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2011年8月31日公開

わが国観測史上最大のM9.0を記録した「東日本大震災」。震源域は岩手県沖から茨城県沖まで南北約500km、東西約200kmにもおよび、東北地方を中心に甚大な被害をもたらしました。
この災害により、NTTコミュニケーションズの通信網も、東京から東北方面をつなぐ一部が切断されたほか、仙台市にある東北支店のオフィスも機能不全に陥る事態となりました。
事業を継続していく上でもはや欠くことができないインフラともいえるネットワーク。NTTコミュニケーションズはその社会的責任を果たすべく、どのような活動を行ったのか。実際に被害を受けた東北支店と、ネットワーク早期復旧に向けた災害対策本部の対応をレポートします。
2011年3月11日14時46分、東京・大手町にあるオペレーションルームは激しい揺れとともに伝送装置の故障を知らせる警報が鳴り響いた。通常はグリーンで表示されている監視システムの画面は、すべて緊急表示を表すレッドに変わっている。もちろん伝送装置は冗長構成がとられており、一方にトラブルがあれば予備の設備・ルートに切り替わるが、今回の震災では、伝送装置の本番系と予備系の両系統とも切断されてしまったのだ。
これにより、企業向けVPNサービスである「Arcstar IP-VPN」や「e-VLAN」など、企業向けデータ通信サービスの最大約15,000回線が利用できない状況となった。
NTTコミュニケーションズ(以下NTT Com)では、関東から東北方面を結ぶネットワークとして「東北太平洋沿岸」「内陸」「日本海回り」の3つの回線ルートを保有しているが、このうち、東北太平洋沿岸ルートと内陸ルートで、本番系と予備系の両方の回線が切断された。阪神・淡路大震災や中越地震の際にはケーブル被害がなかったことを考えると、今回の震災による地殻変動がいかに凄まじかったかがうかがえる。
地震発生を受け直ちに設置された災害対策本部(第一非常態勢)の設備班は、即座に日本海回りのルートに切り換えて急場をしのいだが、すべてのトラフィックに対応するのは困難であり、残りルートの復旧を急ぐ必要があった。東北太平洋沿岸ルートは津波による甚大な被害が予想されたため、まずは内陸ルートの復旧作業を進めるべく故障箇所の特定に入り、同日中に大まかな故障箇所を特定した。翌12日には、NTT Comが災害対策用として年間契約しているヘリコプターにより現地入りし、近くにある局舎ビルから測定作業を行うこととした。しかし局舎ビルは機器類すべてが停止状態。予備電源のバッテリーも喪失する中で、作業班は懐中電灯の明かりを頼りに発電機を回しながら測定作業を行い、ついに故障箇所を特定することができた。
復旧方法については、地下ルートの構築は当然不可能なため、電柱を立てて仮の設備を構築することに決まったが、震災直後に果たして作業員が集まるのかどうかの不安があった。想像したとおり、東北地区にある工事を請け負う通信建設会社に電話が通じない。結局、仙台にある通信建設会社の事務所を直接訪ねて作業班の手配を依頼。しかし、その事務所でも作業員と連絡が取れない状況であったため、自動車で各戸を回ってようやく作業員を確保することができた。
こうして集まってくれた30名の作業員とともに、13日の午前中から復旧作業を開始。作業が終わったのは夜も更けた23時25分だった。
一方、日本と海外を結ぶ海底ケーブルも、アメリカへ結ぶ何本かの海底ケーブルや、中国・韓国を結ぶケーブルが切断されており、海外トラフィックに大きな影響が生じていた。そこで、三重県にある陸揚局へトラフィックを迂回させ、さらにケーブルの通信帯域を拡大するといった対応により、インターネットや国際電話のサービスの継続を図ったのである。
特定したケーブル断絶地点
ケーブル復旧作業に取り掛かる
宮城県仙台市若林区にあるNTT Com東北支店のオフィスも甚大な被害を受けた。地震発生当時、社員の約半数は外に出払っており、オフィスで勤務していたのは40人ほどだった。8階建てのテナントビルの7階と8階に入っていた事務所では、数分に渡って大きな横揺れに見舞われた。最初の激震ですぐに停電するも、揺れが収まった後マネージャーが中心となり、雪が降る中屋外の避難場所へ移動を開始した。
一方、出張のため東京にいた同支店の山本恭子支店長は、地震発生を受けてすぐさま安否確認システムにより社員の安否確認作業を行った。
「20時頃には8割程度まで確認できたのですが、着信側である社員の置かれていた状況や通信状態によっては、どうにもつながらない社員もいました。携帯電話やメールなど、あらゆる手段を使って連絡を取る中で、テレビからは衝撃的な映像が次々に飛び込んでくる。祈るような気持ちで安否確認を続けていました」。
山本が社員全員の安否をすべて確認できたのは、翌12日の昼ごろ。とにかく情報がなく、テレビ画面や、Twitterで発信されているメッセージをチェックするなどして、不安の中での24時間を送ったという。この経験から「常に誰がどこで仕事をしているのかを把握しておくことが重要だ」と山本は説く。社員がどこにいるのかが分かれば、震災後に「連絡が取れるかどうか」「いまどういう状況なのか」を判断しやすくなるからだ。
またBCPの基本ともいえるが、万一の場合の指揮命令系統の確立も痛感したと語る。「震災直後は現地と連絡が取れず、何が起きているのか分からなくてとても不安を感じました。このように現場に責任者がいない場合、誰が代わりに指示を出すかを決めておくことは非常に重要な事項だといえます」。
被災後の東北支店8階エントランス
ロッカーが倒れた8階オフィス
災害対策用のヘリコプターに同乗することができた山本が東北支店に戻れたのは、全国の津波注意報が解除された翌日の13日であった。支店長不在の中、一人の被害者を出すことなく現場を指揮したマネージャーや社員たちとの再会を喜んだのもつかの間、想像以上の被害に山本は絶句する。
「オフィスは当然停電していて、パソコンや什器類は全てなぎ倒されていました。さらに天井から漏水が発生していたため、電力が復活してもブレーカーを上げられなかったのです。そこで急遽NTT Comの通信設備が入っているビルに移り、臨時のオフィスを立ち上げました」。
しかし、自宅が被災している、あるいは交通網が動いていないなどの理由により出社できない社員も多いことから、山本は原則として自宅待機を命じ、最小限の人員で社員やその家族の状況の把握に努めた。当然、お客さまからの問い合わせも受けなければならないが、充分な対応ができない。そこで東京の本社に協力を要請し、外部からの電話を東京の別拠点に転送して代行対応する体制を整えた。
被災時に業務継続を考える際、オフィスの復旧作業とお客さま対応を同時に進めなければならないが、限られたリソースの中で両方をこなすのは現実的には難しい。そこでお客さまからの問い合わせについては、被害を免れた別の拠点で対応することにより、災害直後からの対応を可能にしたわけだ。
今回の経験から、山本は「オフィスが被災した際、すべて自分のところで抱え込んでしまうのではなく、初期の段階では一部の作業を遠隔地の拠点に代替してもらい、徐々に通常業務に戻していくという段階的な対応が現実的だ」と話す。
臨時オフィスでの業務を続けつつ、元のオフィスの復旧も急いだ。翌週の22日には基本的に全員出社として、業務を再開しようと考えていたからだ。とはいえ、家庭の被災事情や交通網の問題から出社できなくなるケースもまだ充分に考えられる。そこで、在宅でも業務を進められるリモートデスクトップツールの数を増やし、社員全員が在宅勤務することのできる体制も整えた。
「出社できたのは6〜7割程度の社員だったが、リモートデスクトップツールのおかげで業務に大きな支障が出ることはなかった」と山本は話す。リモートデスクトップツールであれば、ネットワーク環境と接続先のサーバーやクラウドに問題がなければ、オフィスが被災しても業務を継続できる。
業務を再開した支店では、被災したお客さまの現状確認と復旧対応が本格的に始まる。震災から1週間以上が経過したこの頃には、被災した企業でも業務復旧に向けて動きだしていた。一方、お客さまからも「回線はいつ直るのか」「代替手段でも構わないので早く復旧させてほしい」という要望が入り始める。これについても東京のオフィスと連携を図りながら対応していたが、そもそもアクセス回線が被災していては復旧することができない。そこでアクセス回線としてモバイル回線を利用し、ネットワークに接続するなどのさまざまなアイデアを出しながら、何とかお客さまのインフラを復旧できる道を探った。このように困難な状況でも、東北支店はお客さまの復旧サポートを精力的に行っていく。5月初旬には震災前から計画していた新しいビルに移転。ここでようやくICT環境も含めて東北支店は完全復旧を果たした。
今回の災害を経て「改めて災害時の体制作りの重要性を認識した」という山本は現在、東北支店におけるBCP対策の練り直しを始めている。その中でも特に重要だと実感できたのは、安否確認とリモート環境でも業務ができるツールの準備、そして災害時に業務を代替してもらう仕組みだ。
「今回は電話を東京に転送してお客さまからの問い合わせに対応しましたが、支店間の相互応援体制も有効だと思いますし、万が一東京が被災した場合はどこで代替するかも検討しておく必要があると考えています。さらに電話対応だけでなく、その後の業務フローも検討しておくべきではないでしょうか」。
従来のBCPの想定を大きく超えた東日本大震災。大規模災害を経験した今「BCP対策のさらなる強化」は企業にとって喫緊の課題といえるのではないだろうか。
お客さまのネットワーク環境を復旧させる上でネックとなったのは、アクセス回線の復旧が思うように進まなかったこと。NTT Comのサービスが復旧していても、そこに接続するためのアクセス回線が使えなければ通信することはできない。ただ、それでも「お客さまのビジネスを復旧させたい」という思いで、東北支店は代替手段を含めさまざまなアイデアを出していった。その最たる例が、あるドラッグストアのチェーン店だ。
津波の被害によって店舗が使えなくなったが「物資不足解消のために仮店舗で営業を開始したい」という強い希望があった。営業を再開するためには、POSをネットワークに接続する必要があるが、アクセス回線は復旧していない。そこで3G回線に対応したデータカードと、それに対応したモバイルルーターを組み合わせて提供し、POS端末をネットワークにつなげることにした。お客さまの思いと、NTT Comができる現実解をすり合わせることにより、ドラッグストアの開店が実現した。
■企業における事業継続計画(BCP)策定をサポートするICTソリューションを「大地震への対策」「パンデミックへの対策」「対策のポイント」の対策に沿ってご紹介します。