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Jリーグチェアマンから日本サッカー協会会長、今は名誉会長を務めるサッカー界の重鎮、川淵三郎氏。愛称は今も会長時代と同じ「キャプテン」だ。強力なリーダーシップを発揮して、これまでさまざまな現場を率いてきた川淵キャプテンから見た「強い現場力」とは何なのだろうか? じっくりとお話を伺った。
※本稿は、『ビジネスアドバンス』第70号(2009年10月15日発行)に掲載された内容を拡大・再編集したものです。
まず考えることは、1つの方向に向かって皆が力を合わせて、目標に向かって進んでいこうという単純なことです。その目標は何なのかを、現場に十分理解させることから始まるのですが、はじめはなかなか理解できない人もいます。例えば、日本代表の岡田監督が「来年のワールドカップ南アフリカ大会でベスト4を目指す」と言ったときに、「ベスト4になんかなれるわけがない」と、ほとんどの日本代表選手は思ったでしょう。ところが岡田監督がキャンプのたびに「われわれにはそういう可能性があるんだ」「全員が一枚岩になれば達成できるんだ」と言い続けているうちに、選手も「そうかもしれないな」と思い、考え、努力するようになるわけです。ある日突然言っても、皆がその方向を向くということはほとんどありません。だから言い続けていくことで、皆がその気になり、信じていくようになる。そのためのトップとしての、そのことを語る意志の強さや、それを言い出した理由などを納得させて、はじめてその気になるのです。
また、あまりに突拍子もなく、例えば「ワールドカップで優勝しよう」と言ったって、「そうできたらいいな」とは思うけど、だれもその気にならないでしょう。ところが、2002年のワールドカップでは、日本と実力が伯仲する韓国がベスト4に入りました。それに、日本も1999年のU-20ワールドカップで小野や高原、遠藤の世代が準優勝しています。そういうことを考えると、「ベスト4」という目標も少し真実味を帯びてくる。それはもう、生っちょろい努力ではそこへたどり着けないことを選手は一番分かっています。したがって、そういう目標設定をして、全員を引っ張っていく、選手に努力をさせる信念と強い説得力がないと、その方向には進まないと思います。
もちろん目標の立て方も重要です。例えば次のワールドカップでは「予選リーグ突破」というのが一番現実的な目標ですが、誰もが設定する目標でもある。岡田監督は、初出場となった1998年のフランスワールドカップでは、1勝1敗1引き分けで予選リーグを突破するという目標を立てました。しかし、4大会連続4度目となる今回のワールドカップは前述した様々な要件を考慮し、「ベスト4」を目標に掲げたのです。ここに来て「予選リーグ突破」という最低限の目標では、そこへの努力、普段の努力もそういうレベルになってしまうでしょう。とはいっても、いきなり「優勝」では非現実的すぎてはじめから諦めてしまいます。ですから「相当な努力を続ければ、何とか達成できるかもしれない」という手が届くか届かないくらいの目標を設定するのもリーダーの能力のひとつです。安易な目標設定をして、少しの努力、あるいはその時の運や巡り合わせで努力しなくてもそうなってしまうようでは意味がありません。そこがリーダーとしての能力が一番問われるところだと思います。
私がこれまでのサッカー人生でやってきたことを振り返ってみると、「Jリーグ百年構想」や「キャプテンズ・ミッション」といった様々な施策を策定してきました。その際、その目標を理解し、自分の目標として絶対に達成したいと思ってくれる優秀な部下がいるかいないか、これが決め手です。この経験はたくさんあります。サッカー協会にきたとき、事務の手順や経理の処理、そのほかいろいろな整理の仕方を見る限り、組織としての体を成していないところもあった。業務の引き継ぎ書ひとつをとっても不十分でした。普通の会社なら当たり前のことが、できていなかったんですね。
引き継ぎ書というのはずっと引き継がれているから、会社の歴史を理解することにもつながります。しかし、「足りない部分を整理しろ」と言っても、責任者に整理する能力がなければ、いくらトップが言っても無理なんです。10人からせいぜい20人くらいの組織ならば自分が率先してできますが、組織が大きくなるとそうはいきません。
Jリーグもスタートのときはスタッフが総勢20人程度でしたので、私も担当者がやることを全部理解していましたし、細かいところまで指示できました。そのころが一番楽しかった時代です。しかし、組織がだんだん大きくなるにつれ、末端まで目が行き届かなくなる。これはしょうがないことなんですね。そうなってくると、リーダーが考えていることを理解し、それがこの組織のために絶対必要だという認識とそれを具現化しようという能力を持ったスタッフがいるかいないかで、仕事の進み方も達成度も違ってきます。「キャプテンズ・ミッション」が実行できたり、AFCチャンピオンズリーグを刷新できたりしたのは、そういうことをしっかり遂行できる部下がいたからだと思います。20人くらいの組織なら、トップがしゃかりきになってやって、何とかその方向に行けるでしょうが、100人もの組織になると絶対と言っていいくらい限界があります。責任者に自分の考え方を十分理解してもらい、常にコミュニケーションを取って、互いの意思の方向付けを確認することが大事です。
Jリーグのチェアマン時代から「小学校に芝生のグラウンドをつくる」という目標を持ち、JFAのキャプテンになってからは「キャプテンズ・ミッション」でそれを指針のひとつに掲げたのですが、担当者たちは私が「サッカーのために芝生のグラウンドがほしい」と言っていると思い込んでいたんですね。会議で話し合っている中で偶然それがわかり、「それは違うぞ、サッカーは関係ない。芝生の校庭を作るというのは、子どもたちがのびのびと外で飛び回る、跳ね回る、ひっくり返る、そういう場や機会を作ろうというものなんだ。外遊びをする環境が少なくなり、子ども達の運動能力や体力が著しく低下している。人間としての動物的機能が損なわれていっている中で、子どもたちが健全な心身を育む、そのために芝生のグラウンドが必要なんだ」と説明したわけです。すると本人も「あ、そういうことだったのか」と認識を新たにする。コミュニケーションの中で「思い込んでいたことが違っていたんだな」と分かるわけです。現場との意思の疎通がいかに大切かということが分かる一つの例ですね。
きれいな芝生があると、なぜか寝そべりたくなる。靴を脱いで座り込み、お弁当でも食べたくなる。これは人が開放的になるということだろうか。芝生は見た目にも美しいが、それだけでなく人に安らぎを与えてくれる。いわゆる「癒し」の効果がある。
こうした癒し効果もさることながら、既に校庭を芝生化した小学校や中学校、芝生の普及を推進するNPO法人などの報告・検証によれば、芝生にはさらに、もっと現実的な効果があるという。
例えば、「子どもたちの運動能力」に対する効果は顕著で、生徒の50m走の記録が飛躍的に伸びた学校も実際にある。また、冬場でも風邪も引きにくくなるなど、芝生の校庭は子どもたちの基礎体力の向上に役立っているようだ。また、芝生の上での運動は身体への衝撃が吸収され負担が軽減されるため、大きなけがをすることが比較的少ない。転んだとしても土のグラウンドに比べれば痛くないので、思い切ったプレーができる。サッカーならスライディングタックルを仕掛けることができるほか、何よりボールコントロールがしやすくなるのでドリブルなどの上達も早いそうだ。
このほか環境の面でも3つの効果が確認されている。一つ目は光合成による大気の浄化作用で、芝生は特にCO2の吸収量が高いといわれている。二つ目は水分を多く含む芝生は、“緑のカーペット”として日差しの照り返しを防ぎ、特に夏場は地表温度の上昇を和らげる効果もある。都市部のヒートアイランド現象を緩和させることにもつながるというわけだ。三つ目は砂塵の飛散防止と、雨による土壌の流出を防ぐ効果である。
土と人の間にあってさまざまな効果を発揮する芝生は、人にも環境にも優しい。子どもたちの情操教育や疲れた大人たちの癒しにも役立ち、私たちの暮らしを豊かにしてくれる。少しずつでも身の回りに芝生の環境が増えればいいと思うが、そのためには何が必要なのかを今後は考えていきたい。
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