『文学における原風景』
奥野さんはもう亡くなりましたが、東京工業大学を出た文芸評論家です。この本は奥野さんが、少年時代に育った東京・渋谷の町を振り返りながら、いろんな文学作品の中に見え隠れするその作家の“原風景”をたどる、異色の文芸評論集です。
彼は文学者の美意識や内的イメージ、深層心理といったものが、育った風土と密接な関係があるということをこの本で証明しました。実は奥野さんとは知り合いで、生まれた年も彼が5年ほど先輩とそう変わりません。また、私も渋谷にほど近い山の手でずっと育ちましたので、その環境もよく似ています。この本で奥野さんが語っているご自身の“原風景”と全く重なるわけですね。奥野さんと私とでは、同じ風景を語るにしても文芸評論と都市計画という具合に、そのアプローチは全く違うのですが、逆にそれだからこそこの本に共感できる部分がたくさんありました。自分が育った都市や町というのは、大人になっても離れがたく脳裡の片隅に刻印されている。町づくりを担う者としては快適さや便利さを追求するだけでなく、風景が人に与えるこういう“情緒性”も大事にしなければならないと、あらためて思い知らされた作品です。
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