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2011年8月31日公開

日本マネジメント総合研究所 理事長 戸村 智憲 氏

危機を乗り切るリーダーのための戦略的BCP思考法

日本マネジメント総合研究所
理事長
戸村 智憲 氏

国連で内部監査に関わって以降、長年企業の危機管理・リスク管理を研究・指導・実践してきた戸村智憲氏。
BCPの国際派コンサルタントは東日本大震災の企業対応をどう見たのか?
「3.11」のあの日から半年。その教訓と展望を伺った。

戸村 智憲(とむら とものり)

早稲田大学卒業。米国MBAを修了し、国連に勤務。国連内部監査専門官や国連におけるCSR運動である「国連グローバルコンパクト」(UNGC)広報を務める。その後民間企業にて監査統括、人事総務統括を担当。現在は日本マネジメント総合研究所・理事長として、危機管理・リスク管理、コンプライアンス経営、内部統制などのコンサルタントとして活躍。企業の危機管理・防災対策などBCPの策定、指導・実施にも携わる。今回の東日本大震災においてもBCPに関して積極的に発言・提言し、産学ともに注目を集めている。またBCPにおけるIT活用(IT-BCM)も推奨している。著書に『監査MBA講座 監査マネジメント技法:危機管理・リスク管理と監査』『しっかり取り組む内部統制』『なぜクラウドコンピューティングが内部統制を楽にするのか』など多数。

BCPにおける「3.11」の意味

――今回の東日本大震災でBCP(企業の事業継続計画)は充分機能したのでしょうか。どう分析されていますか。

厳しい言い方になりますが、企業に「BCPらしきもの」は確かにありました。しかし、結局ほとんどは現実に効果を発揮することはなかったというのが私の分析です。

中には東京ディズニーリゾート®のように、BCPがある程度は「減災」的に機能した例もあるにはあります。まず、ここでは埋め立て地特有の地盤の弱さを克服するため、その強度を高め、緩みにくいようにサンドパイル方式という特殊な工法を採用していました。それにより甚大な被害は確かに免れましたが、それでも残念ながら一部に液状化現象が起こってしまいました。また退避・避難においては、地震の大きな揺れによるシャンデリアの落下を想定したスタッフが、機転をきかせて「シャンデリアの妖精だよ、みんなを守るよ」とシャンデリアの真下に移り、そこにお客さんが入り込んでケガをしないようにしたと報道されています。その心意気や機転、マニュアルからの応用力は本当に素晴らしいものだと思いますが、これも私の解釈では、災害時に救助する側・避難誘導する側も安全でなくてはいけませんので、良策というより苦肉の策のような感は否めません。

それを端的に現す象徴的な出来事が、宮城県南三陸町で起こりました。最後まで防災無線放送で住民に避難を呼び掛けていた役場の女性職員が、津波に巻き込まれ犠牲となってしまった例です。なぜ彼女は身を挺さなければ、人々を助けられなかったのか。そうする以外に、住民を助ける術(すべ)はなかったのか。もし、もっとうまくITや離れたところから防災放送を流す設備などを活用していれば、助ける側の貴い命を失くさずに済んだのかもしれません。

企業のBCPにおいても、何より優先されなければいけないのは、当然のことながら“人の命”です。その根幹の部分が今回の東日本大震災で充分機能したのかは疑問です。本格的な検証はこれからの仕事になるわけですが、私は一抹の不安を感じています。

――「BCPらしきもの」とは、いったいどういう意味でしょう。

これまでのBCPやBCMS(事業継続マネジメントシステム)は、企業の担当部署が危機管理の予算を確保するための大義名分として作成されたものが多い、と考えられます。つまり、過去に起こった事象を基に、都合の良い期間の限られた時点でのデータを用いて、災害予測や業務が中断した時の影響を計る統計的なBIA※を実施し、「これだけの予算が必要になります」と危機管理のアリバイづくり的に作成したものが多いのではないでしょうか。このように、BCPを「それらしく」作ることが企業の命題になっていて、肝心要の「どれだけ実効性があるか」という視点が二の次になっていたのではないかと私は感じています。それで「BCPらしき」という表現を用いているわけです。これは単にBCPを策定する企業側の問題だけでなく、実効性を無視した「BCPの代書屋的」な存在のコンサルティング企業が多いことも問題であり、これは震災前から私が警鐘を鳴らし続けてきたことでもあります。

もう一点、今回の大震災を振り返って痛切に感じたのが、このBCPを具現化するために欠かせない平時の訓練が、なおざりにされてきたがゆえに、現実にはほとんど役に立たなかったということです。平時の避難訓練で、たとえば「8階の人はこんな経路で1階まで降りて外に避難する」といった対応は、漠然と「頭」には刻まれているものの、それは形骸化した知識でしかなかった感があります。実際、東日本大震災における都内の企業の方々は「とにかく階下・ビル外に避難する」という「知識」にそって避難した人が多かったようです。しかし、その避難の仕方が問題でした。上階からビルの真下に降りさえすれば安全だと避難したものの、阪神・淡路大震災ではビルの2階から下が潰れたように、避難した場所が却って危険な場所となってしまうこともあるわけです。またビル外とはいえ、上からビルの外壁やガラスが降ってくる可能性がある場所に避難していた大手企業の方々も見受けられました。つまり、中途半端な防災知識にそって避難することで、却って危険な状況に身を置いてしまったという “避難の逆機能”(安全を求めて避難するものの、その避難が却って危険な状況をもたらしている状態)が起こっていたのです。

その原因は何かというと、退避マニュアルの不備という側面もありますが、それ以上にマニュアル依存で思考停止になり、防災の「知識」が応用できる「知恵」として身についていないことや、平時の防災訓練が形骸化しており、まったく実効性がないことなどが挙げられます。これは訓練を受ける人々だけに問題があるのではなく、真剣味がなく緊迫感が薄い牧歌的な訓練のやり方や、それを指導するコンサルタントにも大きな問題があると私は考えています。

※Business Impact Analysis=ビジネス影響度分析

――今回の震災では「想定外」で切り捨てられる問題も数多くありました。

「想定外」というと、仕方ないことのように聞こえます。しかし、私なりに厳密に分けてよくお話しすることですが、「想定外のリスク」には3つの種類があります。1つはまさに、人知を超え「全く想定すらできなかったリスク」。2つ目は、経営の都合上「想定・対応しないことにした“逸脱域”として想定外になったリスク」。そして最後が「容易に想定されるリスクであるが、検討・対応すらしなかったことによって想定外となったリスク」。ですから、何でもかんでも「想定外」といえば許されると思ったら、大間違いなわけです。

また、多くの企業に危機管理マニュアルがありますが、当たり前のように何の疑問もなく、ほとんどの企業が日本語だけで書かれているわけですよね。しかし、果たしてこれは妥当な「常識」なのでしょうか。

いまの日本企業には、ブラジル人や中国人、インド人をはじめ多くの外国の方々が在籍しています。普段は日本語を流暢にしゃべれる方々も多いですし、日本語をすらすら書くこともできるかもしれません。

しかし、緊急時にパニックになると、母国語でないとなかなか理解できないことがよくあります。私がニューヨークの「9.11」のテロに遭遇した時がそうでした。普段ならすんなりと入ってくる英語のニュースや危険情報が、頭を素通りしていくのです。パニックになっている時間はわずか2〜3分だったかもしれませんが、一刻を争う場合には、それで命を落とす可能性だってあるのです。その意味では、それぞれの母国語でマニュアルがあればいいのは当たり前といえば当たり前のことです。

これほど国際化が進んでいるにも関わらず、現代の日本企業で日本人以外が被災者になることを具体的に想定して、対策を練っている企業はほとんど見受けられません。これでは「無意識の内に思い込みで日本語を母国語としない方々の被災という“想定外のリスク”を日々生み出し続けている」といっていいような状況です。「防災・危機管理のダイバーシティ」のような観点から、既存の防災・危機管理、サプライチェーン全体を含めた事業継続のあり方などが改めて見直されるべきでしょう。

――日本で就業する諸外国の方々への考慮も大切ということですね。

今回の東日本大震災では、たくさんの外国人の方々も被災されました。彼ら彼女らは、日本企業にとって貴重な働き手であり、共に社会を築いていく仲間・地域住民ともいえます。それが、祖国の家族から「日本は危険だからすぐに日本を出て!」といわれ、帰国の途についた方々も多かったようです。企業のみならず、政府・官民ともに、安全情報を諸外国に伝わるように発信できなかったことは、日本全体の危機管理広報上も、また、風評被害を避ける上でも重要な課題なのです。

各企業でも、震災による尊い命の教訓を活かすために、改めて「想定外のリスク」との向き合い方や防災・危機管理・事業継続の対応について、実効性の観点から見つめ直す必要に迫られているのです。

Column−コラム− 震災復興支援フォーラム

震災復興支援フォーラム

「防災・危機管理のダイバーシティ」の観点も含め、2011年6月24日に弊社主催の「震災復興支援フォーラム」を開催させて頂きました。各企業の方々からの貴重な生の声をまとめたコメント集や、私が実際に福島県入りしてまとめた現地取材レポートが掲載されていますので、ぜひ参考までにご覧頂ければと思います。
(戸村氏談)

NTTコミュニケーションズにおける東日本大震災の影響と対応 東北支店と災害対策本部の復旧対応レポート!

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