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GUIDE 007 BCP(Business Continuity Plan)

パート1 今そこにある危機を回避するには?

1-1:BCPが必要とされている社会的背景

ここ最近、想定された規模をはるかに上回る自然災害が頻発しています。新潟中越地震、スマトラ沖地震といった大規模地震や、アメリカ南東部を直撃したハリケーン・カトリーナなどの被害の爪痕は、皆さんの記憶にも鮮明に残っていることでしょう。他にも火災や事故、SARS(サーズ)のような新型の病原菌ウィルスによる感染の拡大、さらにはコンピュータウィルスや不正アタックなどによるデータ破壊や情報漏洩、電力不足やシステム障害によるコンピュータネットワークの停止、そして「9.11」が象徴する国際的なテロ…。普段は平和な世の中でも、いつ何が起こるかわからないのが現実です。そのような非常事態に陥ったとしても、被害を最小限に食い止め、安全を確保しつつ迅速にビジネス環境を復旧し、業務を続けていく…。そんな「企業の底力」が今、急速に求められているのです。

不測の事態に見舞われても、業務をストップさせずに、ビジネスを継続させていくためのプラン。それが「BCP(Business Continuity Plan)」つまり「事業継続計画」です。企業を取り巻く環境が刻々と変化を遂げ、複雑化している現在、業務が停止した場合に及ぼす社会的影響もまた、複雑かつ深刻化しています。はからずもお客さま、取引先へかけてしまうご迷惑、マーケットシェアの低下、競合他社との関係、ブランドの失墜、そして従業員の生活の保障も重要な問題です。こうしたリスクを回避するために、BCPは今や経営戦略に欠かせない要素となっています。

また、BCPを策定し、速やかに事業を継続していくことは、災害や事故による被害だけでなく、コンプライアンス(法律遵守)の見地からも重要性が高まっています。
折しも今年の6月に、通称「日本版SOX法」と呼ばれる「金融商品取引法」が成立しました。SOX法自体は企業の内部統制の強化を目的としたものですが、セキュリティに対する取り組みや、従業員の教育・管理などもまた、広い意味で捉えればリスク回避の一環であり、企業が業務を適切かつ効率よく運用するためには欠かせません。そういう背景から捉えても、「事業を継続する」ことは企業に課せられた社会的責任であり、それを果たすための準備は万端なのか、厳しい目で見られるようになるでしょう。

そういった社会の動きを背景に、内閣府防災担当は「事業継続ガイドライン」第一版を、2005年に発表しました。大企業から中堅・中小企業までを対象にしたガイドラインで、BCPを速やかに実践するための6つのステップがまとめられています。具体的には、「方針」「計画」「実施および運用」「教育・訓練」「点検および是正措置」「経営層による見直し」の6項目なのですが、ポイントはこれらを「繰り返し行う」ように推奨しているところ。これは日本企業が得意とする、継続的改善の考え方を取り入れ、何もかも一気にやるの ではなく、「点検と是正」→「教育と訓練」→「見直し」を繰り返すことによってBCPの精度を上げ、スパイラルアップを図ることを狙いとしています。

日本は昔から地震や台風などの自然災害を数多く被ってきました。その経験を活かし、「防災」に対する意識は世界の中でも進んでいると言われていますが、地震なら地震、水害なら水害というように、起こりうる災害を想定し、その災害ごとに対策を講じている企業が多いようです。しかしながら、過去の災害経験の豊富さゆえか「相手は自然。被災後の対策は、被害に遭ってから考えよう」という受け身的な考え方もあるようです。

しかし、たとえ非常事態であっても事業を継続していくためには、「被害に遭ってから考える」という考え方では遅すぎます。自然災害だけでなく、事故、人為的なミスや犯罪など、「あらゆる資産に対するリスクを想定し、それぞれの場合の対応についてリスクを評価しておく」といった欧米的な考え方は、大いに学ぶべき点があります。

アメリカ同時多発テロ事件(9.11)は、私たちの記憶に深く刻み込まれました。飛行機が世界貿易センタービルに激突した、あのショッキングな事件が起こった直後に、同じ敷地内のビルにあったニューヨーク商品取引所のシステムは完全破壊。すべての取引が停止しました。しかし、復旧にかかった時間は僅か半日。当日の20時には、取引が再開可能となっているのです。甚大な被害を受けたにもかかわらず、こんなにもスピーディーに復旧したのは、BCPが徹底されていたからに他なりません。

しかし、最初からBCPがうまく機能していたわけではありません。1993年、世界貿易センタービルの地下駐車場で爆破事件が発生した時は取引再開までに2週間以上もかかってしまいました。過去の経験と教訓を生かして、今のBCPがあるのです。

1-2:BCPの具体例(1) 〜大企業におけるBCP〜

では、日本企業はどのようにBCPに対して取り組んでいるか、具体的に見ていきたいと思います。昨年、三菱総合研究所などが実施したアンケートを見ると、BCPを導入している大企業は全体の2割程度という結果になっています。中小企業まで含めると、BCPに対する認識の浸透度合いや導入への温度差はそれぞれで大きく異なっているのが現状です。しかし、なかには着実に対策に取り組んでいる企業もあるのです。

日本政策投資銀行 政策企画部が作成したレポート「事業継続(BCP)を巡る動向と今後の展開」によると、花王株式会社(本社:東京都中央区)では、10年以上前からBCPを構築し、少なくとも年に1回は訓練を行っているとのこと。1999年に創設したリスクマネジメント室を中心に、リスクの予防・抑制、リスクが発生した場合の危機管理に重点を置き、計画やマニュアルの見直しを行っています。
リスク回避の一環として、同社が策定しているBCPの大きな特徴は、主要製品の生産拠点を東西に分けているところでしょう。たとえば、洗剤なら和歌山と川崎というように、どちらかが被災した場合でも、瞬時に応援態勢がとれるシステムを作り上げているのです。さらに、主要製品の原材料の購買先も2社以上を原則とするなど、仕入れ先が被災した場合のことまで考慮に入れているあたりは、さすが大企業ならではの対応と言えるでしょう。

また、沖電気工業株式会社(本社:東京都港区)は2005年から強い地震の初期微動(P波)を関知し、主要な揺れ(S波)が来る前に工場プラントからの危険なガスや薬品の流出を止める新システムを運用。富士通株式会社(本店:神奈川県川崎市)のように半導体工場では世界で初めて免震工法を採用した生産工場を三重県に建設するなど、地震対策に力を入れている企業も出てきています。

1-3:BCPの具体例(2) 〜中堅・中小企業が抱えるBCPの諸問題〜

しかしながら、日本国内の全ての企業が、このような万全なBCP対策を取れるわけではありません。BCPの徹底は、資産も体力も十分にある大企業だからこそ可能であるのが現状であり、また、世界規模の大企業であれば、その機能がストップした時の影響を考えると、多くの資産やリソースを使ってでも備えを万全にしておかなければならないという社会的な責任もあります。しかしBCPを継続して実施・運用していくことは、莫大な費用がかかるため、大企業のように徹底した対策を立てることが体力的に難しい中堅・中小クラスの企業だと「いつ来るかわからない」「来ないかもしれない」リスクに対して、それだけの投資ができるか?という根本的な問題が発生してくるのです。リスク回避も大切ですが、そのために本業に影響が出ては本末転倒です。かといって危機管理対策をまったく講じないわけにもいきません。どうしたらいいのか、頭を痛めている経営者も少なくはないでしょう。

そこで、中堅・中小企業に特化したBCP対策の一環として、中小企業庁が打ち出しているのが、「中小企業BCP策定運用指針」です。

基本・中級・上級と3つのコースがあり、最も身近で最低限必要とされるBCPから、複数の企業や地域と一体となって取り組む上級BCPまで、わかりやすく解説してあります。「入門診断」などもありますので、まずはこのガイドラインを参考に、最初の一歩を踏み出すのもいいでしょう。たとえ小さな一歩でも、着実にBCPの実現に近づいていけるはずです。

たとえば、事故や災害など不測の事態が発生した場合、まずは従業員の安否確認が必要ですが、何も対策を打っていなければ、相当な時間がかかってしまいます。さらに取引先や家族への事情説明もしなければならないとなると、その混乱ぶりは目に見えるようです。
そうならないためにも、緊急連絡網を作っておく、安否は各自、災害時伝言ダイヤル(※171:災害発生時などで被害地の方との連絡・安否確認ができる声の伝言板)に入れておくなど、ちょっとしたルールを事前に作っておくだけで、後の対応がぐっと違ってきます。「BCP」と言われると、最初から大層なものを作らなければならないかのように身構えてしまうかもしれませんが、まずはこういった足元を固めるような作業を始めることが大切なのです。それから業種、事業の規模に会わせた「自分サイズ」のプランを作っていけばいいのではないでしょうか。

「BCPの大切さはわかった。でも、どうも今ひとつ、具体的なイメージがわかないなぁ…」という方は、「BCPの有無による緊急時対応シナリオ例」を、チェックすることをお勧めします。対策なしと対策ありとの違いがわかるようになっています。まさに「備えあれば憂いなし」なのだということが、すんなりと納得できるのではないでしょうか。

Title : BCPの有無による緊急時対応シナリオ例

製造業(地震災害) の場合

BCP導入なし企業 BCP導入済み企業
想定
  • ・自動車用部品等のプレスメーカー(従業員30名)。
  • ・平日早朝、大規模地震が突発発生、県内の広い範囲で震度6強を観測。
当日
  • ・工場では全てのプレス機が転倒。
  • ・ほとんどの従業員の安否確認ができず。
  • ・納品先に連絡するが電話が通じず、その後、後片付けに追われ納品先に連絡せず。
  • ・工場ではアンカーを打っていたためプレス機の転倒は免れる。
  • ・伝言ダイヤル171で大半の従業員の安否確認ができる、伝言のない者については近所に住む従業員に自宅まで様子を見に行かせる。
  • ・納品先に連絡するが電話が通じないため、最寄りの営業所まで従業員1人をバイクで事情説明に行かせる。
数日間
  • ・従業員は家族の被災や地域活動のため半数が1ヶ月間、出社せず。
  • ・原材料の仕入元会社の工場が全壊、代替調達の目処が立たず。
  • ・1週間後、納品先の大企業から発注を他会社に切り替えたとの連絡あり。
  • ・従業員に対して日頃、耐震診断済みのアパートに住むよう指導していたので家族の被災を免れる。
  • ・大半の従業員が、3日間は地域活動に専念、その後1ヶ月間は2/3が出社するよう交代制をとる。
  • ・中核事業である自動車用部品の生産復旧に最優先で取り組む。
  • ・原材料の仕入元会社の工場が全壊するが、予め話をつけていた会社から当面の代替調達を行う。
  • ・プレス機械調整のため、協定どおりメーカーから技術者受け入れ。
  • ・3日後、納品先の大企業に、目論見通り1ヶ月で全面復旧可能と報告。
  • ・この間、納品先の要請で、他会社(金型が互換できるようプレス機の種類を予め統一)での代替生産のために従業員を派遣。
数ヶ月間
  • ・3ヵ月後、生産設備は復旧するも、受注は戻らず。
  • ・プレス機械の更新のため金融機関から融資を受ける。
  • ・会社の規模を縮小、従業員の7割を解雇。
  • ・手持ち資金により、従業員の月給、仕入品の支払いを行う。
  • ・同業組合から、復旧要員の応援を得る。
  • ・1ヵ月後、全面復旧し、受注も元に戻る。
  • ・損壊した一部プレス機械の更新は地震保険でカバー。
  • ・震災後、納品先の信用を得て、受注が拡大。

参照元:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」の「BCPの有無による緊急時対応シナリオ例」

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