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「iモード」のサービス開始から11年。携帯電話やインターネットを取り巻く技術はさらなる進化を遂げ、時代はまた新たな局面を迎えようとしている。しかし、“ガラパゴス現象”などとも評される日本の携帯電話をはじめ、ビジネスとしての「メイド・イン・ジャパン」は世界のマーケットの中で遅れを取っているようにも見える。“iモードの父”として世界に名を知られた夏野剛氏の目に、今この時代、また日本の企業はどのように映っているのだろうか。自身の経験も含めて語っていただいた。
※本稿は、『ビジネスアドバンス』第75号(2010年9月8日発行)に掲載された内容を拡大・再編集したものです。
ビジネスとしてのICTに興味を持ち始めたのは、1993年に米国へ留学したことがきっかけといえます。私が留学した先は、いわゆるMBA(経営学修士)であり、エンジニアリングとはかけ離れたコースだったのですが、その中で一般社会ではほとんど認知されていなかったインターネットが、最先端のビジネストレンドとして語られていた。インターネットが単なる「テクノロジー」としてだけでなく、れっきとした「ビジネスモデル」であり、活用の仕方によっては、ビジネスはもとより一般の社会生活にも大きな変革をもたらすと教えられていたのです。もともと私はパソコンマニアだったので、そのころすでにeメールやインターネットを利用していましたが、そのような考え方は私も想像したことさえなく、非常に衝撃的な経験でした。
それと歩調を合わせるように、1994年、米国では「Netscape」というブランドが設立され、初めて一般の人の利用を前提としたウェブ・ブラウザが普及し始めます。その12月には検索サイトの「Yahoo」がサービスを開始しました。1994年はまさにアメリカでのインターネット元年であり、それまで限られた人しか使用していなかったインターネットが爆発的に普及する下地ができた年といえます。これらが転機となって、いわゆる“IT革命”が起こるわけです。
このように、米国では大変な勢いでインターネットビジネスが立ち上がりつつあったわけですが、1995年に帰国した時、日本では何も始まっていなかった。当時、唯一あったのがインターネット電話帳ともいえる企業名とURLをリストした「NTTディレクトリ」だけでした。私はITというものの潜在的な威力を米国で学び、これはすごいことになると考えていましたから、帰国後すぐに誘われたインターネット関連のベンチャー企業に取締役副社長として就任したのです。この企業のビジネスモデルは、広告を表示することでインターネットの接続料金を無料にするという画期的なものであり、1996年のニュービジネス大賞を受賞するなど業界から絶賛され、ユーザーからも圧倒的な支持を受けたのですが、次第に資金繰りが悪化し失敗に終わります。そんな時、NTTドコモから誘われたのです。
1997年10月の時点で、NTTドコモの携帯ユーザーは1,500万人に達しており、その後も驚異的なスピードで増え続けていました。しかしこのままでは近い将来、普及率の限界があるとわかっていたんですね。また当時の携帯電話は、あくまで「電話」としての機能が優先されており、音声通話サービスだけではこれ以上の展開は望めない。そこで新たなビジネスとしてデータ通信、要するに“携帯電話でインターネットを利用すること”に目を向けたのです。
しかし社内では、「そんなサービスを作っても売れるわけがない」という意見が大勢を占めており、その新規プロジェクトを任されたリーダーが考えたことが、「新しいビジネスを成功させるためには、外部の人間が必要だ」ということでした。そこで私に声がかかったというわけです。その新規プロジェクトこそが「iモード」のプロジェクトなのですが、それ以降、NTTドコモに在籍していた11年間に、私はFOMAの再生と、おサイフケータイの立ち上げを主導しました。
2008年6月にドコモを退社したのですが、そのきっかけとしては、iモードを立ち上げて携帯電話によるインターネット利用を社会的インフラとして定着させ、第三世代携帯電話であるFOMAの普及により、日本の携帯電話のレベルを一気に底上げすることができたこと。それに、おサイフケータイでは、財布の中身全部、もしくはそれ以上の要素を一台の携帯電話に詰め込むことも形にした。そこで、さて次は何をやろうかと考えたとき、「ドコモの一役員としてやるべきことは、すべてやり尽くした」と感じたのが大きな理由です。
私は、“会社に長く籍を置き、社内での地位を築くことを働く目的とする”のではなく、会社の利益のため、しいては“社会の発展のため”に会社や組織をツールとして利用すべきだという信念を持っています。NTTドコモを辞めたときも、ドコモではやり尽したけれども、もっと別の場所に私の能力を最大限に活かすことができて、なおかつ社会に貢献できる仕事があると考えたからです。
例えば、インターネットの普及が爆発的に進んだとはいえ、eコマースの割合は民間最終消費支出300兆円のわずか2%の6兆円にとどまっています。また広告費においては、6兆円のうちインターネット広告は8,000億円にしか過ぎません。企業活動を見てもICTを生かせる部分はまだまだあるにもかかわらず、生かしきれていないのが現状です。
さまざまな企業の役員や大学の教授を引き受けているのも、そのほうが社会に対する発信力が大きいと考えてのことです。「World Wide Web Consortium(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム)」はウェブ技術の標準化団体ですが、そのボードメンバーは今まで欧米人だけで構成されていました。そのボードメンバーに、昨年アジアで初めて私が選挙で選ばれ、HTMLの標準づくりなどに参画しています。最近ではダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)などにも呼んでいただけるようになっています。そのような場所で、日本がいかに進んでいるかということを世界に対して発信するのも私の重要な役割だと考えていますから、チャンスがある限りいろいろなところに出ていって、どんどん発言していこうと思っています。
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