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取材の舞台裏


このコーナーはBusiness ADVANCEの取材を通してのこぼれ話や裏話など、記事では紹介していないサイドストーリーをお伝えしています。今回は、Slow Time冊子版でもご紹介した、フライフィッシング専門『ハーミット』の取材レポートをお届けします。


フライフィッシングの幸せ


静かであることを学べ!

 “隠遁(いんとん)”といった意味を持つフライフィッシングの専門店『ハーミット』は喧噪の町から隔たるように、表通りから外れた通りにあります。まるで、釣り人のバイブルとして有名な『釣魚大全』の一節「静かであることを学べ」を実践しているかのようで、店構えも控えめといった風情。
 ところが一歩店内に踏み込めばそこは別天地で、ロッドが並び、フライライン、リール、ランディングネット(かかった魚をすくう網)、さらにはフィッシングバックと、所狭しに置かれた数々の用具を目にすれば、フライフィッシャーならずとも心躍ります。フライフィッシング未経験ながらも、憧れに近い期待感を抱きつつ“静かに”ドアを開けてみました。

『フライロッド』は、長さの違いやしなり具合の違いで、使い勝手が大きく変化。渓流や湖などの用途に応じて、さまざまな種類があります。
『フライロッド』は、長さの違いやしなり具合の違いで、使い勝手が大きく変化。渓流や湖などの用途に応じて、さまざまな種類があります。

キャスティングに必要なラインを引き出し、余分なラインを巻き止めておくために使う『フライリール』。趣味が嵩じて、金属ブロックから削りだし、自作するフライフィッシャーもいるとのことです。
キャスティングに必要なラインを引き出し、余分なラインを巻き止めておくために使う『フライリール』。趣味が嵩じて、金属ブロックから削りだし、自作するフライフィッシャーもいるとのことです。



ドライ・フライでスリリングな一瞬を味わう

 取材に先立ち、まずはともあれフライフィッシングの経験が全くない胸を伝えると、オーナーの稲見さんは笑みを浮かべて話を切り出しました。
 「現在、フライフィッシャー人口はわずかに6万人ほどでしかありませんし、ここ十数年来、増減はほとんどないのが現状です。ある意味、非常に狭い世界なんです」。
 ちなみにフライフィッシングの第1世代は今、70代を迎え、徐々に釣りそのものからも遠ざかる中、30代、40代の第2世代が増えています。フライフィッシャーの間でも世代交代が進んでいる、というわけです。
 かような状況でありながら、また、さまざまな釣りが選択できる中で、フライフィッシングに魅了されるのはなぜでしょう。
 「たいていのフライフィッシャーは餌釣りから始め、ルアーを経てフライフィッシングにたどり着くという方が多いんです。そこには投げ釣りや餌釣り、そしてルアーとは違ったスタイルが存在しているからではないでしょうか。より探究心を求めて、ということかもしれません」と前置きし、「フライフィッシングは水中の見えない魚を釣るのではなく、水面下で見えている魚を釣るのが醍醐味のひとつ」と、その魅力を説明します。
 特に、フライを水面に浮かせて釣る“ドライ・フライ”での釣りはスリリングで、エキサイティングだともいいます。「何しろ、魚がガバッと顔を出し、フライに食らいつく野性的瞬間を目にすれば、誰もが興奮し、アドレナリンがどっと吹き出すはずです」と、目を輝かせる稲見さん。そのためか、フライフィッシャーの8割以上がドライ・フライでの釣りを楽しんでいるそうです。
 「慣れないうちは、その瞬間に固まってしまい、合わせることすら忘れて見とれ、バラしてしまうことも度々。経験者でさえそうですから、釣りを全くしたことのない未経験者はなおさらでしょう。いきなりフライフィッシングを始めるのは大変ですが、一つひとつステップを踏んで、最初の1匹を釣り上げたときの歓びは、それこそ何物にも代え難い歓びを味わわせてくれるはず」と、断言してくれました。

人気コミック『釣りキチ三平』に夢中になった世代の稲見さん。餌釣りやルアー、ミニチュアの釣りとして知られるタナゴ釣りまで何でもやってきました。海外でのフライフィッシング経験も数多く、取材後はメキシコへ出かけるそうです。
人気コミック『釣りキチ三平』に夢中になった世代の稲見さん。餌釣りやルアー、ミニチュアの釣りとして知られるタナゴ釣りまで何でもやってきました。海外でのフライフィッシング経験も数多く、取材後はメキシコへ出かけるそうです。
透明のフライボックスに整然と並んだ『市販のフライ』。アクリル製や金属製のフライボックスにいくつもの種類を入れて、フィールドに携帯します。
透明のフライボックスに整然と並んだ『市販のフライ』。アクリル製や金属製のフライボックスにいくつもの種類を入れて、フィールドに携帯します。



工夫次第でいろいろなことが楽しめる

 フライフィッシングの魅力は、何も魚を釣る行為だけではありません。むしろ、その準備にこそ大きな楽しみがあるようです。
 「当日の釣果を期待しながらフライを巻く。やおらリールを手にしてラインを引き出したり、巻き取ったりして、『ジャー』という特有の音に聞き惚れる。ロッドを振る真似をする。夜のふけるのも忘れてしまいそうで、そばにウイスキーやバーボンがあれば、なお嬉しい」と相好を崩す稲見さん。
 こうなると、まるで遠足を前日に控えた小学生。もちろん、いつも釣れるとは限りません。そんな時は、釣れなかった悔しさを胸に、至らなかった課題を清く反省し、次回に臨みます。ところが、いくら対策を練って、勇んでフライを振っても、アタリさえない時もあるそうです。
 「先週飛んでいた虫はすでに消え、違う虫が飛んでいることも多いんです。また、魚が好む虫を見当違いしている場合もあります。そんなときのために、ぜひ何種類かのフライを用意しておくことをお勧めします」と、稲見さん。まさに備えあれば憂いなし、といったところでしょうか。

『タイイング(フライの自作)』は、フライフィッシングを楽しむ重要な作業のひとつ。自分でフライを巻けば、フィシングに必要なノット(結び)を覚えることもできます。
『タイイング(フライの自作)』は、フライフィッシングを楽しむ重要な作業のひとつ。自分でフライを巻けば、フィシングに必要なノット(結び)を覚えることもできます。
揃えた毛を丁寧にカットする。フライを巻くにあたっても、一つひとつの段階があり、それなりに根気が必要なのです。
揃えた毛を丁寧にカットする。フライを巻くにあたっても、一つひとつの段階があり、それなりに根気が必要なのです。



永遠に幸せになりたかったら…

 たいていのフライフィッシング専門店では、フライフィッシャーの技術向上などのためにキャスティングスクールや、釣行ツアーといったものを実施しています。
 「『ハーミット』ではそのほかに、不定期ながらガイド付きのフライフィッシングツアーも実施しています」と稲見さん。これは、キャスティングや釣りのノウハウをほぼマンツーマンで教えてもらえるうえに、車での送迎付で渓流や湖でフライフィッシングを満喫できる、という贅沢な企画。ただし、乗車定員があるため、4〜5名ほどの参加と限られてはいますが、1人あたり2万円程度の予算で体験できるといいます。
 中国では、「1時間、幸せになりたかったら酒を飲みなさい。3日間、幸せになりたかったら結婚しなさい。永遠に幸せになりたかったら釣りを覚えなさい」という古諺(こげん)があるそうです。巷では“難しい”といわれるフライフィッシングですが、フィールドに出る前に公園や空き地などでキャスティングの練習をし、フライフィッシングに必要なノット(結び)を覚えるなど、工夫次第でいくらでも上達できます。狙った獲物が自作のフライに食らいつく瞬間を実感できるのは、まさにいくつかのハードルをクリアし、ステップアップした者だけに与えられる“特権”なのかもしれません。
 「急がば回れ」といいます。遅ればせながら、私もチャレンジしてみようかと思っていますが、皆さんはいかがでしょうか。

 
マテリアルはフライのパーツを作るための素材のこと。鳥の羽から熊の毛まで、実にいろいろな素材を組み合わせて、千差万別の疑似餌を作るのです。
マテリアルはフライのパーツを作るための素材のこと。鳥の羽から熊の毛まで、実にいろいろな素材を組み合わせて、千差万別の疑似餌を作るのです。



【監修・写真協力】
フライフィッシングショップ『ハーミット』
http://www.hermit-jp.com/index.html

 

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