまでに昇華している。2001年に第1回目が開催され、今年で9回目を迎える世界規模の水景コンテスト『世界水草レイアウトコンテスト』は7月にグランプリが決まるが、昨年のコンテストには47ヶ国から1,170作品が応募されたという。
 アクアリウムに生い茂る水草の美しさは、新緑の頃の輝くばかりの緑にたとえられ、その姿を絶えず見せてくれる。空気中で育つ植物に比べ、繊細で、水の動きのままに浮遊し揺れる優雅な様は見る者の心を和ませる。また、水草のもつ浄化作用で磨かれた水は驚くほどクリアで美しい。そして、水槽内をひときわ引き立たせる熱帯魚。アクアリウムはそのそれぞれの美しさを堪能できる“生命(いのち)ある芸術作品”なのだ。


【取材・写真協力】
アクアリウム専門店『ペンギンビレッジ』
東京都練馬区石神井台6-19-2
TEL:03-3922-2456
http://www.penguinvillage.co.jp/

取材の舞台裏
「取材の舞台裏」では、今回お伺いした「水の生態系をつくるプロ・ショップ『ペンギンビレッジ』」のレポートをお届けします。
関連リンク集
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