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『風の谷のナウシカ』以来、『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『崖の上のポニョ』など、数々の大ヒット作を生み出してきたスタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫氏。高畑勲氏と宮崎駿氏という両巨匠を動かし、映画製作ともなれば1000人以上のスタッフを束ねることになる。日本映画界を代表するプロデューサーは、いったいどのような方法で人とかかわり、人を動かすのか。そのコミュニケーション術について伺った。
※本稿は、『ビジネスアドバンス』第71号(2010年1月8日発行)に掲載された内容を拡大・再編集したものです。
やはり、高畑勲と宮崎駿という二人の作家との出会いが大きかったことは確かです。はじめからお話しすると、僕は1972年に徳間書店に入社し、週刊誌の記者としてスタートしました。物を書くことには自信がありましたし、人に会って取材することも、やってみると面白い世界でした。その後、アニメ雑誌の編集部へ異動となり、その取材で高畑さん、宮崎さんに出会い、映画製作の世界に入ることになります。
はじめは二人ともインタビューを受けてくれなくて、高畑さんも宮崎さんも「どうせくだらないことを聞きたいのでしょう」「そんなくだらない雑誌にコメントはできない」などと平気で言うのです。雑誌のインタビューといえば、普通はみんな喜んで受けてくれるのに、全然相手にしてくれませんでした。当然僕も頭にきましたよ。でも同時に「こんなことが言えるなんてすごいなあ。かっこいいなあ」と思えた。「ジーン」ときちゃったわけです。
もうひとつ、二人に惹かれた理由をお話しすると、僕は心のどこかで“兄”という存在を求めていたのだと思います。いきなり二人現れちゃったわけですが、出会ったときに何か予感のようなものがあったことを覚えています。求めていた「信頼できるお兄ちゃん像」に二人が重なったのかもしれませんね。
僕たち団塊の世代は、世の中に対して幾分斜に構えたり、格好をつけたり、少しひねくれてみせたりするようなところがあって、僕にもそういう部分はありました。しかし、そういう部分をこの二人にぬぐい取られてしまったような気がします。二人とも僕よりも年上なのに、びっくりするくらいに素直なんですよ。
それまで僕は、仕事が終わると新宿に行って、朝まで遊んで、そのまま会社に行くような生活でした。ほとんど毎日がそういう生活。ところが二人と出会って、二人に追いつかなくちゃいけないと思うようになって、生活が一変しました。“酒とバラの日々”をピタッと止めて、二人と付き合う時間に費やした。というよりも、二人と付き合っていると、他の人と付き合う時間がなくなってしまった、というのが正しいかもしれません。
二人はともかく何でもよく知っているんです。あるとき、宮さん(宮崎駿氏のこと)から農業問題について「どう思うか?」と聞かれて、「よく分からない」と答えると、中尾佐助の『栽培植物と農耕の起源』を挙げて、「鈴木さん、読んでいないの?」と言う。僕が「読んでいない」と言うと、いきなり「無知ですね」と……。カチンときましたよ(笑)。それからは、二人と付き合うために片っ端から本を読み、映画を観ました。二人と話したことも全部ノートに書き取って、さらに家に帰ってから清書していました。とにかく二人の知識や教養というものに追いつこうとしたのです。30代の前半くらいの頃ですが、いま思えば、一番勉強というものをした時期ですね。
また『ルパン三世 カリオストロの城』をつくった後で、宮さんのこれまでやってきた仕事をまとめてみたときのことです。宮さんの場合、経歴や年齢の割には作品数が少ないので、本人に言ってみたのです。すると憮然として一言、「選んできましたから」と言う。世の中はみんなやみくもに仕事をしているというのに、すごいでしょう。こういうことを言ってみたいですよね。以来僕は、あれもこれもやるよりも、仕事を選ぶということを考えるようになりました。
鈴木氏は取材の中で、宮崎駿氏について次のような話をしてくれた。『ハウルの動く城』をつくったときのエピソードである。
「宮さんが僕のところにやってきて、『鈴木さん、今度はラブロマンスをつくりたいんだ』と言う。『ああ、いいですね』と僕が返すと、『どうやってつくるんだっけ?』となってしまう。僕が『出会いがあって、蜜月があって、ちょっとした食い違いがあって、最後はそれを解決する』というように、大まかなストーリーの流れを話すと、宮崎氏は大まじめに『なるほど、そうか』と感心しているんですよ」
「宮さんは、ひとつの作品を作り上げてしまうと、すっかり元の状態に戻ってゼロになってしまう。本当にこの作品をつくった人なのか?というくらい別人になってしまうんですよ。そして次の作品をまたゼロから作り始めるんです。」
鈴木氏曰く、次の作品のためにスイッチを入れて『宮崎駿』を再起動させるにはとても時間がかかるのだそうだ。
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